【解説】米が「ジェノサイド」認定した中国のウイグル弾圧 ~AI使用した監視システムとは~
欧米諸国が「ジェノサイド」と非難するウイグル弾圧。収容施設内で何が行われていたのか。AIを使った中国当局による監視態勢はどのようなものなのか。様々な証言や専門家の分析をもとに新疆ウイグル自治区でおきた人権侵害の実像にせまる。<国際部・オコーノ絵美>
●中国側が「職業訓練所」とする施設
中国北西部の新疆ウイグル自治区にある収容施設内で撮影されたとする1枚の写真。同様の施設で働いていた人の証言によると、看守らがこん棒でウイグルの人々を殴るなどの暴力は日常茶飯事で、拷問や性的暴行なども行われていたという。国連は2017年以降にこうした収容所に入れられた人は100万人以上いると推計する。
●新疆ウイグル自治区とは
新疆ウイグル自治区には多くのイスラム教徒が住み、日本のおよそ4.5倍の面積を占める。また天然ガスなどの地下資源が豊富で、中国のエネルギー供給上大変重要な地域だといえる。そして、この地域には冒頭の写真が撮影されたようなウイグルの人々が収容される施設、中国側が「職業訓練所」と呼ぶ場所が多く存在するとされる。
●「職業訓練所」の中では何が
2017年、9か月間ほど施設内で中国語を教えていたというウイグル自治区出身のケルビヌル・シディクさんに話を聞いた。
「拘束された人は電気が流れるタイガーチェアと呼ばれる鉄の椅子などで拷問を受けます」
「何の罪も無いのに強制的な取り調べで、罪を犯したように発言せざるを得ません」
「30人以上いる部屋では狭いので順番に寝て、中央のバケツをトイレとして使いました」
「部屋には鍵がかかり、自由に出入りはできません。手足に鎖をつながれ動物のように移動させられます」
劣悪な環境の施設内での拷問。さらに拷問だけではなく女性への性的暴行も多くあったという。
シディクさん自身も不妊手術を強制的に受けさせられたほか、看守による収容者への性的暴行も日常的にあったと証言する。
●「ハイテク警察国家」中国
ウイグル問題に詳しい専門家は施設に収容される人たちが、何か罪を犯したわけではなく、当局に日常生活を監視され「怪しい」とされると収容されるケースが多いと指摘する。その生活の監視に使われているのがAIだ。
2022年5月にネット上に流出した「新疆公安ファイル」と呼ばれる収容施設の内部写真などを含む資料の分析を進めるゼンツ博士は「ハイテク警察国家と化した(中国当局の)新疆での戦略は非常に広い範囲で情報を収集することにある」と指摘する。
ゼンツ博士によると、新疆ウイグル自治区には街のいたる所にAI搭載の監視カメラがあり最新の顔認証の技術で人物特定がされるという。さらに個人のスマートフォンからは、当局により入れさせられる監視アプリにより、電車や車での移動、家の出入りなど人々の動きを細かく追跡していると説明した。
例えば、私たちが話を聞くことができた新疆ウイグル自治区に住む男性は、「スマホに(別の)新しいアプリを入れるとすぐ当局から電話が掛かってきて使用目的をきかれた」とスマートフォンは常に監視されていると話した。
このようにスマホが監視のツールになるならば、スマホを使わないほうが安全なのだろうか。ゼンツ博士によると、スマホを急に使わなくなると当局からかえって「怪しい」と目を付けられるというのだ。こうして不透明な基準でアプリで「怪しい行為」があると判断され、当局に通知が行き、施設に収容されるケースも少なくないという。
●宗教政策としての監視
中でも監視が厳しくなっているのがイスラム教徒が礼拝を行う「モスク」などでの信仰活動だという。これはモスクに設置された監視カメラの画像だが、ゼンツ博士はモスクの訪問や、スマホへのコーランの保存など個人の信仰活動も監視カメラやAIの顔認識機能を使い常時記録されているという。
●モスクの破壊
さらにモスクが破壊されるケースも指摘されていて、新疆ウイグル自治区での弾圧を長年調査しているオーストラリア戦略政策研究所は、2017年以降、1万6000以上のモスクが壊されるなどしたと推定している。
4つのモスクの衛星写真を比較すると、それぞれ2012年から2016年に撮影されたものにはドーム型の天井やミナレットと呼ばれる高い塔などイスラム建築の特徴を含む。しかし、2016年以降の写真では、4つのモスクのうち、3つが完全に取り壊され更地に。残りの1つもドーム型の天井や高い塔などイスラム建築の要素が取り払われている。
2016年以降というのは中国当局が宗教政策として、国家レベルで信仰表現への介入を強めた時期と重なり、モスクの破壊もイスラム教の建築物を排除することが目的だったとみられる。
こうした宗教的弾圧も含めたウイグルの状況について、アメリカ政府は2021年にウイグルの人たちに対する「ジェノサイド」(=大量虐殺)だと認定し非難している。
こうした厳しい人権弾圧が行われているとの指摘・証言が多くある中、中国政府は弾圧との指摘について「今世紀最大のデマ」、「数々の流出資料や証言も全てねつ造やウソだ」と主張している。さらに2019年には施設に収容されていた人たちは「全員卒業した」と述べ、施設の運用を終えたとしている。
しかし、ゼンツ博士は、収容施設に入れられた人で今にいたるまで行方が分からないままの人が大勢いると指摘する。
さらに、日本に住むウイグルの人の中には今でもなお、新疆にいる家族に連絡すると家族の身を危険にさらすことになると話す人もいる。
千葉県でレストランを営むローズさんは「(家族が)今も拘束されてるか分からない。自分の家族が生きているかも分からない」「ウイグル人みんなに電話したけど出ない、唯一出た人には『なぜ電話するの?死んでほしいのか?』と言われた」と証言する。
日本ウイグル協会会長のアフメットさんは「いつ家に警察が入ってくるのかわからない世界になってる。いつでも自分が連れて行かれる危険性はあるという恐怖心の中で人々が生活をしている」とウイグルの人々の心境を語る。アフメットさんはまたこの問題の解決には「外部からの圧力」が不可欠だと訴えた。
●中国…“多数派工作”で批判封じ込め
しかし、去年10月には国連人権理事会でウイグルの人権弾圧を正式に議題として取り上げることを西側諸国が提案したが、否決された。これは中国に近いとされるアフリカや中東諸国が反対したためだ。
今や世界第2位の経済大国となった中国は、経済支援により途上国を中心に影響力を拡大している。これに伴い、中国が重要なポジションを務める国際機関では、中国の不利益になる問題は議題になりにくい側面もある。
2023年4月の日中外相会談で林外務大臣は、ウイグルの人権弾圧について、日本政府は「深刻な懸念を表明した」と述べた。日本政府はこの「深刻な懸念」という表現をここ数年繰り返している。
アフメットさんは、日本について「ウイグルの人々に対するジェノサイド(=大量虐殺)であると認定することなどさらに踏み込んだ圧力をかけてほしい」と強調した。
出典:Victims of Communism Memorial Foundation
https://www.xinjiangpolicefiles.org