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中国ペットブーム過熱…保護施設は飽和状態

2021年8月15日 16:52

■ペットフェアに11万人来場…ブームの中心にいたのは若者

今年5月に中国北京で行われた「ペットフェア」を訪ねた。3日間の開催期間中、ペットフードや衣服など国内外の様々な商品を目当てに11万人以上が来場したという。商品の中には中国らしい「漢方薬」成分の入ったシャンプーなどが並んだほか、小型の冷蔵庫のような見た目の「ペット丸ごと乾燥機」や、遠隔操作可能な「給餌器」「自動フン掃除トイレ」などが人気を集めていた。

来場者の多くを占めたのは「若年層」だ。中国メディアによると中国のペットブームを支えるのは北京や上海など大都市に住む若い単身世帯。仕事のストレスが大きく競争社会に疲れて、癒やしを求めて犬や猫を飼うケースが多いという。

■“狗市”取材…病気の犬も?

次に訪れたのは北京中心部から車で1時間ほど、河北省にある「狗市」と呼ばれる場所だ。場内には多くの子犬や子猫が所狭しと並べられていた。繁殖業者が持ち込んだ犬や猫を、ペットショップなどの顧客が購入する仕組みで、ペットフェア同様大変な賑わいを見せていた。最近人気の犬種はコーギーや柴犬だという。

一方、中には病気なのか白くにごった目をしきりに擦る犬や、片方の目を閉じたままの犬もいた。市場関係者によると、市場から繁殖業者に対して「犬猫の血統」や「病気の有無」を確認することはないのだという。そのため、あるペットショップ関係者は「最近は雑種も多く、病気や衰弱を隠して売る業者もいる」と懸念を示した。

■子犬子猫を「宅配」で死なす

また近年は繁殖業者が子犬や子猫を通常の宅配便で送り、死亡させるケースが社会問題となっている。ことし5月にはおよそ170匹の子犬子猫が宅配業者の集配センターで発見され、複数が死んでいた。背景には、近年インターネットでのペットの売買が急増しているほか、届くまで何を購入したか分からない「ブラインドボックス」という仕組みの商品が人気を集めたことがある。

命ある生き物を「ブラインドボックス」で購入する感覚にも疑問を抱くが、そもそも中国では以前からペットを宅配便で扱うことは違法だ。事実上黙認されてきた状態で、当局は批判の高まりを受け取り締まりを強化する方針を示している。

■保護施設は飽和状態に

私たちが最後に訪れたのは、北京市郊外にある犬の民間保護施設だ。ペットブームの陰で飼育放棄や虐待が相次ぎ、この施設では1000匹以上を保護。すでに飽和状態で新たな引き取りは止めているが、施設の存在を知った人が門の外に飼えなくなった犬を放置するケースが相次ぎ、取材の数日前にも数匹の子犬が置かれていたという。一方、施設を運営するRanさんによると、新たな飼い主に引き取られた犬は4年でわずか43匹。Ranさんは「そもそも中国では保護犬を飼うという意識がなく、誰もがペットショップで選ぶのを好む」と語った。

中国では広範に犬猫の殺処分が行われているが、その統計は公表されていない。公的な保護施設の一部では虐待が行われているとの指摘が出るなど、適切な保護が行われているか疑念の声が上がっている。こうした背景もあり、中国国内には民間の保護施設が複数存在する。ただ法律や条例は未整備で何の規定も存在しないため、Ranさんの施設は“非合法状態”だという。たとえば誰かが「鳴き声がうるさい」と通報した場合、施設の閉鎖を求められる可能性もあると心配する。また施設の運営費は年間数千万円かかるというが、現金での寄付を募った場合も「違法な集金」として罪に問われる可能性があり、Ranさんは親族らの援助を受けながら運営を続けている。ペット市場の急拡大に制度が追いついていない状況だと言える。Ranさんは、「民間の保護施設への理解が深まって欲しい」とした上で、飼育放棄や虐待が相次ぐことについて「誰もが責任感を持つべき。犬は飼い主しか頼る人がいない、犬を飼うなら責任を負わないと」と語った。

■取材後記:バランスの取れた発展を

中国だけではなく日本を含む多くの国で、ペットの飼育放棄や殺処分は大きな課題となっていて、解決に向けた努力がなされている。ただ、中国では、虐待や飼育放棄を防ぐための法律もまだ無く、法整備を願う声は大きくなっている。また、命が捨てられるのを防ごうとする取り組みがある一方、中国ではすでにペットの「クローンビジネス」が始まっている。命を捨てる現状がある一方で、命を人工的に作り出してもいるのが現状で、クローン犬やクローン猫を産む代理母の体への負担も大きく、倫理的な問題を指摘する声がある。今後も中国のペット市場が拡大を続けるのはほぼ間違いなく、バランスの取れた発展が望まれる。