特集「キャッチ」九州プロレスに新風 「毒霧」を吐く悪役は世界で活躍してきた“文豪レスラー” 福岡
ふるさと・九州の人々を元気にするために立ち上がった“不器用な男たち”です。
■プロレス会場
「九州ば元気にするバイ!」
「おっと、理事長に毒霧。」
去年12月、福岡市西区の小学校で講演会が開かれました。小学生やその保護者を対象にした講演のテーマは「差別と偏見をなくそう」です。
講師を務めたのは、福岡を拠点に活動するNPO法人「九州プロレス」に去年加入した、TAJIRI選手(53)です。
かつて世界最大のプロレス団体WWEに所属し、「プロレス版メジャーリーガー」とも呼ばれるレスラーです。
■TAJIRI選手
「今は九州プロレスに所属しながらも、昔アメリカのWWEという世界で一番大きな団体、そこで5年やっていて。みなさん小学生の君たちは、外国の人たちを受け入れる立場にいると思っているだろうけれど、ひとたび外国に行ったら今度は自分がその立場になる。」
講演後、TAJIRI選手はリングでアメリカ人選手たちとタッグを組み、「差別や偏見」からは何も生まれないことをリング上で表現します。
■TAJIRI選手
「何かを一緒に作り上げていけば、人種や肌の色も何も関係ない。何かをやっていけば、細かいことは関係なくなる。どんどんいろんなことをやって新しいことをやって、素晴らしい未来を皆さん築き上げてください。」
リング上ではTAJIRI選手は本場アメリカ仕込みの多彩な技を持っています。TAJIRI選手の加入で、九州プロレスのファンの熱気はさらに盛り上がりました。
■プロレスファン
「WWEの時代から見ていたから、もう憧れの存在というか。日本人として誇らしい存在。」
「TAJIRI選手が今いなかったら多分、海外からたくさんの選手が来る機会がなかったと思うので、すごくありがたいと思う。」
リング上では、いわゆる「悪役レスラー」として国内外のファンにその名が知られています。
トレードマークとなったのが、不意を突く「毒霧噴射」です。
■子どもたち
「毒霧を吐く選手。」
「毒針です。(毒霧ね。)毒霧。」
■筑前りょう太理事長
「九州を元気にするために、世界との交わりが必要だった。そんな時に世界との窓口となる男が目の前に現れて。ぼくらとしてはその男の世界への入り口というか、それがどうしても欲しかったので。」
2年前、筑前りょう太理事長が行った入団発表でも、その「悪役」ぶりは発揮されました。
■プロレス会場
「みなさん、九州プロレスのリングでTAJIRI選手、見たいですか。ぜひ、よろしくお願いします。九州が誇る世界のスーパースターと共に、九州ば元気にするバイ!」
「おっと、理事長に毒霧。」
「俺が九州プロレス、侵略してあげるよ。うれしいでしょう。侵略しに来ましたよ。」
■TAJIRI選手
「誰もがいいカッコウをしたがる世の中で、あえて自ら汚れ役をやる人が一番かっこいいとぼくは思っている。これは美学の問題なんですよ。(悪役は)いつの時代でも。」
その活躍はリング上だけにとどまりません。実は意外な“別な顔”があるんです。
■TAJIRI選手
「プロレスのリングの上で伝えられる事って、そんなに数が多くない。それを補うために書き始めた。」
世界のプロレスのリングを渡り歩いてきた経験を元に、プロレスから見えてくる体験談や小説を出版する「文豪レスラー」としての顔を持っているんです。
■TAJIRI選手
「ヨーロッパって、いろんな国の人がいろいろ入り交じっている。ウクライナ出身のレスラーで他のヨーロッパでプロレスやってる人がいたけれど、それはどうなってるかなとか。戦争から距離がある気楽な傍観者だった。」
著書「戦争とプロレス」では、”ウクライナ戦争”をはじめとする戦争難民たちとの出会いを通して、プロレスを続けながら立ち上がっていく、それぞれの人生を描いています。
「内戦、侵略、流浪の民…。その生き様をとおして示すことこそが、プロレスラーの真の役割だとオレは常に考えている。」
■TAJIRI選手
「プロレスというフィルターを通して、今起きている戦争でプロレスラーたちが今どういうことになってるのか、調べたくて仕方なかった。それを伝えたかった。」
福岡市東区にある九州プロレスの練習道場です。参加しているのは、プロレス修行にやってきたイタリアやオーストラリアからのレスラー、そして、練習生として去年から通い始めた地元の大学生などです。
世界レベルの有名選手からの指導を受けられると、国内外の若手レスラーたちが九州プロレスの門をたたくようになりました。
■TAJIRI選手
「いろんな国の人たちがもっとここにやってきて、九州の人たちにいろんな国の人間見るの面白いなと。プロレスに関わったおかげでその人の人生が良い方向へいったと、そういうことをしないといけない。」
指導の熱い視線のむこうに見えているのは、世界に通用するプロレスです。
■TAJIRI選手
「プロレスってね。見る人の人生にいい影響を与えるものでなければ、存在する意味は全くない。」
九州プロレスのキャッチフレーズ「九州ば元気にするバイ!」、その思いは、今世界に向けられています。