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ウクライナ「盗まれた子ども」約2万人 母親たちが“取り戻す”…敵国・ロシアへ

2023年6月5日 22:54
ウクライナ「盗まれた子ども」約2万人 母親たちが“取り戻す”…敵国・ロシアへ

いま、ウクライナで約2万人もの子どもたちがロシアに連れ去られています。救出が困難を極める中、子どもを連れ去られた母親たちが我が子を取り戻すため、敵国ロシアへ向かいました。ロシアの本当の狙いとは? その“実態”を取材しました。

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先月、G7・広島サミットに電撃参加したウクライナのゼレンスキー大統領。「私たちの願いは、いまロシアに捕らわれた我々の軍人や強制連行された民間人、盗まれた子どもたちを取り戻すことです」と、世界に訴えました。

軍事侵攻で戦闘に巻き込まれた多くの子どもたち。さらに、ウクライナ政府によると、ロシアの占領地域からは、すでに2万人もの子どもたちが連れ去られているのです。ICC(=国際刑事裁判所)は、戦争犯罪にあたるとしてプーチン大統領らに逮捕状を出しました。しかし「子どもの保護」とロシア側は主張しています。

■「子どもを捜して…」依頼2000件以上

ウクライナの首都・キーウ市内のNGOでは、侵攻後に行方がわからなくなっている子どもたちの居場所を探すため、スタッフたちがSNSを使って情報提供を呼びかけていました。

NGOのホームページには、膨大な数の写真が掲載されていました。すべて侵攻後に行方不明になった子どもたちです。このNGOには、「子どもを捜してほしい」との依頼が2000件以上寄せられているといいます。

子どもの捜索を支援 NGO「マグノリア」 マリナ・リポヴェッカさん
「この少女が最後に目撃されたのは、ロシア軍に連れ去られた時でした。 両親は殺され、少女もケガをしていました」

子どもたちの顔写真や特徴は、ロシア向けのSNSにも発信されています。情報提供を呼びかけていますが、居場所が特定できるケースはごくまれだといいます。

■ロシア…連れ去りの“黒幕” キスで子どもたちを歓迎

その連れ去りの“黒幕”とされるのが、子どもの権利担当、ロシアのリボワベロワ大統領全権代表です。彼女のSNSには「モスクワへようこそ!」と、連れ去った子どもに歓迎の声をかける様子が。「子どもたちを守るための支援」と称して連れ去った子どもたちの養子縁組を、ロシアで組織的に進めているのです。

しかし、本当の狙いは別にあるといいます。

エール大学 人道問題研究所 レイモンド氏
「一番の目的は、いわゆる『ロシア化』です。文化的、民族的にロシア人であることを認識させること。それがロシアの目標です」

ロシア国内に連れ去られた子供が収容される施設。そこでは、“親ロシア”の価値観をすり込む「再教育」が行われていました。エール大学の調査によると、こうした収容施設が43か所もあるといいます。

別の収容施設では、連れ去られた少年がロシアの国旗が入った服を着せられ銃をかまえる姿も。そこからもう1つの狙いが見えるといいます。

レイモンド氏
「おおよそ14~17歳のウクライナの少年が、軍事訓練を受けていることを示す明確な証拠が見つかりました。ロシアの兵力が枯渇するにつれて、こうした動きが顕著になっています」

再教育した上で、戦力として活用する狙いがあるというのです。

■当時15歳の娘…母「どうやって取り戻すというのか」

娘が連れ去られた悲しみを語ったのは、オクサナさん。当時15歳の娘・リーザさんが、学校の寮があったヘルソン州が占領された直後、同級生とともに連れ去られました。「安全な場所へ避難させる」という名目でした。

娘が連れ去られたオクサナさん
「状況を受け入れるのが大変でした。占領下で、どうやって娘を取り戻すというのでしょう」

リーザさんの消息がつかめぬまま1年が過ぎたことし3月、ロシアが一方的に併合したクリミア半島にいることが偶然、わかりました。

5月14日、救出を支援するNGOの事務所に、オクサナさんの姿がありました。同じ境遇の母親達とともに、我が子を取り戻すためロシアに向かうと決めたのです。

子どもの帰還を支援「セーブ・ウクライナ」 ミコラ・クレバ代表
「FSB(ロシア連邦保安庁)は何時間もかけ尋問をしてくるかもしれません。携帯のデータは空にしておいてください」
「一番大事なことは、皆さんが誰かを誘拐するために行くのではないということです。わが子を取り戻す。そうですよね?」

出発の時、オクサナさんは「とても心配しています。これからが本番ですね。(娘に会えたら)抱きしめてキスして、『ママはもうそばにいるよ』と伝えます」と話し、列車に乗り込みました。

子供の居場所を探し当て、保護者だと証明できれば、連れ戻せる可能性があるといいます。ロシア側も建前では「子どもの保護」をうたっているため無視できないからです。戦闘が続く中、敵国ロシアへ。その道のりは困難に満ちています。

オクサナさんたちはまず、キーウからポーランドへ出国。ベラルーシ経由でロシアの首都・モスクワへ。そこから情報をもとに子ども達の居場所へと移動を繰り返します。「あの子に会いたい」その強い思いがオクサナさんを支えました。

■帰ってきた娘…ロシアは「母親はあなたを捨てた」

およそ1週間後、ロシアから戻ったオクサナさんの隣には、娘のリーザさんの姿がありました。

オクサナさん
「娘です。私の娘!取り戻しました」

リーザさんを探している時、オクサナさんは何度もロシア当局に尋問されたといいます。

オクサナさん
「娘を迎えに来たと泣いて訴えても『ここで帰ることになる』と言われました」

妨害に耐え、辿りついたのは、ある収容施設。リーザさんはそこでロシアで養子になるよう強く勧められていました。

連れ去られていたリーザさん(16)
「『母親はあなたを捨てた』『あなたの引き取り手を探している』と(言われた)」「母の姿を見た瞬間、かけよりました。全身が震え、止まりませんでした」

■ウクライナに戻れたのは「2%未満」

リーザさんは、ロシアによる「再教育」にも屈しませんでした。

リーザさん(16)
「ロシアの国歌を歌わされ、暗記させられました。覚えられないと地下室へ連れていかれます。私はウクライナ人です。ウクライナのために何でもします」

戦闘が続く中、ようやく再会を果たした2人。

ただ、連れ去られた子どものうちウクライナに戻れたのは、全体の2%にも満たないのが現実です。

(6月5日放送『news every.』より)

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