米「体操の女王」性的虐待めぐり議会で証言
オリンピックで7つのメダルを獲得しているアメリカ体操女子のエース、バイルズ選手らが15日、議会上院の公聴会に出席し、自らも被害を受けた性的虐待事件をめぐるFBI(=連邦捜査局)の捜査の遅れなどについて、涙ながらに証言した。
アメリカ体操女子のスーパースター、シモーネ・バイルズ選手。東京オリンピックでは「メンタルヘルス」の問題を理由に一部種目を棄権しながら、最終的にメダルを獲得した24歳が、米議会で声を震わせながら涙の証言を行った。
上院の司法委員会で行われたのは、体操・オリンピックチームの元専属医師、ナッサー氏による性的虐待事件をめぐる捜査の遅れについて議論する公聴会。
ナッサー氏は長年、治療などと称して、オリンピックチームの女性選手らに性的虐待を繰り返していて、2018年に実刑判決が言い渡されている。しかし、事件の捜査をめぐっては、司法省の監察官が今年7月、初動捜査にあたったFBIの地方当局が、「緊急性を持って対応しなかった」ために、被害者への聞き取りがなかったり、遅れたりする事態を招き、性的虐待が続いてしまった、などとする報告書を取りまとめ、ずさんな初動に対し批判の声が上がっていた。
こうした中、この日、公聴会に出席したシモーネ・バイルズ選手ら4人の被害者たち。バイルズ選手は冒頭、「皆さんの前で発言することほど、私にとって居心地の悪いことはない」と、悩んだ末に出席した心情を明かした上で、事態を把握しながら自身に連絡をとらないなど、適切な対応をしなかった捜査機関やスポーツ組織を批判した。
「私は性的虐待の経験者でもあります。私が虐待を受け、それが続いたのは、アスリートとしての私を監督し、守るための組織であるアメリカ体操協会と、オリンピック委員会が、その職務を怠ったことが直接の原因であることは間違いありません」
「私たちは、FBI、司法長官、アメリカオリンピック委員会の誰も、私たちを守るために必要なことをしなかったために、苦しみ、今も苦しみ続けています」(バイルズ選手)
発言の途中、涙ぐんで言葉に詰まる場面もあったバイルズ選手。「性的虐待を可能にしたシステム全体を非難する」と訴えた。
さらに、バイルズ選手が言及したのは、この夏の東京オリンピック。新型コロナウイルスによって1年間の延期が決まったことで、「さらに1年間、この記憶の中で毎日を過ごすことになった」と振り返った。
大会に出場し、種目別平均台では銅メダルを獲得したものの、「メンタルヘルスの問題に集中するため」として女子団体の決勝などを棄権することになったバイルズ選手。
「私が毎日努力することができたのは、この危機を無視してはいけない、という目標があったからです。特に、(コロナの影響で)家族の協力なしに東京に行かなければならなかったことは、私にとって非常に困難な負担となりました。私は強い人間だし、忍耐強く生きていきたいですが、ナッサーの暴行に一人で苦しむべきではありませんでした。そうなってしまったのは、捜査が要求されなかったという失敗のためなのです」(バイルズ選手)
他の出席者も、FBIによる聞き取りの遅れなどを指摘。「こうしたことが二度と起こってはならない」と、再発防止とともに、捜査の遅れを招いた関係者が責任を取るよう求めた。
これに対し、公聴会に出席したFBIのレイ長官(注:事件当時は長官ではなかった)は、「担当者は、人々を守るという義務を怠り、女性たちを性的虐待から守ることができなかった」と謝罪した上で、「二度と起こらないよう、全力で取り組んでいく」と強調した。