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中東の危機拡大は阻止できるのか うごめく「抵抗の枢軸」 本気で参戦なら戦闘拡大?

2023年12月31日 15:00

イスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルは、「抵抗の枢軸」と呼ばれる中東各地の武装組織にも悩まされている。アメリカやイスラエルの“侵略”を防ぐという共通の目的で結束しているヒズボラ、フーシ派、イスラム聖戦などに囲まれ、四面楚歌の状態に――。彼らが本気で参戦してきた場合、中東各地に戦闘が拡大する恐れもある。

今後の戦局を左右する「抵抗の枢軸」と、その黒幕イランの思惑をひもとく。

2023年10月、ハマスとイスラエルの衝突が始まった直後のイスラエルで、ユダヤ人に話を聞くと異口同音に言っていたことがある。

「“彼ら”が本気を出したら、やばい。こんなものではすまされない」

"彼ら”とは、北部で国境を接するレバノンが抱えるイスラム教シーア派の武装組織「ヒズボラ」のことだ。レバノン国内では合法政党としても活動しているが、イスラエルとハマスの衝突が始まった10月7日以降、イスラエル領内への攻撃を続けている。

ヒズボラは最大で4万5000人の戦闘員を有するといわれ、イスラエルがハマス以上に恐れる存在だ。新型の無人機や高度な精密誘導ミサイルなどの最新兵器を持っていて、ハマスをはるかに上回る戦闘能力があるとされる。

対戦車砲や無人機でイスラエル北部を攻撃する以外にも、イラクやシリアのアメリカ軍の拠点にも相次いで攻撃をしかけていて、ヒズボラの指導者ナスララ師は「攻撃をやめさせる唯一の方法は、パレスチナ自治区ガザ地区での戦争を止めることだ」と主張した。

今のところ、イスラエルもヒズボラも全面戦争を望んでいるわけではないようだが、偶発的な衝突から戦闘がエスカレートしていく危険性は常にある。

もう1つ、イエメンの反政府武装組織「フーシ派」も、ガザ地区から2000キロ以上離れたイエメンからミサイルや無人機でイスラエルを攻撃している。

フーシ派も「イスラエルの侵略が終わるまで攻撃する」と宣言していて、紅海で日本郵船が運航する貨物船を乗っ取ったことも記憶に新しい。船を所有するイギリス企業の株主にイスラエル人の富豪が含まれていることで狙われたとみられる。

フーシ派はハマスを支持していて、今後も、イスラエルの港に向かうすべての船の航行を阻止する、と主張している。紅海は日本にとっても、重要なエネルギーの輸送路だ。海運の安全が脅かされると、世界経済にも暗い影を落とすことになる。

こうしたパレスチナの「ハマス」、「イスラム聖戦」、レバノンの「ヒズボラ」、イエメンの「フーシ派」、イラクやシリアの民兵組織など、中東各地の武装勢力の後ろ盾となっているのが、イランだ。イランはこうした武装組織を支援し、「抵抗の枢軸」と呼ぶイスラエル包囲網を築いてきた。

国際戦略研究所によると、イランの兵力は60万人以上で、イランが開発する最新のミサイルや無人機などが武装勢力に渡っているとされる。

そもそも中東社会には、「パレスチナ人を追い出して建国したイスラエル」との認識に基づいた歴史的な怨念と怒りが渦巻いている。パレスチナ人がガザ地区北部から避難する光景は、1948年の独立戦争でイスラエルが勝利した後、70万人以上がパレスチナ難民としてガザ地区に強制移住させられた彼らにとって、思い出したくない歴史の一場面を想起させるものだったに違いない。ガザ地区の住民は、この強制移住を「アル・ナクバ(大災厄)」と呼んで、この時の記憶を胸に刻んでいるという。

万が一にも「抵抗の枢軸」が本格的に参戦するようになると、緊張は一気に高まる。

23年12月にはイランの精鋭部隊「革命防衛隊」が、「抵抗の枢軸」を支援する任務にあたっていた隊員2人がイスラエルによる空爆で死亡したと発表した。

また、イランの国営通信は12月25日、イスラエル軍がシリアの首都ダマスカスを空爆し、イラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問が死亡したと報じた。国営テレビはイラン革命防衛隊の「イスラエルはこの犯罪の代償を払うことになる」とのメッセージを伝えている。

これまでイランは直接的な軍事介入は行わない考えを示してきたが、今後の動向次第では、アラブの周辺国やイスラエルを支援するアメリカを巻き込んで、中東全体に戦闘が拡大していく危険性もある。

イランは、統治者が神の代理人として絶対的な権力をもって支配する「神権政治」の国だ。パレスチナの解放とイスラエル国家のせん滅を優先政策として掲げている。

ただ、イラン国民は必ずしも「パレスチナ支持一辺倒」というわけではない。イスラエルとハマスの戦闘が続く中、イラン国民の多くは戦闘で多くの犠牲者が出ていることを批判しているという。

イランでは22年以降、女性の自由や独立の権利を求める抗議運動が続いていて、政府の弾圧により、多くの死者が出ていることも、イスラム政権への反発を招いている。「抵抗の枢軸」を束ねるイランの中にも“これ以上、流血の惨事を引き起こす反ユダヤ主義を続けるべきではない”と考える人が増えているという。

多くの火種を抱え、常に衝突の危険をはらんでいる中東にこうした考えを持つ人々が増えていることは、先の見通せない情勢において一筋の希望と言えるかもしれない。

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