日本人女性「洗脳されていた」 勧誘活発化させる韓国新興宗教 “10万人”の集会も
韓国で、最も身近な“宗教リスク”として認識されている新興宗教団体がある。その名は「新天地イエス教」。この新興宗教が最近、日本人を相手に勧誘活動を活発化させている実態が、取材で明らかになった。10万人もの人々を集めて集会を行い、影響力を強めるこの宗教団体の実態とは――。
(NNNソウル支局長 原田敦史)
■W杯でも使ったスタジアムを埋め尽くす信者ら“10万人修了式”
その光景は異様なものだった。巨大なサッカー競技場の前に集まるおびただしい数の人々。次々に横付けされていく大型バス。道路脇にずらりと並んだ警備要員。
2022年11月20日、韓国・南東部の大邱(テグ)。02年のサッカーワールドカップの舞台にもなったスタジアムを貸し切って行われたのは、韓国の「新天地イエス教」という新興宗教団体の集会だった。“10万人修了式”と銘打ち、新たに信者となる人たちを迎え入れる会なのだという。スタジアムの上には、巨大なアドバルーンが上がり、「10万6186人」という数字が強調されている。
スタジアム前の歩道で撮影を始めると、すぐにトランシーバーを耳に装着した教団側の私服警備要員が制止してきた。
教団側の警備要員「撮影不可です。帰ってください」
内部への立ち入りはもちろんできず、公道からスタジアムを撮ることさえ妨害を始めた。警備要員は1人や2人ではない。おびただしい数の要員が配置され、無線で連絡を取り合いながら、我々がどこに行こうとも代わる代わる尾行や監視を続けていた。
上空では、「新天地」のロゴ入りのヘリコプターが低空で旋回。程なくして、教団の旗をなびかせ、1台の黒塗りの大型リムジンがスタジアムに滑り込んでいく。ヘリコプターで大邱入りした「新天地」の教祖、李萬煕(イ・マンヒ)総裁が会場に到着したのだ。10台あまりの警備車両などに囲まれて移動する様子は、あたかも“一国の首脳”のようだった。
この“壮大な儀式”を演出した新興宗教団体が、今、日本でも信者を増やそうと暗躍している。
■謎のオンライン・セミナー『花より日韓』 文化交流のはずが“新天地”の宗教勧誘
22年8月下旬、ソウルに駐在する私のもとに、ある情報が寄せられた。内容は「日韓の交流セミナーに参加したところ、途中から宗教的な内容になっていった」というもの。参加していた人の多くが、日本人の女性たちだった。複数の参加者を探し出し、取材を始めた。
共通するきっかけは、韓国人と知り合うための「語学交流アプリ」や「インスタグラム」などのSNS。ここで仲良くなった韓国人から、『花より日韓』という団体が主催する日韓交流セミナーに誘われ、参加したのだという。
最初は、BTSのミュージックビデオなども使いながら、文化や言葉の学習を行っていたものの、すぐに聖書を使った宗教的な内容に。セミナーは少なくとも週2回。費用はかからないが、参加しないと出席をしつこく催促されたという。
中心的な講師は「花」と名乗る韓国人女性。「花」は数十年間、日本に住み、日本語が堪能だ。セミナーの動画を見ると、時には笑いも交えながら、宗教的な内容を語っていく。他の新興宗教について批判をする場面が多々見られたが、自らが何者なのかは、最終盤まで明らかにしないままだった。
■セミナー主催者 追及すると「私は“新天地人”」 参加者「洗脳されていた」
「花」について調べると、名古屋にあるNPO法人と関わりがあることが分かった。直接接触を試みるため、22年9月、私はソウルから名古屋へと向かった。
住宅街の一角。しばらくして建物から出てきたのは、セミナーで講師をしていたあの「花」本人だった。
――“新天地”とは関係ないんですか?
花「私は“新天地”ではあるんですけれど、セミナー自体は“新天地”とは関係ないんです」
――あれはどういう意図でやっているのですか? 信者を増やそうと思っているのではないですか?
花「信者を増やしたいということもあるんですけど、その方法ではなくて、日韓交流を通して仲良くしたい」
「花」は、“信者を増やしたい”との意図を認めつつも、主な目的は日韓交流で、だますつもりはなかったと主張し続けた。
私たちは22年10月、『news every.』などでこの問題を報じた。すると、その翌日、「花」はセミナーでその映像を流しながら、参加者にこう話し、自らの正当性を主張した。
花「皆さん! 最近、私が有名になったことを知っていますか?」「私が何か罪を犯したような放送をしているんです」
この時、セミナーに参加していたユリさん。「報道がウソを言っていると思い、信じてしまった」と話す。「新天地に入らないと地獄に落とされる」との内容を繰り返し言われ、「洗脳されていた」と振り返った。
ユリさんは、放送の内容を見たことをきっかけに疑念を抱き、セミナー講師「花」や“新天地”との関係を絶つことができたという。
■“10万人修了式” 日本からも686人が“入信”
セミナーに残った人たちはどうなるのか―。「花」はセミナーの最終盤で、唐突に「11月に“10万人修了式”が予定されている」と明らかにした。ただ、「日付と場所は言えない。セミナーの中に入ってスパイ行為をしている人たちもいる」とくぎを刺し、厳しく警戒していた。
取材を進めると、この“10万人修了式”なる集会は、22年11月20日に大邱で行われるとの情報が得られた。冒頭で描写したのは、その様子だ。
「新天地」は20年2月にこの大邱の関連施設で、新型コロナウイルスの大規模な集団感染を起こしている。また、ソウルでは22年10月29日に梨泰院で158人が死亡する群衆事故が起きたばかりで、大規模集会が再び大邱で行われることに対し、韓国国内でも警戒が強まっていた。そのため、取材に来た韓国メディアも多数あったが、我々と同じように撮影を拒まれた。
会場は、メインスタジアムとその近くの補助競技場の2か所。巨大なメインスタジアムは、内部が一切見られないように、厳重な警備が敷かれていた。直接、確認ができたのは補助競技場のみ。そちらだけでも、多くの信者らが集まり、モニターに向かって拍手を送っている様子が確認できた。
そして、教祖の李萬煕総裁が登場すると、会場を埋め尽くした信者から歓声が沸き起こった。
李萬煕総裁「今日修了する10万修了生の皆さん、勉強もたくさんして、願いが叶うようになりました」
91歳の李萬煕総裁は約50分にわたり演説を行い、新たに信者になった人々を歓迎。花火なども使われる壮大な演出が行われた。
会場では、世界中の国々の新たな信者のビデオメッセージも流された。韓国以外の90か国の約4万人が教育を終えたと紹介し、日本からも686人が教育を修了したという。
■反対集会も 過酷なノルマ 「1人伝道しないと正式入信できない」
一方、会場の周辺では「新天地」の反対集会も。教団の被害にあったという人々が、“修了式”から帰っていく信者らに脱会を呼びかけていた。
一時、子どもたちが新天地に入っていたという女性は、新たな信者獲得のノルマがあり、達成できないとカネを要求されたと話す。
子どもたちが一時、「新天地」に入信した女性「包摂(新たな信者を獲得)できなければ、年に200万ウォン~300万ウォン(約20万~30万円)を払わなければならない。うちの子どもたちも払った」
また、ある「新天地」関係者は、教団内には“特殊な入信の条件”が存在すると証言した。
「新天地に“伝道”された後、自らも新たに1人を“伝道”しないと正式に入信できない」(「新天地」関係者)
信者獲得のノルマ達成のために、活動費などの名目で教団側にカネを払い、信者を獲得したことにする“実績の分配”も慣例になっているという。
規模拡大の実績づくりのために、課されているとみられる重いノルマ。勧誘がうまくできず、追い込まれていった元信者を取材で目にしてきたが、彼らが大きな負担を抱えていたことは想像に難くない。
「新天地」の入り口は、伝統的な路上勧誘などから、時代に合わせてSNSやオンラインのセミナーなどに手法を変えて、より身近なところに存在する。私たちの一連の報道が、新興宗教との関わりや、リスクを考え直す機会になることを願うばかりだ。