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ウクライナ情勢 習近平国家主席の誤算と台湾統一は

2022年3月18日 22:19
ウクライナ情勢 習近平国家主席の誤算と台湾統一は
2022年3月16日「深層NEWS」より

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を巡り、ロシアと「蜜月関係」と言われた中国のスタンスが注目されています。習近平国家主席はロシア包囲網が築かれる中で、どう立ち振る舞うのか。中国がもくろむ「台湾統一」に向けて戦略の見直しも?

3月16日のBS日テレ「深層NEWS」では、笹川平和財団上席研究員の小原凡司さん、慶応大学准教授の鶴岡路人さんをゲストに、習近平主席の“葛藤”に迫りました。

※「深層NEWS」本編は YouTubeにて公開中。こちら からご覧いただけます。

■ウクライナ情勢を巡る習近平国家主席の誤算は

右松健太キャスター
「今年2月の北京オリンピックでは、民主主義陣営が“外交ボイコット”をする中で、習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。プーチン大統領は『両国の関係は、友好と戦略的パートナーシップの道を前進し発展している。前例のないものとなっている』と発言。共同宣言では『両国の協力にタブーも上限もない』と蜜月ぶりをアピールしたが、ウクライナ侵攻を巡っていま、習主席の頭の中は? 葛藤は?」

笹川平和財団上席研究員 小原凡司氏
「北京オリンピックの際の中露首脳会談のときには、中国は外交ボイコットを受けて国際社会から孤立しかねない中で、プーチン大統領が直接来てくれたことに対する感謝の意図を示す必要もあったので、リップサービスだとは思います」

「『タブーも上限もない』というのは、言い方を変えると、『何も枠組みはない』ということです。中国は逃げ道を用意していて、中国は『やろうと思えば上限はない』というだけのことであって、これを何か約束したということではないんだと思います」

右松キャスター
「もし軍事侵攻の可能性を知っていたら、ここまでのリップサービスがあったか。アメリカ側は中国に、ロシアによるウクライナ侵攻に関する極秘情報を提供していたという話もあるが、習主席の誤算は?」

小原氏
「誤算は2つあったと思います。1つは、プーチン大統領が本当に武力侵攻するという情報に触れていたかどうかです」

「習主席は国内の情報機関に対して、(アメリカ側の情報を)分析するように命じたと思いますが、分析したのはどの情報機関かわかりませんが、軍ではないようです」

「一説には情報機関は『プーチン大統領は武力侵攻しないだろう』という情報を習主席にあげたという話もあります」

「2つ目の誤算は、これほど長引くとは思わなかった。実際にロシアが本気でウクライナに侵攻すれば、数日のうちに終わるだろうと。そうすれば中国は第三者の立場を取って、お茶を濁してる間に事は終わってしまう。終わってしまえば、『遺憾だった』と言えば済む話だと思っていたのではないかと思います」

慶応大学准教授 鶴岡路人氏
「(習主席が)読み違えたのかということですが、ロシアの軍事作戦が短期的にすぐ成功するというのは、別に中国だけが勘違いしてたわけではなく、国際社会もロシア自身もそうだったわけです」

「ウクライナの抵抗が予想以上に強く、結果としてこう着状態になっている。これは皆が読み違えていたと思います」

■中露貿易拡大も誤算?

右松キャスター
「先月、ロシアは中国へ天然ガスを長期供給する大型契約に合意。これはウクライナ侵攻が行われる前でのタイミング。西側諸国が制裁を強化するなかで、間接的に経済支援を行っているように見られかねない。習主席はこの合意を、今となってはどう考えている?」

小原氏
「これは1つ誤算だっただろうと思います。短期間のうちに(軍事侵攻が)終わるとするならば、この契約自体がそこまで問題にされることもなかった。ドイツがノルドストリーム2をこれ以上、進展させないと決めたのも、その後のこと。その意味では習主席もこの結果は誤算だったし、今となってみればそれはマイナスになっているということだと思います」

右松キャスター
「中国としてはロシアと一蓮托生というイメージがついてしまうというのは避けたい?」

小原氏
「そうですね。中国としては、国家目標は台湾統一だけではないんです。その先があって、自分たちの『標準』や『ルール』『規範』を国際社会に実装して、アメリカのように、国際社会の中で指導的立場に立ちたいというのが中国の目標です」

「そう考えると、この段階で国際社会から非難され経済制裁をかけられたのでは、そもそも自分たちの目標を追求することさえままならないということになりますので、それだけは是が非でも避けたいのだと思います」

右松キャスター
「中国の、1月から2月のロシアとの貿易総額は、前年同期比で38.5%増加。ロシア側からすると中国との関係を決して放したくない?」

鶴岡氏
「ロシアは国際社会、特に日米欧から経済制裁を受けているので、その抜け道探しという観点で投資や技術をどこから受け入れるか、売りたいものをどこに売るかという点で中国の比重が極めて上がっているのは事実です」

「ただロシアも、中国に対して依存を深めたくて深めているわけではないのです」

「ロシアと中国の関係で、どちらがジュニアパートナーで、どちらがシニアパートナーかと、ある意味、ずっと競争状態でした」

「実態としては中国の経済力が急激に拡大する中で、中露関係のバランスというのは中国にかなり傾いていたわけですが、政治や安全保障、外交っていう観点ではまだロシアの存在が大きかった。ただこれが、ウクライナ侵攻で、おそらく相当、明確に中国優位になっていく。おそらく中国にとっては良い話ということになると思います」

■中国にとって最悪のシナリオは

右松キャスター
「今回のウクライナ侵攻によって、中国から見る対ロシア観は変化していく?」

小原氏
「現在のところは同じ方向性でアメリカの一極体制を崩したいという意味で、中国とロシアは協力できる。ただ戦略レベルであって戦術レベルではない。共同作戦ができるようなレベルではまだないということです」

「もし中国が国際社会と共に制裁に加担したときに、ロシアが中国に敵対すると、中国としては最悪のシナリオになるのです。背後に敵を背負うことになるので。そうすると中国は二正面を向かなければいけなくなる。それだけは避けたいので、ロシアに対しては支援をしたいという側面もあると思います」

■欧米も対中露比重を変化

読売新聞 飯塚恵子編集委員
「習主席は北京オリンピック・パラリンピックも終わりましたので、頭の中は秋の共産党大会での3期目の国家主席に向けていっぱいなんだと思います」

「そうなると、今の習主席の欲しいのは2つ。政治的な安定と経済の安定。もうこれしかないと思います」

「ですから、ロシア側に加担することで、西側から経済制裁を受けるのは悪夢なわけです。つまり習主席は、欧米式の民主主義などを説教されるのは嫌なんだけれども、経済では西側と切れたくない。そういうアンビバレント、二面性を持ちながら今後も動いていくのではないかと思います」

「揺れ動いているのは中国だけではなくて、西側世界も動いてるんだと思います」

「ここ数年、米中対立を背景にアメリカの安全保障政策の比重は中国にありました。それがウクライナへの軍事侵攻が起きたために、比重が中国からロシアに動いたのではないかと。それと共に、民主主義陣営対専制主義陣営のこの構図は残る」

「ロシアと欧州の安全保障に比重を戻せという意見が欧米で相当台頭している。その中で、どういう座標軸でこれからこういう議論が進んでいくのかというのは、欧米も今、悩んでると感じます」

■中国の「台湾統一」シナリオに変化は?

右松キャスター
「中国の核心的利益として台湾統一を目指しているとされる。今回のウクライナ侵攻を受けて、中国側は戦略面で何を見出した?」

小原氏
「中国は今回のロシアによるウクライナ侵攻から教訓をいくつか得たと思います。1つは核を持っている大国が決心したら誰も止められないということです」

「ただ核を威嚇に使いながら、軍事侵攻をした後の結果は勝利なのかどうかというのはわからないということも、習近平主席はちゃんと見たのだと思います」

「しかも長期化すればするほど、どんどん侵略国にとっては状況が悪くなっていく。今回、ロシア軍のウクライナ侵攻はハイブリッド戦がガタガタだったように見えるんです」

「ハイブリッド戦などをしっかりやり、相手の社会を不安に陥れ、分裂させ、対立させ、今回のウクライナ国民のように、軍と一丸となって侵略国に立ち向かうというような状況をなくさなければ、非常に強い抵抗にあうということも理解をした」

「さらに非常に短期間で済ませなければいけないということ。ロシアは19万しか投入してないのですが、これでは全面侵攻には全然足りないですね。ということは、中国はもっと大量の兵力を一度に押し寄せなければいけないということもわかっただろうと。ただそうなると、どんどんハードルが上がっている状況ではあります」

「この準備のために中国はさらに軍備の増強を進めるということになると思いますし、一方で国際社会などの批判を避けるための影響力工作も強化すると思います」

右松キャスター
「ロシアが行ったウクライナ侵攻で、中国に対する警戒感がより高まったと思うが習主席の心中は?」

小原氏
「これが一番、プーチン大統領に対して、苛立たしく思っているところだと思います。この時代に前時代的な戦争を仕掛ける国があるんだということを国際社会は理解をしてしまった。皆が身構えてしまっている中で中国がやると大変なことになる。これは習主席にとって難しい問題だと思います」

右松キャスター
「今後、ロシアや中国などの専制主義国家とどう向き合うべきか?」

鶴岡氏
「今後、中国を念頭に置いたときに最も重要なのは、今回のロシアの試みというのを失敗だという形で終わらせるということです。ロシア軍の苦戦はいろいろ伝えられていますがまだ油断できない。最終的にロシアにとって戦略的失敗だったということにするというのが、全ての前提ということになると思います」