中間選挙の争点「中絶」めぐり…選択を迫られる人たち クリニック周辺には反対派も アメリカ
中絶の権利を認めるべきか禁止するべきか。アメリカの世論を二分する議論が、いっそう高まっています。来週に迫った“中間選挙”の争点にもなる中、子どもを産むことの選択を迫られている人たちを取材しました。
◇◇◇
先月18日、アメリカ・イリノイ州の州ざかい近くで、中絶を行うクリニックでは、中絶が禁止されている周辺のミズーリ州などからも、若い女性が訪れていました。
一方、クリニックの周りは、中絶を反対する人たちに取り囲まれ、異様な雰囲気になっていました。
中絶反対派
「赤ちゃんを殺すことは何にもならない。赤ちゃんの命を神様に感謝しなさい」
「中絶で殺されるのは、いつも罪のない赤ちゃんです」
クリニックの前には、ボランティアにより無料で妊娠を検査できるバンが設置されていました。反対派の人たちが中絶を止めるために準備したのです。中には検査を受ける女性の姿がありました。
中絶を防ぐ活動を行うアンジェラさんが検査をしたところ――
アンジェラさん
「1人2人、間違いなく2人よ」
妊婦
「何てことかしら」
アンジェラさん
「支払いは心配しなくても大丈夫。赤ちゃんに必要なモノ、家具などは全て提供します」
この団体は、女性が子どもを育てられない場合、養子として引きとることで中絶を防ぐ活動をしています。
妊婦
「本当に双子ですか?」
アンジェラさん
「ええ。でも2人を育てられないなら、1人は引き受けますよ」
アンジェラさんは、「女性がクリニックで中絶するかどうかを迷っている場合、別の選択肢を与えます。手助けをするのです」と話しました。
◇◇◇
人工妊娠中絶の問題は、来週に迫った“中間選挙”の争点の1つです。連邦最高裁が6月、中絶の権利は憲法で保障されていないと判断して以降、中絶の是非をめぐって世論が二分しているのです。
先月20日、中絶が急きょ禁止されたアメリカ・ケンタッキー州のクリニックを訪ねました。
プランドペアレントフッド ウェイーダーさん
「中絶手術のために患者が来るところですが、8月1日以降、手術の施設は空っぽです」
クリニックによると、州内では年間5000件以上の中絶手術が行われていたということですが、今は中絶を希望する人は全員、別の州に送っているといいます。
私たちは、このケンタッキー州で中絶を選択したリア・マーティンさんに話を聞くことができました。
リアさんは、6月に2人目の子どもを身ごもり、検査を受けたところ――
中絶を選択したリア・マーティンさん(35)
「赤ちゃんに遺伝子の異常があり、母胎の外で生きていけないことがわかりました。さらに胎盤が、がん化する可能性もありました」
生まれてくる子は生きることができず、自らもがんになる可能性があることから、中絶を選ぶしかなかったといいます。しかし、ケンタッキー州では中絶が禁止され、ストレスで体にも不調をきたし入院しました。
リア・マーティンさん
「子どもは助からないと言われているのに、妊娠し続けるのを強制されるなんて信じられませんでした」
その後、中絶禁止を定めた州の法律は差し止めに。再び禁止されるまでの1か月の間に中絶手術を受けたといいます。
リア・マーティンさん
「中絶を望む人なんていません。しかし、(中絶の権利は)守られなければなりません。女性が自身や赤ちゃんの命について、また、中絶するかどうかについて、自分自身で決断できる必要があるからです」
リアさんは、中絶の権利を守ってほしいと訴えます。
◇◇◇
中間選挙が来週に迫る中、中絶に反対する候補者が多い共和党に対し、民主党のバイデン大統領は先月18日、「もし、あなたが中絶の権利を守りたいなら、投票に行ってほしい」と述べ、中間選挙で多数派を維持できれば、中絶の権利を明記した法案を成立させると公言しました。
国を二分する議論。選挙を経て、その対立はどうなっていくのでしょうか。