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福島第一原発の処理水放出から1年、禁輸措置続く中国で北海道のイクラにホタテ…“闇流通”のナゾ

2024年8月24日 14:14
福島第一原発の処理水放出から1年、禁輸措置続く中国で北海道のイクラにホタテ…“闇流通”のナゾ
ロシア産と偽った北海道産のホッキ貝

東京電力福島第一原発の処理水が海に放出され始めてから、24日で1年。中国では、いまだ日本の水産物の輸入停止措置が続いている。店頭で見かけるはずのない“日本産の魚”。しかし、中国の市場や料理店で“闇流通”している実態に迫った。

■処理水放出1年、中国から消えた“日本の魚”

8月上旬、訪れたのは中国・北京の海鮮市場。かつては、ここに日本のマグロやウニが所狭しと並ぶなど、中国は日本の水産物の最大の輸出先だった。しかし今、“日本産”の文字は消えている。

きっかけは、1年前に始まった福島第一原発の処理水の海洋放出だ。中国政府は対抗措置として、日本全国の水産物や水産加工品の輸入を全面的に禁止。違反者は法に基づき、厳しく処分すると発表した。中国の漁業関係者は「違反すれば、営業許可が一発で、はく奪される」と、おびえる。市場の店頭で売られていたウナギも平仮名と漢字で書かれ、一見、日本産かのように見えるが、裏面を見ると、生産地は中国・福建省。「日本産の魚を取り扱えるはずがない」「中国産のものに全て切り替えた」などと、販売員は口をそろえる。

■「入荷してない」一転…山積みになった“日本産の魚”

「一部の店舗で日本の水産品が今も裏取引されている」。この情報をつかみ、取材班は水産品を扱う「A店」に向かった。

中に入ると、店頭のショーケースにはロシア産やニュージーランド産の甘エビが並んでいる。

――この店で日本の魚を買うことはできる?

「日本の魚は禁止されているよ。販売してないよ」

従業員に聞けば、この店では処理水放出以前、青森県産のイクラを販売し、人気を博していたという。「今は絶対に入荷できない」と、かたくなに日本の水産品の存在を否定した。

しかし、質問を繰り返していると、別の従業員が店の奥へと向かっていった。戻ってきた従業員が手にしていたのは、イクラ。箱を見ると“北海道産”と書かれている。賞味期限が3年間で、処理水の放出以前に入荷したものだという。

中国では、たとえ処理水の放出以前に日本から輸入した水産品であっても、販売は認められていない。しかし、行き場をなくした在庫が、闇で取引されていたのだ。時々、中国当局が巡回して監査に入るため、店頭では堂々と販売できないと嘆く。

そうは言うものの、悪びれる様子もなく、次から次へと私たちに日本産の商品を見せてきた。北海道産のホタテに、鹿児島県産のブリ。さらには、富山県の名物・白エビ。店の裏には日本の水産品が、たくさん残っているという。

日本産を求める顧客、特に、中国で日本料理店を営む関係者からの要望があり、高い価格で販売しているのだ。

■禁輸措置後も海を渡っていた、日本のイクラ

しかし、裏取引の実態は、それだけにとどまらなかった。

水産品のほか、ワサビや、しょうゆなどが商品棚に並び、刺し身や寿司を連想させる「B店」。以前は北海道産のウニを販売していたが、今は政府の検閲が厳しく、海鮮市場の管理者も目を光らせているという。

日本の水産品を購入できないかと店員に聞くと、最初は「日本産は売っていない」と言い張っていた。しかし、質問を続けると、上司とみられる人物と電話し始めた。そして、「向こうの倉庫に置いてあるので取ってくるよ」と店を離れたのだ。

10分後、店に戻ってきた店員が手にしていたのは、こちらもイクラ。“北海道産”と書かれている。しかも、驚くべきことに、その入荷時期は今年1月、つまり輸入禁止措置後だというのだ。「ほかの日本の水産品が欲しければ、倉庫から持ってくる」と言い、さらには「新鮮な魚がいいなら、業者に掛け合う」と話した。

■“口裏合わせ”のホッキ貝「日本産とは言えない」

禁輸措置後の今も中国に流通していた日本の魚。厳しい当局の目をかいくぐり、一体どうやって輸入しているのか。取材を続けると、北京で営業している中国人オーナーの日本料理店で、その答えが明らかになった。

中国の富裕層で、カウンター席が連日、混み合う日本料理店。刺し身の盛り合わせや寿司が入った「おまかせコース」が人気だ。処理水放出以前は、北海道のウニやサーモンがコース内容に含まれていたが、そのいずれも中国産に切り替わったという。

メニュー表にも、その変化は表れていた。乱雑に貼られた意味深なシール。まじまじと見つめると、シールの下に隠された「北海道」や「日本直輸」の文字が、うっすらと見えた。日本産をうたう文字を隠すことで、日本の魚は提供していないとアピールしているのだ。

しかし、ホッキ貝の握り寿司の産地を聞いたところ、その説明がぎこちない。日本産か問うと“ロシア産”と繰り返す。その後も尋ね続けると、ついに「みんなロシア産と口裏を合わせているだけだ。業者は産地をひそかに教えてくれるんだけどね」と、まさかの“口裏合わせの実態”を暴露した。そして、「北海道産だと思う。本当は日本産と言えないんだ」と漏らし、さらには「北朝鮮から運ばれた」と不可解な説明を始めたのだ。

聞けば、北海道産のホッキ貝は北朝鮮経由で運ばれ、そこでロシア産のラベルに貼り替えられてから、中国に入ってきているという。

今が旬の日本のイサキやアジについても、韓国経由で手に入っているとのこと。

日本円で1万8000円もするキンキの塩焼きにおいては「今年になってから入荷した新鮮なものだ」と日本産をあっさり認め、「日本から直接、空輸している」と闇流通の実態を明かしたのだ。

水産品販売者や日本料理店が、輸入停止以降も日本の魚を欲しがる背景には、中国で根強い“日本食人気”がある。富裕層を中心に、高い金額を払ってでも、日本の魚を食べることにステータスを感じる中国人は少なくなく、ひと口食べただけで日本の魚か、そうではないか、違いが分かる口の肥えた客もいるという。

帰り際に「秋には日本産のサンマも提供できるだろう」と話す板前。

後日、この店に電話すると「当店で日本産の魚は食べられない。処理水の放出以降は禁止されている」と繰り返した。

■“密輸”のからくり…第三国経由で産地を偽装

中国の料理店などの証言から分かった、あの手この手で続く、日本の水産品の“密輸”。その裏には、規制をかいくぐる抜け道が存在していた。

今回、中国沿岸部の水産都市で、貿易や冷凍庫の管理を行う業者が、私たちの取材に応じた。「韓国や台湾などの第三国を経由させることで産地を替え、日本のホッキ貝や甘エビなどを仕入れて、冷凍庫に保管している。要望があれば、北京や上海などの都市部に配送する」と“密輸”のからくりを証言した。

また、水産品の販売員も「日本の魚は需要があり、密輸はある」「直接輸入も間接輸入も含め、今も日本から輸入できる」と口をそろえる。

根強い日本産水産物の人気とは裏腹に、今も処理水を「核汚染水」と非難し、禁輸措置を続ける構えの中国政府。23日の会見で「食品安全と人々の健康を守ることは、合理的で必要な措置だ」と従来の主張を繰り返した。

日本政府は即時撤回を求めて交渉を続けているが、出口はまだ見えていない。