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バイデン大統領の米国(5)中国への姿勢は

2021年2月12日 19:38
バイデン大統領の米国(5)中国への姿勢は

第46代アメリカ大統領ジョー・バイデン氏は、分断のアメリカをどこへ導くのか? 中国を念頭に「最も深刻な競争相手から民主主義的な価値観への挑戦を受けている」と危機感を示すなか、中国に対しどのように向き合うのか? アメリカを知る識者4人に聞いた第5弾。


■対中交渉のカードは手放さない

――笹川平和財団の渡部恒雄氏は、バイデン政権はトランプ前政権が中国に対して打ち出してきた強硬姿勢を「緩めるつもりはない」としつつ、以下のように指摘する。
(渡部氏)
「人権や民主主義の問題に関して、バイデン政権の方がトランプ前大統領よりも非常に真剣に考えているので、中国に対してある程度…英語で言うところのレバレッジですけれども、圧力かけるための手段で有効なものは使いたいと思っています」

「その中で、トランプ政権で(中国に対し)相当な関税をかけたり、議会が法律を通して制裁法を作ったりしていますが、人権や民主主義の関連として、こういうものはそのまま残しておいて、中国の行動――特に民主主義や人権、あと我々にも関係してくる尖閣(諸島問題)や、南シナ海における国際ルールを守らない行動に関して、どうやって圧力をかけようかっていうときに使おうとしているのは明らかです」


――上智大学の前嶋和弘教授も同様に、中国との交渉においてアメリカが「関税」という道具を手放すことはないとしつつ、以下のように指摘する。
(前嶋教授)
「バイデンさんが去年の夏、民主党の党大会から『高い関税はアメリカ国民にとって、必ずしもプラスではない』と何度も言っていました。ということは、何らかの形で中国に対する高い関税を緩めていくことになると思うんですが、一方で、関税をグリップにして安全保障の問題をずっと話してきたのがトランプ政権です。そのグリップを捨ててしまうのは、やはりバイデン政権内のアジア担当者でも得策ではないと思っている人は結構いると思います」

「そう考えると中国との関係において、この関税をグリップして、安全保障の問題だけではなく、バイデン政権が重視する環境や人権の問題などを話し合っていくとか。場合によっては、『貿易と安全保障のディール』ではなく、『貿易と人権のディール』『貿易と環境問題のディール』みたいなことを考えていくのかもしれません」


■アメリカは、中国に是々非々で臨む

――藤崎一郎元駐米大使は、バイデン政権の外交政策について、トランプ時代の政策から「伝統的なアメリカ外交へのコペルニクス的転換」を果たし、「アメリカの1番の強み」である「民主主義、あるいは人権というもののチャンピオンである」という価値観を前面に打ち出してくるであろうと指摘したうえで、対中政策について、このように指摘する。
(藤崎氏)
「中国との関係について、大方の見方は、たしかに厳しい姿勢が続くというものです。なぜなら、その基本には、軍事的な対立や5Gなどの技術的な対立があり、さらに人権等の問題もあって、そう簡単に(宥和的な態度に)はいかないというわけです。しかし、私はそう簡単に割り切らない方がいいと思っています。もっと是々非々主義でいく可能性があると考えています」

「バイデン政権は、例えば気候変動では(中国と)協力すると言っていますし、核の不拡散では協力すると言っている。不拡散で協力するという意味は、『北朝鮮とイランを抑えるということで協力しよう』という意味ですね。気候変動で協力しようということは、パリ協定に戻って協力するということを言っているわけです。そうすると、今までと違って(中国と)協力する分野が出てくるんです」


■対中政策で同盟国に求められる

――キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦氏は、バイデン政権の同盟国重視の観点から以下の点を指摘する。
(宮家氏)
「トランプ氏のやり方はあまりにも強引なんで、ある程度、元に戻さなきゃいけないというのは分かるんです。けれど、中国にあれだけ喧嘩を売って、拳を振り上げておいて、バイデンさんが『あれはトランプさんがやったことだから、全部チャラにします』というわけにはいかないのですよ。(もしチャラにしたら)それは中国にとってはいいかもしれないけど、我々からすれば、間違ったメッセージを中国に送ることにもなりかねません。そこはバイデンさんも踏ん張ると思うんです」

「その際、同盟国に対しては『たしかに同盟国は重要だ』『国際協調も大事だ』と言うでしょう。実際、中国に対していろいろな問題が生じた場合に、トランプ前政権ではアメリカ1国で喧嘩を売っていたわけですが、おそらくそうではなくて、同盟国に対して『中国の態度が良くないから、こちら側のみんなでやろう』『俺たちだけじゃなくて、みんなでやろう』ということになる」

「また経済面では、アメリカの経営経済を立て直すにも『同盟国としては当然、協力してもらわなきゃいけない』。そういうことになれば、また何を言い出すかわからない。国内経済を重視するという点では、バイデンさんの外交政策も実はトランプさんとよく似ていて、内向きで国内のことが大事で、形を変えた『アメリカ第一』という部分が、おそらくいずれ見え隠れしてくるんじゃないかなと思っています。それが同盟国にとっては関心事であり、場合によっては懸念材料になるのではないかと思います」


米中関係においては、通商問題だけでなく人権や環境、安全保障など多面的なテーマが、相互に取引のカードとなり得ると、各氏とも指摘した。それは同盟国である日本に、どのような影響を及ぼすのか? 続きは次回に…。


■4人の識者
 藤崎一郎氏(中曽根康弘世界平和研究所理事長、元駐米大使)
  ※崎は右上が立のサキ
 前嶋和弘氏(上智大学教授)
 宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
 渡部恒雄氏(笹川平和財団 上席研究員)

*この記事は、4人の識者に個別にインタビューしたものを再構成したものです。