【解説】プーチン大統領、“記念日”演説で「勇気ある中国の兵士を大切にしている」――その意味は? 「原因は欧米」と責任転嫁
ロシアの「対独戦勝記念日」である9日、演説したプーチン大統領はウクライナ侵攻をめぐって「勝利宣言」「戦争宣言」も行いませんでした。それができなかった背景や、言いたかったことを考えます。演説では中国にもあえて触れましたが、その狙いとは―?
■軍事侵攻「成果」にも言及ナシ
有働由美子キャスター
「(戦勝記念日の9日に行われた)プーチン大統領の演説で、注目されていた『勝利宣言』や『戦争宣言』は、どちらもありませんでしたね」
小野高弘・日本テレビ解説委員
「勝利宣言どころか、これだけの成果があった、ということも一切触れませんでした。ロシア軍は今、ウクライナ東部に集中していますが、アメリカの政策研究機関の分析で2週間前と9日午前4時時点(日本時間)を比べると、ほとんど前進していません」
有働キャスター
「記念日なので、ウソでも『成果がある』と言い張るのではないかと思いましたが…」
小野委員
「それも難しい状況です。『ドンバス地方を解放する』と言っていたのに、『ここを解放した』『取り戻した』ということができていません。勝利宣言できるだけの成果にはほど遠いということです」
有働キャスター
「戦争宣言をしなかった理由は?」
小野委員
「本音では、『戦争状態だ』と言って国民を兵力として動員したいのではないかともみられていましたが、今、ロシア国民の中で軍事作戦に否定的な意見も増えています。国民を巻き込んでいけるような状況にはないと考えられます」
■「ロシアは先手を打った」と正当化
小野委員
「(演説で)プーチン大統領が最も言いたかったことは、『ウクライナにNATO(=北大西洋条約機構)から最新兵器が届いていた。だからロシアは先手を打って行動に出た』というものでした。つまり、ウクライナへの軍事作戦は、原因は欧米にあるのだと言っています」
有働キャスター
「ロシアから仕掛けたわけではない、とアピールしているのですね」
小野委員
「ただ、演説へは冷ややかな分析もあります。ロシア政治に詳しい、慶応義塾大学の廣瀬陽子教授は『プーチン大統領は、普段はしゃべり出すと止まらない印象があるが、それに比べると演説は短く、ボロが出ないようにしているのではという印象すらあった』と言います」
「さらに『ロシアの状況が良くないことを極力見せないよう平静を装っていた印象。戦勝記念日は国際向けにアピールする意味合いもあるのに、自分たちがやりたくもない戦争に巻き込まれたという、ほぼ100%国内向けの演説だったのではないか』と指摘しています」
■あえて言及…中国へのメッセージ
小野委員
「その中で唯一、廣瀬教授が『ここだけは海外向けだったのでは』と注目したのは、『勇気ある中国の兵士を大切にしている』という部分です。第2次世界大戦で共に戦った仲間として、アメリカやイギリスと共に、あえて中国について触れました」
「実はプーチン大統領が思っていたより、中国からの協力を得られておらず、『しっかり協力してほしい』という中国へのメッセージでもあるのではないかといいます」
「(侵攻は)長期化する可能性もあります。ただ、軍事的な攻略がうまくいかない中、既に制圧した地域で住民投票を行って独立させ、ロシアに併合するなどの強硬策に出るのでは、との見方もあります」
有働キャスター
「9日の演説で透けて見えたのは、いろいろな意味で軍事侵攻がうまくいっていないと、プーチン大統領自身がよく分かっているということでした。私の言葉は直接は届きませんが、改めて言います。大統領が今やるべきことは、すぐに軍事侵攻をやめることです」
(5月9日『news zero』より)