“課題山積”パリ五輪 相次ぐテロに爆破予告…セーヌ川での開会式は大丈夫?「プランB」検討
2024年に開幕するパリオリンピック。注目は、フランスが威信をかける「セーヌ川での開会式」だ。史上初のスタジアム以外での式典となるが、相次ぐテロなどを受けて、安全面を不安視する声が高まっている。こうした中、フランス政府は警備を強化するため、軍の動員を決定。さらに、ここにきてマクロン大統領は、開会式を別の場所で行う「プランBがある」と発言。果たして“平和の祭典”の行方は…。
■五輪史上初 フランスが威信をかける「開会式」
24年7月26日に開幕する、100年ぶり、3度目となるパリオリンピック。新型コロナウイルスの感染拡大が終息し、2大会ぶりに全面的に観客を入れて開催されることになる。
スローガンは「広く開かれた大会」。その象徴の1つが、パリ中心部を流れるセーヌ川での開会式だ。選手らは船で川を約6キロにわたって航行し、エッフェル塔付近でセレモニーを行う。河岸や橋に無料でパレードを見ることができるエリアも設けられ、約60万人の観客が見込まれている。
最大の課題は「警備」だ。開会式では、4万人以上の警察官と憲兵が配備される。さらに、大会期間中は民間警備員約2万人が必要とされているが、大会関係者は23年11月23日、確保できたのは6000人程度にとどまっていると発言している。大会組織委員会のエスタンゲ会長は「安全面は万全だ」と自信を示すが、パリでは観光客を狙ったスリなどの犯罪が多いだけでなく、テロに対する不安も拭いきれない。
■相次ぐテロや爆破予告…警戒は“最高レベル”に
フランスは、ヨーロッパで最も多い約45万人のユダヤ人が暮らしているといわれていて、イスラエル・パレスチナ情勢を受け、テロ警戒レベルが最高に引き上げられている。しかし、ルーブル美術館やベルサイユ宮殿、空港などへの爆破予告のほか、開会式が行われるエッフェル塔付近では23年12月に、男が観光客を刺殺する事件が起きるなど、イスラム過激派によるテロが相次いで発生。治安の悪化が目立っている。
■セーヌ川での開会式「プランB必要」
セーヌ川での開会式だけでなく、エッフェル塔やシャンゼリゼ通りなどパリの名だたる観光名所が会場となる今大会をめぐっては、当初から広範囲で警備が難しく、テロの危険性が高いと指摘されている。23年10月には、開会式をめぐり、シドニーオリンピック柔道男子金メダリストでフランスの元スポーツ相のドゥイエ氏が「前日にテロの警戒レベルが最高になった際の代替案“プランB”が必要だ」と述べ、物議を醸した。
スナイパーや無人機での攻撃などの脅威もあるため、元警察幹部も「イスラエルやアメリカなどが、開会式で自国の選手が(セーヌ川の)船上で脅威にさらされるのを受け入れるとは思えない」と代替案の必要性を強調するなど、見直しを求める声が相次いでいる。
■“安全への不安”高まり軌道修正? マクロン大統領「プランBある」
フランス政府関係者が「プランB」を否定する中、マクロン大統領は23年12月中旬、テレビ番組のインタビューで「プランB」について初めて言及。開会式の直前に連続テロが起きた場合などを想定し、「潜在的な脅威が発生した場合のプランBやプランCなどが当然ある」と述べ、セーヌ川とは別の場所で開会式を行う可能性があることを明らかにした。安全面を不安視する声が高まっていることを受け、軌道修正を図ったとみられる。
さらに、フランス政府などは当初、開会式で10万枚の有料チケットと50万枚の無料チケットを配布する計画だったが、AFP通信によると、観客数が変更される可能性があり、無料チケットを30万枚に減らす方向で調整しているという。また、パリ警視庁のヌニェス警視総監は、大会期間中は大規模な交通規制を行うと発表。住民らは警察の検問を通過するため、登録と二次元バーコードを提示する必要があるとしている。
■軍を動員 パリに“兵士5000人”常駐へ
一方、民間警備員不足など治安対策が課題となる中、フランス軍は大会期間中に兵士約5000人がパリに常駐して警備に協力すると発表。競技が行われるパリ中心部から近い広場にテントを設営し、そこを拠点に活動するという。フランス全土では約1万5000人の兵士が動員されるとみられている。
■“課題山積”パリ五輪 テレワークの呼びかけも…一体どうなる?
悩みの種は警備だけではない。ウクライナ侵攻を続けるロシアとその同盟国ベラルーシの選手の出場をめぐって、ウクライナはボイコットの可能性を示唆している。
また、地下鉄などの交通網をめぐっては、パリのイダルゴ市長が23年11月、「準備が間に合わないだろう」と発言し、整備の遅れを認めた。混乱を懸念するボーヌ交通担当相はパリ市民に対し、大会期間中はテレワークや休暇を取得してパリから出るよう呼びかけるなどしている。少しでも移動する人の数を抑えたいとの考えからだ。
さらに、セーヌ川の水質汚染問題や膨らむ予算、大会組織委員会の契約をめぐる不正利得疑惑など、課題は山積している。
■五輪開催「支持」が21ポイント低下
こうした中、フランスの最新の世論調査では、オリンピック開催を支持する人は「56%」で、2年前の77%から21ポイント低下している。このほか、治安対策に73%、交通対策に81%もの人が懸念を示している。(23年11月12日発表、仏世論調査機関「オドクサ」)
マクロン大統領がオリンピックを「伝説的なイベントにする」とコメントするなど、成功は政権の悲願だ。フランス政府にとっても後戻りできない“史上初のオリンピック”。「花の都」での平和の祭典は、多くの課題を残したまま当日を迎えそうだ。