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2021年5月22日 15:25

米韓首脳シーフード会談舞台裏 北で温度差

米韓首脳シーフード会談舞台裏 北で温度差

アメリカと韓国の両首脳は、ホワイトハウス中庭のテラスで、蟹の身がぎっしり詰まった「クラブケーキ」を前に笑顔で語り合っていた。メニューにはシーフードを好む文在寅大統領への配慮があったという。

マスクを外し、握手やハグも…わずか1か月前に行われた日米首脳会談では考えられない光景だった。

バイデン大統領がホワイトハウスに招く2人目の外国首脳となった文大統領。共同会見で記者から厳しい質問を浴びる文氏に、バイデン大統領は「グッドラック」と声をかけ、笑いを誘った。

首脳会談後、ホワイトハウスでは、韓国の人気グループBTSの代表曲「ダイナマイト」まで流れた。友好ムードも演出したおよそ3時間の米韓首脳会談。しかし、共同声明では中国を強くけん制する「台湾」の表現も。

何が話し合われたのか、舞台裏を探った。

(ワシントン支局長・矢岡亮一郎、ソウル支局長・原田敦史)


■37分間…笑顔の“クラブケーキ会談”

30℃近い汗ばむ陽気となった首都ワシントン。首脳会談の冒頭、両首脳は、ホワイトハウス中庭のテラスに出て、清々しい新緑に囲まれながら、37分間、2人きりの時間を過ごした。

提供されたメニューは、ワシントンの隣、メリーランド州の名物「クラブケーキ」。シーフードを好む文大統領に合わせたという。

バイデン大統領が「何度もスタッフがきて、予定時間を過ぎていると言われたよ」と明かしたように、笑顔の2人からは充実した時間であったことがうかがえる。


■“菅首相を意識”韓国側「ハンバーガーは困る」

今月13日、韓国『朝鮮日報』に、先月の日米首脳会談のときの写真が掲載された。菅首相とバイデン大統領がマスクをしたままハンバーガーを前に向かい合っている。

『朝鮮日報』によると、菅首相が行った「20分間のハンバーガー会談は日本国内で冷笑された」として、文大統領の訪米を前に韓国政府がアメリカに「ハンバーガーの食事では困る」との要望を伝えたという。

一方、アメリカ政府関係者は「韓国側はバイデン大統領と菅首相のハンバーガーを前にしたような写真を撮りたがっていた」とも語っている。


■“格下”閣僚のもとへ…4兆円超「お土産」持参

会談当日の朝。文大統領は意外な場所に姿を見せた。ホワイトハウス近くにある商務省内の図書室。“格下”の商務長官のもとへ韓国の大手企業経営者らとわざわざ足を運び、日本円で4兆3000億円もの投資計画を表明した。目玉はサムスン電子が米国内につくる半導体の新工場だ。

バイデン政権が「脱中国」を進める半導体などのサプライチェーン。アメリカの意向に沿う形で大統領自らが届けた今回最大の“お土産”だった。


■マスクなし、握手、ハグも…「名誉勲章授与式」で厚遇

一方、バイデン大統領も「スペシャルな舞台」を用意した。米軍最高位の勲章「名誉勲章」の授与式に、外国首脳として初めて文大統領を招いたのだ。

勲章を授与されたのは、朝鮮戦争を韓国軍とともに戦った元米軍の英雄兵士。訪米に合わせホワイトハウスは「強固な米韓同盟」を演出した。

 「大統領もどうぞ」

バイデン氏に発言を促された文大統領も「韓米同盟は朝鮮半島の平和と繁栄の核心だ」と誇らしげに語った。

授与式のあとには、家族に囲まれた元兵士の脇で、両首脳が膝をついて記念撮影。米国内でコロナ対策が緩和されたことも受け、握手やハグでたたえ合う和やかなムードが広がった。


■「中国寄り」の文大統領…中国けん制の「台湾」明記

会談前、ある米政府関係者は「文大統領が中国寄りであることをとても心配している」と語っていた。

しかし共同声明には、中国へのけん制につながる「台湾海峡の平和と安定の重要性」との文言が盛り込まれた。中国を「最大の競合国」と位置づけるアメリカが押し切ったとみられる。

文大統領には、記者から「中国に強く対応しろと、バイデン氏に言われたのか」とストレートな質問も飛んだ。チラリと横に目をやり戸惑う文大統領に、バイデン大統領が「グッドラック」と声をかける場面もあった。

先月の日米首脳会談に続く首脳声明での「台湾明記」。

在ワシントンの外交筋はこう語る。「今回の米韓首脳会談は、バイデン政権の対中国戦略の2つめのステップだ。先月日本、今月韓国と着実に同盟国を固めている。中国に『強い立場』で向き合うための戦略だ」と。


■文氏“最重要”の北朝鮮問題 温度差も

文政権の最重要課題は北朝鮮との関係改善だ。残りの任期が1年を切り、求心力を失いつつある中で、今や色あせてしまった南北首脳会談の成功体験の再現を狙う。そのために、バイデン政権に働きかけ、北朝鮮を対話の場に引き出すことが必要だった。

バイデン大統領が「緊張緩和のため北朝鮮に外交で関与する意思を共有した」と語ると、文大統領も「対話と外交を通じた北朝鮮へのアプローチを模索する」と呼吸を合わせた。

韓国側が懸念していたのは、トランプ前大統領と金正恩総書記による2018年のシンガポールでの合意をバイデン政権が認めないことだった。

しかし、今回の首脳会談の共同声明では、2018年の南北の板門店宣言や、米朝のシンガポール合意などに基づく外交や対話が欠かせないとの認識で一致。文大統領としては“過去の実績”をベースに、北朝鮮と対話を再開する可能性を残せたことになる。

会見で文大統領は「肯定的な反応に期待する」とさっそく北朝鮮側に秋波を送った。

しかし、同じ場でバイデン大統領は金正恩総書記との首脳会談を行う条件を問われ、「国務長官らが交渉をして、しっかりとした道筋がなければ会わない」と回答。両首脳の温度差も浮き彫りになった。


■北朝鮮には「ソフト」 中国には「タフ」

北朝鮮との対話再開で成果を急ぐ文大統領と、「対中国戦略」の一環として、米韓・日米韓の関係を強化したいバイデン大統領。

アメリカの元政府高官は、今回の首脳会談をこう総括した。

 「これは取引だろう。アメリカは北朝鮮に“よりソフト”に。韓国は中国に“よりタフ”に。お互いが譲歩したということだ」

(画像提供 ホワイトハウス)