【解説】韓国総選挙きょう投開票日 今後の政権運営、日本への影響は?
韓国では10日、国会議員を選ぶ4年に1度の総選挙が行われています。尹錫悦政権の「中間評価」と位置づけられ、結果次第では今後の政権運営にも影響する可能性があります。今回の韓国の総選挙について、ソウル支局の横田明支局長が詳しく解説します。
韓国の国会は、日本とは異なり「一院制」となっています。日本は参議院・衆議院と「二院制」をしいていますが、韓国は「一院制」です。そして、国会議員を選ぶ総選挙が4年に1度行われ、議席数は300です。
今回の総選挙は、尹錫悦政権を支える与党「国民の力」と、最大野党である「共に民主党」の2大政党を軸に展開されています。
また、総選挙は大統領選挙と大統領選挙の間に行われるので、“政権への中間評価”と位置づけられていて、毎回、注目されています。
さらに、今年は総選挙の結果次第で、今後の政権運営に大きな影響があるといわれています。
現在の国会の議席数は、総勢300ある議席のうち、政権を支える与党側が114議席なのに対して、野党側は156議席で、野党側が半数を超えていて、いわゆる「ねじれ国会」となっています。
与党側としては、“ねじれ解消”となるのか、野党側は、さらなる議席数の獲得で、今後、政権交代が狙えるのかが焦点となっています。
総選挙の最新情報を、ソウル支局の横田明支局長に聞きました。ポイントは3つです。
1. 長ネギで“野党優勢”?
2. “台風の目”はタマネギ男?
3. 日韓関係への影響は?
森圭介キャスター
「まず1つ目のポイント、最新の見通しはどうなっていますか?」
ソウル支局 横田支局長
「韓国メディアは一貫して野党優勢との見方を変えていません。むしろ、いまは野党がどの程度勝つかに議論の軸足は移っているんです。実は3月上旬までは、与党優勢という見方がありました。背景には尹政権が進めている医療制度改革に支持が集まったことがありますが、これに対して医療界の反発により膠着したことで、徐々に与党の支持が低下しました」
ソウル支局 横田支局長
「さらに支持の低下に拍車を掛けたのは、尹大統領の視察中の発言でした。
尹大統領がスーパーを視察した際に、1本100円ほどの長ネギを手に取り『妥当な価格だ』と言ったんです。しかし、そのネギは特売の品で、本来の価格はその3倍ほどだったんです。『物価高で苦しむ庶民の気持ちをわかっていない』と批判をされる結果になりました。
すると野党はこぞって長ネギを持って遊説して尹大統領を揶揄するなど、格好の批判材料、つまり批判の象徴となってしまったんです。
今回メディアが注目しているのが、今回の選挙の投票率の高さです。5日と6日に総選挙の期日前投票が行われましたが、投票率は31.3%で歴代最高でした。
もともと与党を支持する有権者は投票に行く人がほとんどですので、今回、期日前投票の投票率が高かったのは、尹政権へ不満を抱える、いわゆる無党派層などが投票行動に移った、つまり与党以外に票が流れたとみられています。
もちろん選挙なのでフタをあけるまで結果はわかりませんが、こうした流れもあって、いまは議論の軸足は、野党がどの程度勝つかということに移っています」
森キャスター
「野党が優勢とみられている中で、野党がどの程度勝つかによって、情勢は変わってくるんですか?」
ソウル支局 横田支局長
「いまも過半数は野党側が握っていますが、仮に野党が圧勝し、3分の2の200議席以上を獲得すると、大統領への弾劾訴追も野党だけで行えることになります。
そうなると、大統領が罷免される可能性さえ出てきます。そのため、与党幹部がこぞって『何とかして野党が200議席を獲得するのを防がなければいけない』と訴えるなど、いかにして野党を圧勝させないか、という論調に軸足が移ってきているんです」
■“台風の目”は曺国元法相 政党を立ち上げて立候補
森キャスター
「そして2つ目のポイントですが、今回の総選挙では2大政党以外に“台風の目”があるということなのでしょうか?」
ソウル支局 横田支局長
「“台風の目”とされているのが、尹大統領と因縁の関係にあるとされる曺国(チョグク)元法相です。今回の総選挙に曺国氏は、政党を立ち上げて立候補しています。
文在寅前大統領の元側近で、前の政権で法相を務めた曺国氏は職権乱用や子どもの不正入学をめぐる業務妨害など、疑惑が次々と明らかになり『タマネギ男』の異名でも呼ばれていました。
このときに検察で捜査を指揮していたのが尹大統領で、因縁の関係にあるとされています。直近の世論調査では曺国氏の政党支持率が10%となっていて、“台風の目”とされています」
桐谷美玲キャスター
「いろいろ疑惑があったのにもかかわらず、なぜ曺国氏の政党に人気が集まっているんでしょうか?」
ソウル支局 横田支局長
「これには2つの要因があると指摘されています。まずは、最大野党トップの政党運営に共感できない有権者の受け皿となったこと。
さらには有権者が、曺国氏への捜査が厳しすぎるという、いわば同情票のようなものが集まっていて、尹大統領にとっては皮肉な結果となっています」
森キャスター
「そして気になるのが、この選挙結果が、いわゆる日韓関係にもどう関わってくるのかですが?」
ソウル支局 横田支局長
「仮に韓国メディアの見立て通り、与党が負けたとしても日韓関係にはすぐに影響はないとみられています。
そもそも外交関係は議会の承認を得なければいけないことは少ない。そのために、仮に『ねじれ国会』が続いたとしても、影響は受けにくいとされています。また、日韓関係が影響を受けないとみられる背景には、尹大統領の政権運営の姿勢が大きく関係しています。
ある日韓関係筋は尹大統領を『信念の男だ』『頑固で、ぶれることがない』と評価しています。尹大統領は、これまで冷え込んでいた日韓関係を改善していく過程で、これまでも野党の強い批判を受けてきました。ただ、一旦決めた方針を曲げることなく関係改善に軸足を進めていて、今後もこのような姿勢を変えることはないとみられています」
森キャスター
「日韓関係には懸念はないと考えても大丈夫ですか?」
ソウル支局 横田支局長
「すぐには影響はないとみられます。ただ、長い目でみると影響を受ける可能性はあるんです。
仮に今回の選挙で与党が負けて『ねじれ国会』が続くと、尹政権が公約に掲げている政策は、ことごとく野党のけん制を受けることになります。そうなると、あと3年の任期がある尹政権の終盤に差しかかった頃には、政策をまったく実現できない政権に失望する声が高まり、その流れで対日関係へも批判が出てくる可能性はあります。
また、そもそも最大野党『共に民主党』は、いまの政権の対日関係の姿勢には、だいぶ批判的です。仮に民主党が今回の選挙で勝利し、その勢いのまま次の大統領選に臨んだとすると、いまよりも日韓関係に厳しい政権が誕生する可能性もあります。そのため、長い目では状況を注視する必要があるかもしれません。
注目される投票結果ですが、このあと午後6時に投票が締め切られ、選挙結果は11日未明には大勢が判明する見通しです」