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タイ反政府デモ 3つの要求に異例の事態

2020年11月10日 18:22
タイ反政府デモ 3つの要求に異例の事態

タイで2020年7月から続く、学生らによる大規模な反政府デモ。交差点や道路を占拠する光景も、すでに特別なものではなくなってきました。抗議活動が長期化する中で、学生らはこれまで公で語られることのなかった、ある改革についても声を上げはじめています。彼らは何を求め、なぜ大規模なデモを続けるのか、その背景を探ります。


■タイの若者をデモに駆りたてたもの

10月のデモでは、警察車両がデモ会場に向け、放水しながら進入してきました。警察との衝突も起きていて、デモの参加者は「国家が武器を持たない国民にこんなことをした」「政府は我々と話すべきで、もっと良い解決策があったはずだ」と訴えます。この衝突は、商業施設も建ち並ぶバンコクの中心部で起きました。

こうしたデモが広がるきっかけは、2月に憲法裁判所がある政党に解党命令を出したことでした。解党されたのは政権批判の急先鋒で、若者から絶大な支持を集めていた野党「新未来党」。党首は最後の会見で「政府は私たちを潰そうとしているが、潰せないと証明するときだ。今より強くならなければいけない」と支持者らに呼びかけました。

こうした裁判所の判断には政権の意向が働いたとされ、バンコクで抗議集会が始まりました。

そこを襲った新型コロナウイルスの感染拡大。非常事態が宣言され、集会は禁止されました。ただ政府は、感染拡大が収まったあとも「第2波に備える」として、非常事態宣言を何度も延長。学生らは集会禁止が目的だと反発し、デモの拡大につながりました。


■学生らの求める「3つの改革」

民主化を求める学生らの要求は、大きく3つあります。1つめは、「プラユット首相の退陣」です。プラユット首相は陸軍出身で、2014年のクーデターを主導。軍政から民政への移管を目指した2019年の総選挙のあとも首相を続けています。学生らは軍主導の強権政治だと批判しています。

2つめが、「非民主的な憲法の改正」です。現在の憲法は軍事政権下で定められていて、事実上、軍が上院議員を任命できる内容となっています。これでは民意が反映されないと反発を強めているのです。

そして3つめの要求は、タイ社会に衝撃を与えました。「国王を君主とする今の王室制度の改革」です。タイで王室は神聖で不可侵な存在とされています。王室を批判すれば罪に問われますが、そのタイで公然と改革が叫ばれるのは、異例の事態です。


■なぜ今、王室の改革が求められるのか

批判の矛先は、ワチラロンコン国王に向いています。新型コロナウイルスの影響で国民が苦しい生活にあえぐ中、ドイツで生活していることなどが「国民に寄り添っていない」と反発を呼んでいるのです。

デモの中で初めて王室改革の声をあげた人権派の弁護士が、NNNの単独インタビューに応じました。弁護士のアノン氏は「多くの参加者がタブー視されてきた君主制(王室制度)に疑問を持ち始めた。誰もが今、タイで何が起きているか気づいている。だから私たちはそれについて堂々と話すことにした」と力を込めて話します。

さらに学生らは、国王が即位後、王室財産を自ら運用できるようにしたり、軍の精鋭部隊を直轄にしたり、権限を強化していることにも反発しています。アノン氏は「君主制が権力を拡大していることがはっきりしている。それは民主主義が許す範囲を超えている」と指摘しました。

ただ、アノン氏は君主制の廃止は求めていないと強調します。「王室を改革して民衆とともに歩むことは、まだ可能だと思う。(王室制度には)やはりタイらしさが残っている。しかし、もし改革が拒否されたら、間違いなく暴動につながる」とも強調しました。

権力や王室という特権階級に対して高まる学生らの不満。民主化を求めるデモは、収束の見通しが立っていません。