×

第二次トランプ政権でも中国と“貿易戦争”か 「1錠で命を奪う」アメリカでまん延する“違法薬物”

2025年1月3日 17:00
第二次トランプ政権でも中国と“貿易戦争”か 「1錠で命を奪う」アメリカでまん延する“違法薬物”
“ゾンビ・タウン”(サンフランシスコで2024年10月撮影)

中国やメキシコなどからの輸入品に追加関税を課すと表明した、アメリカのトランプ次期大統領。「アメリカ第一」を掲げ、就任前から自由貿易に背を向けるが、理由の1つに挙げているのが、これらの国から流入しているとされる違法薬物のまん延だ。「1錠で命を奪う」とも言われる、その実態は…。
(NNNロサンゼルス 岡田光弘)

西海岸カリフォルニア州サンフランシスコ。街中を走るケーブルカーやゴールデンゲートブリッジなど、日本人にも人気の観光地だが、街の中心部は今、多くの薬物中毒者であふれている。「毎日、毎日、クソ野郎ばっかりだ!」急にカメラに向かって叫ぶ人。数分間、うつむいたままの人。異様な光景が広がっている。

およそ10年にわたり、この街を見てきたホームレスのビリーさんに話を聞いた。かつてはヘロイン中毒者が多かったと言うが、ここ数年、大きな変化があると指摘する。「身体を折りたたみ、今にも倒れそうな奴ばかりだ。みんな、フェンタニルの過剰摂取だよ」。中腰の姿勢のまま動かない人が多く見られる光景から“ゾンビ・タウン”とも呼ばれる事態となっていた。

■「1錠で命を奪う」合成麻薬フェンタニル

「フェンタニル」は元々、がんの痛みの緩和など医療用に開発された鎮痛薬だ。ヘロインの最大50倍、モルヒネの100倍強力で、その致死量は2ミリグラムとされている。アメリカでは近年、密造されたフェンタニルの錠剤が密売人を通じて違法に売買され、簡単に手に入れられるようになっているという。

アメリカ麻薬取締局によると、2024年に検査した錠剤10錠のうち5錠の割合で致死量のフェンタニルが含まれていた。アメリカ国内では違法薬物により命を落とす人が一日あたり300人近くにのぼり、そのほとんどがフェンタニルの過剰摂取だという。麻薬取締局は「1錠で命を奪う」と注意を呼びかけているが、フェンタニルで命を落とす人は後を絶たず、全米で18歳から45歳の死因の1位となっている。

こうした合成麻薬フェンタニルのほとんどは中国で原料が作られ、メキシコの麻薬密売組織が合成し、アメリカに密輸しているとみられている。アメリカの国境警備局によると、2023年10月から24年9月までの間に押収したフェンタニルはおよそ10トンで、このうちの97%が南西部のメキシコ国境で押収したものだった。麻薬密売組織は近年、多くの稼ぎを得て力を強めていて、メキシコでの治安悪化の大きな要因となっている。

トランプ次期大統領はこうしたことを念頭に、中国からの輸入品に対し追加で10%の関税をかけると表明。経由地のメキシコにも25%の関税を課す大統領令に、2025年1月20日の就任初日に署名する考えを明らかにした。トランプ氏は大統領令について「麻薬、特にフェンタニル、全ての不法滞在者がこの国への侵略を止めるまで有効」と述べた。

一方の中国外務省は「フェンタニルはアメリカの問題だ」と指摘したうえで、「アメリカがフェンタニル問題に対処するための支援を提供してきた。アメリカは中国の善意を大切にし、苦労して勝ち取った2国間の麻薬撲滅協力の良好な状況を維持するべきだ」と反論した。

メキシコのシェインバウム大統領は24年12月4日、過去最多となる1100キロのフェンタニルを押収したと発表し、取り締まりの姿勢をアピールした。同時に、アメリカが関税を課した場合、報復措置も辞さない考えを示している。

サンフランシスコのホームレスは「仕事を失い、住まいを追われ、いつの間にか毎日ドラッグに手を出すようになっていた。きょうも使ったよ」と悲しそうに話していた。その表情からは、トランプ次期政権にはフェンタニルのまん延を食い止めることに加え、薬物に依存しない社会・経済を作ることが求められていると強く実感した。

最終更新日:2025年1月3日 17:00
    一緒に見られているニュース