“選挙劣勢”米大統領強める「中国責任論」
■■ワシントン支局長の“気になるコトバ”■■
~~「中国は寝ぼけたバイデンを望んでいる」(4月30日)~~
トランプ大統領はよくあだ名をつけ、政敵を攻撃する。「スリーピー(寝ぼけた)・ジョー」は、バイデン前副大統領。一時、大統領選の有力候補だったサンダース上院議員には、「クレイジー(狂った)・バーニー」と連呼。レッテル貼りで容赦なく貶める。
今回の大統領による「中国は寝ぼけたバイデンを望んでいる」との発言は、4月30日、新型コロナウイルスの発生源について、中国・武漢のウイルス研究所から流出した証拠を「見た」と明言する文脈で語られた。ウイルス拡散の責任は中国にあり、その中国はバイデン氏を望んでいる。つまり、「バイデンは中国寄りの弱腰だ」とレッテルを貼っているのだ。
アメリカ大統領選まで半年を切った。現時点の各社の世論調査ではバイデン氏にリードを許している。大統領は今後ますます、ウイルス拡散の中国責任論を強め、「寝ぼけたバイデン」と結びつけていくだろう。ある世論調査によれば、ウイルス拡散の責任は中国にあると考える人は8割近い。大統領が、初動の遅れや「消毒液注射」失言に対する自身への批判の矛先を中国に振り向ける意図があることは間違いない。
トランプ政権は情報機関に対し、ウイルス発生源に関する調査を指示している。近く報告書が公表されるという。ただ、有力紙・ニューヨークタイムズは、政府高官が武漢ウイルス研究所からの流出の証拠を探すよう、情報機関に圧力をかけた、との複数の当局者の声を伝えている。仮に結論ありきで、調査が選挙キャンペーンへの利用、政治目的化しているようなら、これほど危険なことはない。かつて大量破壊兵器の歪められた証拠で、イラク戦争開戦に至った教訓が、アメリカ大統領の頭の片隅にあることを願いたい。
(ワシントン支局長・矢岡亮一郎)