北朝鮮“新型巡航ミサイル発射”その脅威は
北朝鮮が11日と12日、「新型の長距離巡航ミサイルの発射試験に成功した」と明らかにしました。このミサイルの脅威、そして何が目的なのか詳しく説明します。
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■北朝鮮「長距離巡航ミサイル試験発射成功」日本政府の反応は
13日付の北朝鮮の労働新聞、タイトルには「国防科学院、新たに開発した長距離巡航ミサイル 試験発射成功」と書かれています。そして、地上にある移動式発射台から発射される様子や、ミサイルが飛んでいる様子の写真が掲載されています。
労働新聞によりますと、「発射したのは11日、12日」で、「ミサイルは北朝鮮の領土・領海上に設定された楕円(だえん)や8の字の軌道に沿って、7580秒(2時間6分20秒)飛行」し、「およそ1500キロ先の標的に命中した」としています。
日本政府の反応ですが、加藤官房長官は13日午前、「事実とすれば、日本をとりまく地域の平和と安全、これを脅かすものであり、日本としては懸念を有するところであります」と述べました。
ある外務省の幹部は「この5年くらいで急激に北朝鮮のミサイル技術が進展している」と懸念を示していて、別の幹部は「抗議の対象でもない。本当にそれだけの能力があるか、ちょっと怪しい」と話していました。
報道が事実だとして、「およそ1500キロ先」というのが、どの程度のものなのでしょうか。今回、どこから発射して、どこで命中したのか明らかにされていないですが、仮に起点を北朝鮮の首都・平壌とすると、1500キロ圏内は日本列島がほとんど入っている範囲です。
■「巡航ミサイル」日本にどのような脅威
北朝鮮のミサイルと聞いてまず思い浮かぶのが、従来の「弾道ミサイル」ではないでしょうか。弾道ミサイルとは、放物線を描いて高角度で飛行し、高速で落下します。一方、「巡航ミサイル」は、超低空を水平に飛行します。低速ですが、命中精度が比較的高く、レーダーで探知されにくい特徴があります。
さらに違うのは、弾道ミサイルの発射は、国連安全保障理事会の決議で禁じられていますが、巡航ミサイルは規制の対象ではないです。そのため、日本政府は北朝鮮に対して抗議をしていないです。
なぜ、巡航ミサイルは規制されてないのでしょうか。弾道ミサイルの方が、大量破壊兵器をのせることができる危険なものととらえられてきました。巡航ミサイルまで規制すると、丸腰になってしまうからです。
ただ、防衛白書は、以下のように巡航ミサイルの脅威を指摘しています。
令和3年版防衛白書より
「弾道ミサイルに比べ小型なので、船舶などに隠してひそかに攻撃対象に接近することが可能」
「弾頭に大量破壊兵器が搭載された場合は深刻な脅威となる」
今回の発射は日本にどのような脅威があるのか、河野克俊前統合幕僚長に聞いてみました。
河野前統合幕僚長
「1500キロなら日本をカバーできるが、今回のような複雑な動きをする巡航ミサイルへの防御手段が確立されていないため、脅威となる。特に、洋上の日米の艦船部隊への深刻な脅威となる」
河野前統合幕僚長はこのように指摘していました。
■ミサイル発射、なぜこのタイミング…目的は?
では、今回のミサイル発射の目的は何でしょうか。
NNNソウル支局の河中春樹記者によると、「開発中の巡航ミサイルの性能を確認して、その能力向上をはかる狙いがある」ということです。ただ、「今回は、アメリカや韓国への過度な刺激を避けたとみられる」といいます。
それを示すかのように、実は今回、ミサイル発射に金正恩総書記が立ち会っていないとみられています。さらには、今回のミサイル発射は労働新聞の1面トップではなく2面に掲載され、扱いが大きくないです。
次になぜ、このタイミングなのでしょうか。14日、北朝鮮問題について、日米韓3か国の高官が東京で協議する予定があります。このタイミングに合わせてアメリカや韓国を牽制して、国際社会の関心を引きたい、さらにミサイルを発射して反応をみたいという狙いもありそうです。
牽制はしたいけど刺激はしたくない…という複雑な気持ちが見え隠れします。
9日に確認された金総書記の姿は、頬のあたりがすっきりやせたようにもみえます。7月の時点で10キロ~20キロやせたといわれましたが、それよりさらにやせているように見えます。
この時、行われたのは民兵組織によるパレードで、ここにも北朝鮮の複雑な気持ちが表れているといえそうです。
パレードには、ミサイルなど大型の兵器が登場しなかったとみられています。大型の兵器が登場しなかったのは、国内向けのパレードだったからです。
国内向けというのがポイントです。北朝鮮は、新型コロナ対策による国境封鎖や経済制裁が続いて、国内の状況が厳しさを増しています。このため、パレードで厳しい国内を奮い立たせたい、その反面、アメリカや韓国を刺激したくないため、普段のような兵器を登場させないという判断があったのではないか、ということです。
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北朝鮮には、巡航ミサイルが国連安保理で禁じられていないという隙を突いて、巡航ミサイルの能力向上を図る狙いもあるともいえます。北朝鮮はここ数年で急速にミサイル技術を進展させているので、今回のミサイルの性能も含めて分析を進めることが重要です。
(2021年9月13日午後4時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)