【解説】「出馬表明」急ぐトランプ氏…なぜ? ライバルの存在と“起訴”の可能性
アメリカの中間選挙で事実上、上院での敗北を喫した共和党。そのリーダーであるトランプ前大統領が、次回の大統領選への出馬表明を急いでいるということです。
◇身内を「ポンコツ」呼ばわり
◇若手を警戒
◇“起訴逃れ”か
以上の3点について詳しくお伝えします。
選挙結果について、開票が待たれたネバダ州とアリゾナ州で、民主党が当選確実となりました。これによって民主党は全体の内50議席を獲得し(非改選36議席)、議長が副大統領を兼ねていますのでプラス1議席という数え方になり、上院で多数派を維持しました。
今回、特に激戦とされた4つの州が、ネバダ州、アリゾナ州、ペンシルベニア州、そして、決選投票となったジョージア州です。ジョージア州以外は、民主党が3つ制していて、これが結果として、トランプ氏にとっての大きな痛手となったということです。
実は、この4つの激戦州で戦った共和党の候補は、トランプ氏自身が「推薦」した人でした。それが3つとも敗れたことで、トランプ氏は今後、共和党内で求心力を落としていく可能性があります。
「選挙でふるわなかったのは、共和党の上院トップであるマコネル院内総務のせいだ」と、責任を転嫁するような攻撃をしはじめました。
この「院内総務」という役割は、日本でいう党の幹事長に例えられる人です。そんなマコネル氏のことを、トランプ氏は自分自身の交流サイトで、「党の選挙資金の投入先を間違えた」と批判して、「ポンコツな上院のリーダー」だとか、「あいつは最悪だ!」とののしっているわけです。結果として、共和党指導部との対立をこれから深めるおそれもある言動です。
2016年の大統領選挙時と比べて、トランプ氏は少し年をとったなと感じますが、変わらないことが一つあります。それは、旗色が悪くなった時にトランプ氏が口汚く反撃することです。これは、この頃から変わっていません。
トランプ氏は選挙戦で共和党内から自分の言動を批判されると、「あいつは負け犬」とか「失敗したヤツ」といったような言い方で、とにかく徹底的に打ち負かして、それを自分の飛躍のバネにするパワースタイルで、一度は大統領に上り詰めました。しかし、今回の中間選挙では、「対立をあおって分断を深めていくトランプ氏の手法や政策に反感を抱く人も多かった」という分析があります。
“トランプ的”なものに疑問をもつ人が、今回は増えてきたということでしょう。
さらに、複数のアメリカメディアは、トランプ氏が側近に語った言葉を伝えていて、「もちろん出馬する。情熱があることを知ってもらいたいし、国を取り戻さなければならない」ということで、やる気満々です。
「何も選挙が終わりきってない今、急ぐことないじゃないか」と思いますけれども、トランプ氏は急いでいます。
理由は2つあります。
【理由その1】ライバルを意識し先制
ライバルというのは、共和党内で大統領選の有力候補とされているフロリダ州知事のデサンティス氏です。44歳とだいぶ若い人で、エリートコースを歩んできた経歴ですが、かなりさばけた性格で、「賢いトランプ」という異名ももっています。保守派に受ける政策・強攻策を次々と打ち出してきました。
フロリダ州内では、すでにトランプ氏の人気を上回っていて、今回の選挙でも、ライバルに大差をつけて勝利しています。
そのようなデサンティス氏について、トランプ氏がどう思っているのかというと、10日には、「宣伝はうまいが、平凡な知事だ」などと批判する声明を出しています。かなり意識しているようで、そのライバルよりも早く出馬表明することで、けん制していきたいとみられています。
【理由その2】起訴を回避したい
続いて、2つめの理由ですが、起訴される可能性があるいくつかの案件をトランプ氏は抱えています。その一つは、大統領に在任している間に、職務に関わる機密文書を持ち出した件です。これは、文書を自宅に持ち帰ったことや、返却を求められたのにすべてきちんと返却しなかったことが重罪になる可能性があります。
それから、去年1月、暴徒化したトランプ氏の支持者らによって議事堂が襲撃された事件です。この日、議会では大統領選挙の手続きが行われて、トランプ氏の負けが確定する手続きの日でした。
その襲撃の直前に、トランプ氏が「議会に向かって歩こう」と支持者に呼びかけていまして、この呼びかけが事件の引き金となったのではないかと調査が行われています。
トランプ氏としては、こうした事案で起訴されたくないわけです。そこで、さっさと出馬表明をすることで、当局に対して、「大統領候補たる自分を起訴することをちゅうちょさせよう」とのもくろみがあるとみられています。
アメリカの司法当局は、選挙に重大な影響を与えるような時期には、表だってその関係者に対する捜査はやらない、慎重にするという慣習があります。だから、「早く出馬を表明すれば、自分に手出ししにくくなるだろう」という狙いがあるとみられています。
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トランプ氏自身にとっての「重大発表」が、窮地を脱することにつながるのか注目されます。
(2022年11月14日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)