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「もはや隠れて生きない」…あの夜に何が?LGBTQ運動の象徴「ストーンウォールの反乱」当事者が語る

2024年7月6日 6:00
「もはや隠れて生きない」…あの夜に何が?LGBTQ運動の象徴「ストーンウォールの反乱」当事者が語る

55年前、アメリカで性的マイノリティーの権利獲得運動の象徴となった「ストーンウォールの反乱」。あの夜バーにいた当事者は、再び権利を抑え込む動きが広がりつつあると懸念を抱いています。(NY支局長 末岡寛雄)

 ◇◇◇

プライド月間を迎えた6月。パートナーと共に歩くのは、55年前にニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」の当事者マーク・シーガルさん(73)です。

マーク・シーガルさん(73)
「自分の若い頃の出来事が歴史として認められるなんて思ってもみませんでした」

当時の状況を伝える展示施設のオープン記念式典で、バイデン大統領や歌手のエルトン・ジョンさんと共にスピーチに臨みました。

マーク・シーガルさん(73)
「この55年間私たちのコミュニティーは、1969年当時には考えられなかった権利のために戦ってきました」

■「あの夜までは安全だった」…LGBTQへの弾圧 警察がバーを破壊

性的マイノリティーへの偏見から取り締まりが厳しかった時代の、1969年6月28日、ゲイバー「ストーンウォール・イン」に警察が踏み込み客らに暴力をふるいました。当時18歳だったマークさん。ストーンウォール・インは特別な場所だったといいます。

マーク・シーガルさん(73)
「1969年には、私たちは新聞、雑誌、テレビやラジオに出ることは許されませんでした。私たちは不道徳で違法で、精神的に不安定な存在とされていたのです。ストーンウォールは薄汚いバーで、飲み物も薄められていました。それでも、私たちにとっては特別な場所でした。なぜなら、私たちは街では暴力を振るわれたり逮捕されたりすることがあったからです。ストーンウォールに行けば、自分らしく過ごせたんです。好きな人と一緒に踊れたし、キスをしたり抱き合ったりすることもできました。あの夜まで、安全な場所だったのです。ストーンウォールの反乱の夜は、警察が突然勢いよく入ってきて、バーを破壊し、私たちにボトルを投げつけたり暴力をふるったりしたのです。私たちに対する社会の見方に初めて気づいた重要な瞬間でした。怒りを感じました。ひどい言葉をかけられて生きてきた人生で蓄積した怒りが、爆発したのです」

■「もはや隠れて生きない」と決めた夜…世界中の運動に

マークさんたちは警察に抵抗して事態は暴動に発展。この夜の出来事のあと、自分たちの権利を求めて権力と戦うようになりました。

マーク・シーガルさん(73)
「人々に私たちの存在を知ってもらい、もはや隠れて生きないと決めたのです。法的保護や医療について書かれたビラを毎晩配り始めました。メディアの前でも警察の前でもデモを行いました。ゲイの若者やトランスジェンダーの人々を助けました。さらには、最初の年の終わりには、今の『プライドパレード』を作りました。ストーンウォールの反乱前は活動家は100人ほどでしたが、1年後のプライドパレードには、1万5000人が集まったのです。私たちがあの夜を発端に築き上げたものは、世界中の運動となったのです」

マークさんらが起こしたストーンウォールの反乱から1年を記念してニューヨークではデモが行われました。これが現在まで続く「プライドパレード」の始まりなのです。

マーク・シーガルさん(73)
「当時の私たちは、とにかく社会の一員として認められたかったのです。まず社会で可視化されはじめ、社会が私たちを恐れなくなりました。その後、社会や政府に対して、私たちの人権を認めてもらうこと、差別禁止を立法化することを訴えました。世の中に私たちの存在を知らせるためメディアにも訴えました。報道機関の前で抗議活動をしたり、テレビの番組をジャックしたりもしました。軍隊に入隊できる権利や同性婚の権利を求めて戦いました」

■「同性婚が認められたときが一番うれしかった」

長年にわたる活動で一番うれしかったことをマークさんはこう語ります。

マーク・シーガルさん(73)
「同性婚が認められた時です。婚姻の平等ですよね。そのおかげで夫と結婚ができるという人生で一番幸せな日が訪れたからです。私が得ることができた愛と安心感を社会の誰もが享受できるべきです。それが人生の中で最も重要なことでした。その後、私はオバマ大統領と、全米初のLGBT高齢者向け、低所得向けの住宅を開設することになったのです。オバマ大統領は、私と夫をホワイトハウスに招待してくれました。ストーンウォールの反乱に立ち会った当時18歳の青年が、大統領からホワイトハウスに招待されることになるとは思ってもいませんでした。目に見える存在になれたのです。目に見えない時代を終わらせたのです。その結果、当事者以外の仲間も生まれ、LGBTの権利を求める戦いは、基本的人権を求める戦いなのだと人々は気づいたのです。ラテン系・黒人・女性が人権を求めて戦うのと何ら変わらないのです。私たちも社会の他の人たちと同様に、平等を求めているのです。権利獲得運動の功績を私が独り占めできません。一緒に戦った人々の多くはもうこの世にいません。それでも今なお新しい活動ができていることが幸せです」

■再びLGBTQへの反対運動が起きても「団結してより強くなる」

しかし、アメリカでは最近保守派が強い地域では、トランスジェンダーの医学的治療を禁じるなどの「反LGBTQ法」の成立が急増。性的マイノリティーの権利を制限する動きが広がりつつあります。

マーク・シーガルさん(73)
「今起きている反対運動は、初めて起きたものではありません。これまでも、反LGBTの歌手やキリスト教団体による反対運動がありました。レーガン政権やブッシュ政権の時にも同性婚への反対運動はありましたし、軍の入隊に反対する動きもありました。全米で議論されている(反LGBT)法案のほとんどは、反トランスジェンダーなどの考えに基づくものです。私たちが、ゲイ男性やレズビアン女性をすでに正常化できたのが理由だと思います。しかし残念ながら、トランスジェンダーへの理解が社会では進んでいません。トランスジェンダーへの注目を高めるには私のようなLGBTQを公表している当事者が力になることが重要です。どの時代にも反対運動はあるのです。反対運動が起きた時大事なのは、私たちはさらに強くなり戻ってくることです。新たな反対運動がおきていますが我々は団結してより強くなるでしょう」

マークさんは今年11月に行われる大統領選挙の行方が気がかりだと話します。

マーク・シーガルさん(73)
「トランプ前大統領は、同性婚を取り上げようとしています。あなたに夫や妻がいれば、その関係が危険にさらされています。連邦最高裁判所には同性婚を無効にしたいと公言している判事が2人いるのです。トランプ氏の支持者は国内で少数派で、共和党でも一部の存在です。トランプ氏が支持を集めるのは彼が人種差別主義者であり、同性愛を嫌う代弁者だからです。そういう人々は私たちを嫌っていますが、多数派ではありません。トランプ氏は、1950年代のアメリカとそこから変わらないことを望む人のために戦う人間なのです。今年は興味深い年になるでしょう。確かに私は心配はしています。どうなるかわかりませんが、希望は持たなければなりません。アメリカ国民の知性と心を信用しています。信用できなければ諦めることになります。私は諦めるつもりはありません。必要とあれば、あの戦いをもう一度やりぬく準備はできています。抗議デモをする覚悟も、逮捕される覚悟もできています」

■「日本を含む世界の政府がLGBTQの人権を支持すべき」

インタビューの最後に、日本について聞いてみました。

マーク・シーガルさん(73)
「アジアの他の国で起きたような動きが日本にも訪れることになると思います。アジアでは、特に台湾のゲイプライド活動は婚姻の平等に大きな役割を果たしました。その結果、台湾で婚姻の平等が法制化されたのです。現在、アジアのほぼ全ての国でゲイプライドを求め抗議活動が起きてます。日本を含む、世界の政府がLGBTQの権利を含む基本的人権を支持するべきです。政府も仲間になるべきなのです」