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2度目の起訴でもなお根強いトランプ支持…「本選で勝てない」ジレンマと「消去法」の大統領選

2023年6月27日 18:00
2度目の起訴でもなお根強いトランプ支持…「本選で勝てない」ジレンマと「消去法」の大統領選

6月下旬、アメリカの首都ワシントンで、トランプ前大統領ら野党・共和党の大統領候補が揃って参加するイベントが行われた。現場の取材から見えたのは、共和党内でのトランプ氏への底堅い支持と、それがゆえに「大統領選で共和党が勝てない」というジレンマだった。(NNNワシントン支局 渡邊翔)

6月下旬、ワシントンで「多数派への道」と題された、野党・共和党系の団体が主催するイベントが開かれた。トランプ前大統領やデサンティス・フロリダ州知事、ペンス前副大統領ら、大統領選挙に出馬を表明している候補者がそろい踏みする、珍しいイベントだ。現場を取材して、各候補者の現状の勢いを比較した。

●変わらぬトランプ支持…一方で記者席に異変も

まずはイベントの大トリを飾ったトランプ前大統領。登場した際の会場の盛り上がりには、機密文書の扱いをめぐる2度目の起訴の影響を感じさせない「熱量」があった。今回のイベントはトランプ氏の集会ではないため、熱心な支持者以外の参加者もいたはずだ。それでも、2000人以上を収容する会場は演説中、たびたび歓声に包まれ、「USAコール」もあがった。

上機嫌で歓声に応えたトランプ氏は、13日に機密文書の事件で裁判所に出廷した直後と比べて、活力を取り戻したようにも見えた。「私はおそらく史上唯一、起訴されたのに数字(支持率)が上がった人物だろう」とアピールしつつ、機密文書の事件については、大統領に関する記録の扱いを定めた「大統領記録法」ではなく「スパイ防止法」に基づいて起訴されたことを「選挙妨害だ」と述べ、いつもと同じ反論を繰り返した。

会場の盛り上がりからトランプ支持の底堅さがうかがえる一方、演説を取材する記者席には「異変」が起きていた。テレビカメラの数の減少だ。5月にCNNがトランプ氏との対談を生放送して「主張を好き放題しゃべらせた」と議論を呼んで以降、主要メディアはトランプ氏の発言を生放送で伝えることはなくなっている。それでもトランプ氏の演説には海外メディアも含めて、多くの取材陣が集まるのがお馴染みの光景だった。起訴の影響なのか。断定はできないが、気になる変化ではあった。

●対抗馬の「トランプ批判」は控えめ…共和党が抱えるジレンマ

NBCが行った最新の世論調査では、トランプ氏が2度目の起訴後、共和党内のライバルとの差を広げ、支持をさらに伸ばす結果となった(トランプ氏51%、デサンティス氏22%、ペンス氏7%)。

一方で別の設問では、「トランプ氏以外の政治家が共和党を引っ張って欲しい」と答えた人の割合も50%に上っていて、トランプ氏支持(49%)と拮抗している。こうした中、対抗馬であるデサンティス氏やペンス氏が、どこまでトランプ氏を直接的に批判するのか。この点に注目して演説を聞いた。

まずは初日に登場したペンス氏。「トランプ大統領がこの国のためにしたことに、私は常に感謝している」と、トランプ政権の取り組みじたいは肯定しながらも「大統領と私には意見の相違があった」と明言。「選挙は未来のためのものだ。時が異なれば、求められるリーダーシップも異なる」と述べ、トランプ氏との決別を改めて強調した。また、ペンス氏は人工妊娠中絶をめぐり、妊娠15週以降の中絶を連邦レベルで禁止することを、共和党の大統領候補者らが「最低ライン」として公約するべきだと主張。自身の支持基盤でもある宗教保守層にアピールした。

一方のデサンティス氏は、初日のヘッドライナーとして登場。コロナ禍からの経済回復や教育政策など、自身の知事としての実績をアピールできる話題に演説の大半を割いた。トランプ氏への言及や批判は避けたことで、トランプ氏への対決姿勢という意味では物足りなさの残る演説だった。

デサンティス氏の側近のひとりは、トランプ氏への起訴が重なり、共和党支持者が「トランプ疲れ」するタイミングで、反トランプの姿勢を一気に鮮明にする戦略を描いていると語る。ただ、2度目の起訴でも、少なくともトランプ氏の岩盤支持層は離れる気配はない。まだ複数の事件で起訴されるリスクを抱えるトランプ氏だが、この側近は「次の起訴のタイミングが遅くなり、来年の予備選のスタートに近づくほど、トランプ氏に有利になって来る」とも指摘し、トランプ氏に勝つ難しさをにじませた。

今回のペンス、デサンティス両氏の演説は一定の盛り上がりは見せたものの、トランプ氏の演説のような「熱量」には、やや欠けた印象だった。会場では、トランプ氏を真正面から批判する演説をした別の候補者がブーイングを浴びる場面もあった。

ただ、前述のNBCの世論調査では、トランプ氏とバイデン大統領の対決を想定した設問で、トランプ氏(45%)はバイデン氏に(49%)に僅差で敗れる結果となっている。アメリカメディアや専門家の間では、2度目の起訴で無党派層がさらに離れることから「共和党予備選でトランプ氏が勝っても、本選挙ではバイデン氏に勝てない」という見方が依然、支配的だ。共和党が抱えるこの「ジレンマ」に、今のところ答えはない。

●バイデン氏身内にも刑事事件…高齢問題も重なり大統領選に漂う「消去法」ムード

一方で、共和党候補を迎え撃つバイデン大統領もぴりっとしない。6月には空軍士官学校の卒業式で、土嚢につまづいて転倒。別の集会では突然「女王陛下万歳」とイギリス人のようなコメントで演説を締めくくり、波紋を広げた。80歳という高齢への批判に格好の材料を与えた形となり、前述のトランプ氏の登場前に会場に流れた映像には、この2つの「最新映像」がしっかりと盛り込まれていた。

さらに20日にはバイデン大統領の次男のハンター氏が、故意に所得税を支払わなかった罪などを認めることで司法省と合意。こちらも共和党から「検察の決定に手心が加えられた」と批判され、マイナス材料になっている。

ある外交筋は、共和党・民主党どちらの関係者と話しても「バイデン氏とトランプ氏のどちらがより嫌いかという対決で、面白くない選挙だ」という愚痴を聞くと話す。

投票までおよそ1年4か月、大統領選は今のところ”消去法の選挙”の様相を呈している。

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