“破産”スリランカは「汚職が風土病」…「一帯一路」巨額中国マネーは腐敗を助長?
中国の一帯一路の要衝・スリランカは2022年、破産に追い込まれた。要因は様々だが、「中国のずさんな融資」と「スリランカの“汚職”政治家」という最悪の組み合わせによる事態ともいえる。巨額の中国マネーは、この国に何をもたらしたのか。
(NNNバンコク支局 平山晃一)
■最大都市コロンボの“象徴”にも汚職疑惑
スリランカの最大都市コロンボにそびえ立つ巨大電波塔「ロータスタワー」。22年9月にその展望台がオープンした。翌月、取材で訪れた際には、コロンボを一望できる絶景を求めて、家族連れから修学旅行生に至るまで多くの人でにぎわっていた。
中国の巨大経済圏構想「一帯一路」のプロジェクトの1つで、1億1300万ドル(約149億円)の建設費の8割を中国から借り入れ、建設が進められた。この国における中国の存在感を象徴するような巨大インフラとなっている。
コロンボの新たなランドマークとして期待されているが、実は汚職疑惑もくすぶる、いわくつきの代物だ。19年には建設費用の一部、1100万ドル(約14億5000万円)が消失したという問題が浮上し、大騒ぎとなった。しかし政争の具となり、結局、調査は進まないまま。地元メディアはロータスタワーについて、「指導者の傲慢さ、まん延する汚職、経済犯罪への甘さ」を思い起こさせる記念碑だと評している。
■親中派のラジャパクサ兄弟 中国マネーでつくったのは…
中国との蜜月を背景に中国マネーでさまざまなインフラ開発を進めてきたのが、ラジャパクサ兄弟だ。10数年にわたり兄弟で大統領を務め、この国で実権を握ってきた。一族で要職を独占し、政府の支出の実に8割をラジャパクサ一族が管理していたとも伝えられている。
そんな一族の出身地が、南部のハンバントタ。採算度外視で港や空港を建設するも、ほとんど活用されず、ホワイトエレファント(白い象=無用の長物)とやゆされている。ハンバントタ港は6.3%もの高金利の借金を返済できず、2017年に運営権を中国企業に譲り渡す事態に。いわゆる「債務のワナ」の典型例だと注目を集めた。
■数々の汚職疑惑…2022年国民の怒りがついに爆発
問題はそれだけではない。18年、アメリカのニューヨーク・タイムズは、港の建設会社が、兄マヒンダ・ラジャパクサ氏の大統領選における選挙資金として760万ドル(約10億円)を提供したと報じた。中国側・ラジャパクサ氏側双方ともにすぐさま事実を否定したが、ニューヨーク・タイムズの記者2人が脅迫を受けるなど騒動に発展した。
地元メディアによると、中国の国有企業の関与が疑われる大規模な汚職疑惑は、ほかにも複数浮上。しかし、政治的圧力により警察などの捜査は進まず、握りつぶされたという。
失政と共に、常に汚職疑惑がつきまとったラジャパクサ一族。その支配は22年、ついに終えんを迎えた。中国などからの借金を返済できなくなり、国家として破産を宣言。インフレで国民生活は大混乱に陥り、政権への大規模な抗議活動に発展した。弟ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領(当時)は一時、国外に逃亡するなど、国民の政治への不信感が爆発したのだ。
国のトップから末端の役人に至るまで汚職がまん延し、「汚職が風土病」と言われるスリランカ。さまざまな疑惑は出るも、ほぼ事件化しないため、「犯罪者のいない犯罪」と表現する地元メディアもある。
そんな国に流れ込んだ巨額の中国マネー。イギリスのシンクタンクの分析では、2006年から2019年にかけて、その総額は実に121億ドル(約1兆5900億円)に上るとされる。“無駄な箱物をつくり、政治家が私腹を肥やした”…市民からは、こんな声も上がる。
また、中国側の融資姿勢にも大きな問題がある。アメリカのオンライン外交専門誌ザ・ディプロマットは、中国による融資の承認プロセスの甘さや不透明さを指摘し、“貸し手として未熟”だとしている。採算よりも政治的な意図が優先されるため、汚職やコストの水増しなど、さまざまな問題が起きやすいという。
■2023年 スリランカが迎える正念場
国外逃亡の末に辞任したゴタバヤ・ラジャパクサ前大統領の後任として現在、スリランカを率いるのが、ウィクラマシンハ大統領。過度な中国依存を修正し、日本への接近も図っている。また、IMF(=国際通貨基金)からの約29億ドル(約3820億円)の支援交渉は大詰めを迎えている。支援の条件となるのが、増税などを通じた財政健全化や強力な腐敗防止策の導入だ。
腐敗した政治家に苦しめられてきたスリランカ国民。国の破産後は、増税という形でそのツケを払わされる形となる。現政権が根深い汚職問題にどう向き合い、国民の信頼を得ていくのか。23年、スリランカは国の再生へ向け、正念場を迎えることになる。