国連・安保理改革への一歩となるか 狙いは…拒否権の乱用抑止「拒否権行使なら国連総会で説明求める」決議案 採決へ
国連安全保障理事会で常任理事国が拒否権を行使した場合、国連総会を開くことを義務づける決議案の採決が近く行われる。国連に加盟する193か国の前で拒否権行使の理由について説明を求めることで、拒否権の乱用を抑止する狙いがある。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり安保理の機能不全が露呈する中、安保理改革に向けた一歩となるのか注目だ。
■57か国が共同提案国に 提案国の国連大使「採択に自信」
決議案は、ヨーロッパのリヒテンシュタインが主導しているもので、安保理の常任理事国が拒否権を行使した場合、10日以内に国連総会を開き、拒否権が行使された状況について協議することを義務づけている。
さらに総会が開催される72時間前までに拒否権行使について安保理としての「特別報告書」を提出するよう求めている。
リヒテンシュタインの国連代表部によると、20日時点で、すでに57か国が共同提案国になっているという。
早ければ来週の国連総会で決議案の採決が行われる見込みで、リヒテンシュタインのウェナウェザー国連大使は記者団に対し「採択される自信は大いにある」と語った。
■アメリカ国連大使「ロシアの拒否権乱用を懸念」
安保理で拒否権を持つ常任理事国の中で、唯一、今回の決議案の共同提案国に名を連ねるアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は声明で、「常任理事国が拒否権を行使する場合、なぜその決議が国際平和と安全の維持を促進しないと考えたのか説明すべきだ」と指摘。
さらに「ウクライナに対する不当な戦争への非難からプーチン大統領を守るなど、ロシアが過去20年にわたり拒否権を乱用してきた恥ずべきパターンを懸念している」と述べ、アメリカとしては、ロシアを念頭に置いた措置であることを明らかにした。
その上で、「決議案は常任理事国の説明責任、透明性につながる重要な一歩となる」と強調した。
■ウクライナ情勢めぐり機能不全を露呈した国連安保理
ウクライナ情勢が緊迫した今年1月以降、安保理が開いたウクライナに関する会合は20日時点で17回を数える。しかし、安保理としての一致した対応は取れていない。
2月25日の会合では、ロシアによるウクライナ侵攻を非難しロシア軍の即時撤退を求める決議案の採決が行われたが、常任理事国のロシアが拒否権を行使し否決されるなど、安保理の機能不全が露呈した。
その後、ウクライナの人道状況の改善を求める決議案は、ロシアによる拒否権行使が予想されることから安保理での採決は見送られ、総会に持ち込まれた。
こうした状況を受け、今月5日の安保理会合で演説を行ったウクライナのゼレンスキー大統領は、「安保理による安全保障はどこにあるのか。国連が機能していないのは明らかだ」と指摘。
ロシアによる拒否権行使については、「拒否権を『殺害する権利』に変えようとしている」と強く批判し、安保理改革の必要性を訴えた。
■国連外交筋「拒否権乱用の抑止につながるかは不透明」
今回の決議案は、安保理の常任理事国5か国に認められている拒否権の行使に重みを持たせ、乱用を抑止する狙いがある。
しかし、国連外交筋の一人は、「乱用抑止につながるかは不透明だ」と決議案の効果を疑問視する。
というのも、今回の決議案は、拒否権の行使そのものを制限するものではないからだ。さらに決議案では、拒否権が行使された場合、総会を開くことは義務づけられているものの、拒否権行使の理由説明には強制力がない。
国連外交筋(同上)は、「拒否権を行使した常任理事国が総会の場に出てこないこともあり得るのではないか」と指摘する。
安保理が機能不全に陥る中、安保理改革に向けた意味のある一歩となるのか注目だ。