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【独自解説】脱北者が3倍に急増、4年ぶりに日本海側で一家4人を発見…一方中国では2600人を強制送還 北朝鮮の国境往来めぐり何が?“異変”を専門家が解説

2023年11月10日 20:00
【独自解説】脱北者が3倍に急増、4年ぶりに日本海側で一家4人を発見…一方中国では2600人を強制送還 北朝鮮の国境往来めぐり何が?“異変”を専門家が解説
“コロナ禍”が明けて北朝鮮の国境に異変が

 今年9月までの韓国への脱北者が2022年の同時期に比べて3倍に増加しています。また、10月にも韓国近海で小型の木造船に乗った脱北家族4人が発見されています。「カネ」「モノ」「ヒト」が活発に動き始めた北朝鮮で今、何が起きているのか?コリア・レポート編集長 辺真一氏が解説します。

昨年同時期の3倍超…脱北者が急増

 2022年1~9月まで韓国に入国した脱北者は42人でした。ところが、2023年の同時期は139人と3倍を超えています。また、7~9月の40人の脱北者のうち、女性は37人でした。2002年以降“コロナ禍”までは、女性の比率が60%~80%となっています。

Q.なぜ脱北者の女性比率が高いのですか?
(コリア・レポート編集長 辺真一氏)
「北朝鮮で海外に出られる人は限られています。しかし、女性は中国を中心に東南アジアのレストランの従業員として海外に出だされるのですが、そういう人が集団で脱北するケースが増えています」

Q.北朝鮮レストランで働く女性はエリート階級なのでは?
(辺氏)
「中国や第三国で2~3年働いていると、だんだん西側に染まって、北朝鮮が嫌になって帰らないというケースが多いのです」

Q.この場合、北朝鮮に残された家族はひどい目に合わないのですか?
(辺氏)
「北朝鮮当局は、“脱北”そのものを認めていません。祖国を裏切って海外や韓国に逃げたとは言わず、あくまで『拉致された』『韓国やアメリカの情報機関に誘惑された』というのを建前にしています」

2019年以来4年ぶりに日本海側で脱北者を発見

 10月24日午前7時ごろ、操業中の3.5tの韓国漁船に乗っていた漁師のイムさんが長さ5~6mの不審な木造船を発見し、海洋警察に「おかしな船がいる」と通報しました。木船には男女4人が乗っていました。

 男性は身長160cm余りで20~30代に見え、長靴をはいていたそうです。イムさんは男性から「ここはどこなのか?」と聞かれ「(韓国の)江原堂束草だ」と答えると男性は乗ってきた船のエンジンを止めてイムさんの漁船に移ってきたといいます。イムさんは驚きましたが、その男性にたばこと水を渡したそうです。男性の船についてイムさんは「エンジンの音を聞くと耕運機のエンジンを船につけたような感じだった」といいます。そして北朝鮮の女性は、イムさんの船を見ながら「韓国の船は本当に良い」と言ったそうです。日本海側からの脱北者の発見は4年ぶりだということです。

Q.中朝国境からの脱北は聞きますが、日本海からというのはあまり聞きませんね?
(辺氏)
「日本海に10mそこそこの古い船で渡ってくるのは至難の業です。ほとんどが失敗して、無人の船が日本の海岸に漂着したります。なかには白骨化した死体があることもあります。成功するのは数件で、ものすごくリスクが高いのです」

Q.日本海で見つかるというのは、中朝国境が厳しくなったからなのでしょうか?
(辺氏)
「以前は中朝国境も自由に出入りできたのですが、今は脱北ルートを中心に、脱北を阻止するフェンスや鉄条網が敷かれていて、検問所もたくさん建ったので、なかなか脱出できなくなっています」

Q.今回のルートの警備は厳しくないのですか?
「今回のルートは、西側(黄海)ルートと比べると警備は緩くなっています。また、漂流しても日本にたどり着けば韓国に送還してくれるという事例もあるので、リスクは高いのですが、日本海を使うことがあります」

 発見された脱北者は、脱北を決意した理由を「普段から韓国社会に憧れ、長い計画を立てて亡命を実行した」と語っています。また、悪化する食糧難に耐えられなかったということです。しかし、10月25日の北朝鮮「労働新聞」によると、「黄海南道地域で例年にないほど豊作」「一部では2倍の収穫がある」と主張しています。これに対し、韓国側は「北は食糧難、宣伝内容とは異なる」としています。

Q.北朝鮮は豊作だと主張していますが、本当なんですか?
(辺氏)
「北朝鮮は“コロナ禍”で国境を封鎖して、外からの支援がない状態で危機的な状況になりました。そこで、軍用の備蓄米を放出したのです。なので、豊作だったとしてもその軍用米を補填しないといけません。ですから、一般市民まで配給が届かないと思います。そういう意味で相も変わらず食糧事情は厳しいと思います」

Q.こんな時になぜ北朝鮮では暴動が起きないのですか?
(辺氏)
「理由は2つあります。徹底した思想統制と恐怖政治です。密告されると一家郎党が収容所に送り込まれてしまいます。また、野党もありませんし、言論の自由もありません。宗教も封じ込まれていますので立ち上がる中核がいないのです」

中国では脱北者約2600人を強制送還

 中国政府は今年8月以降、中国で捕らえられた脱北者を北朝鮮に強制送還しています。その数は約2600人にのぼり、さらに1000人以上が待機中だといいます。
 実は、“コロナ禍”において、北朝鮮は国境を封鎖していたため、脱北者の送還を拒否していました。そのため、中国にある脱北者の収容施設が拡大していきました。ここにきて、コロナが落ち着いたので中国は強制送還を行っているということです。
 その強制送還された脱北者を待ち受けているのは、5年以上の拘禁・殴打・拷問・強制労働とひどい場合は死刑となっています。韓国側としては「韓国政府は、いかなる状況においても在外北朝鮮人を本人の意思に反して強制送還してはならないという立場を取っている」として、中国に抗議を行っています。
 また、国連の難民支援機構「UNHCR」では、ノン・ルフールマン原則として、迫害される可能性のある難民や亡命者を追放・送還することを禁じています。

 韓国政府や人権団体の抗議に対して、中国政府は「中国には、いわゆる『脱北者』というものは存在しない(不法に入国している)」と反論しています。一方で韓国尹政権は「脱北者全員を受け入れる方針」だということです。

Q.以前は中国経由で脱北できていたのが、今は強制送還されるようになっていますが、背景には何があるんですか?
(辺氏)
「アメリカ対中朝という構図がはっきりしています。金正恩総書記の訪中と習近平主席の訪朝で中朝両国の絆は強まりました。中国は『難民地位協定』に調印しているので、以前は人道的な見地から脱北者を韓国に送っていたのですが、今は、脱北者は“難民”ではなく“不法入国者”だということで、国際社会の要求をはねのけ、中国の国内法に則って北朝鮮に強制送還しています」

(「情報ライブミヤネ屋」2023年11月9月日放送)

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