特集「キャッチ」被害者遺族の声 大切な娘を奪われた両親の怒りと苦しみ 弁護士「賠償命令が出ても踏み倒される」 福岡
福岡県那珂川市で2023年9月、車の中から男の遺体と意識不明の女性が見つかった事件。女性はその後、死亡し、警察は無理心中で女性を殺害したとして、男を容疑者死亡のまま23日、書類送検しました。殺害された女性の両親が、FBSの取材に胸の内を明かしました。両親は、精神的にも経済的にもまったく償われない現実に苦しめられています。
2024年2月、両親は、娘と一緒に暮らしていた福岡県那珂川市の自宅で、四十九日法要を執り行いました。目の前には、物言わぬ笑顔の娘。事件のわずか10日前、母親との2人旅で撮影されたものです。まさか遺影になるなんて、思いもしないことでした。
■父親
「思い出しますね。」
■母親
「悔しいですよね。歯がゆい、腹立たしいです。一生、消えることはないと思う。」
26歳の若さで突然、命を奪われた女性。優しく朗らかで家族や友人を大切にする、両親にとって自慢の娘でした。
もともとは福岡県内で保育士として働いていましたが、好きな車に携わる仕事がしたいと、愛知県の自動車関連の会社に転職しました。契約社員として3年働いた後、2023年4月に福岡に戻り、実家で暮らしていました。
無理心中を図り、女性を殺害したとして容疑者死亡のまま書類送検された比嘉大輔容疑者は、愛知の職場で知り合った元同僚でした。
交際関係にあったことはなく、友人の一人だったといいます。
女性のスマートフォンに残されたLINEのやりとりです。2023年9月、事件の2日前に比嘉容疑者とみられる人物から「レンタカーで九州を旅するから、福岡で会えないか」という内容のメッセージが届いていました。
事件の当日、女性は「愛知から友達が会いに来る。行ってきます」と両親に声をかけ、普段と変わらぬ様子で出かけたといいます。それが最後の会話になりました。
警察は、比嘉容疑者が女性をドライブに誘い出し、女性の両手・両足を結束バンドで拘束した上、車内に硫化水素を発生させ、無理心中を図ったとみています。
比嘉容疑者のものとみられるSNSには、事件の3日前、自殺をほのめかすような言葉が書き込まれていました。しかし、なぜ元同僚の女性を巻き込んだのかは捜査でも判明していないと、両親は警察から伝えられました。
■母親
「優しくて情が深い子だったので、それを利用して呼び出して。腹が立って、腹が立って。」
着ていた服には血痕が
事件当日、女性が身に着けていた衣服です。事件から半年がたった2024年3月、警察から両親に戻されました。
■母親
「右の手のひらが5センチくらい、切れていた。結束バンドでの傷かもしれない。」
トレーナーには血痕が残されていました。履いていたパンツは、硫化水素がかかったことでボロボロの状態でした。
■母親
「その時の痛み、苦しみ、家族としては知るとつらい部分はあると思うのですが、知りたいという思いは今もあります。」
意識不明の状態で病院に搬送された女性は、およそ3か月半後の2024年1月、一度も目を覚まさないまま、息を引き取りました。
最愛の娘の命を奪われ喪失感を抱える中、両親は経済的な負担にも苦しめられることになります。
■母親
「入院費用も全部、お金も全部、負担しなきゃいけない。仕事も失った。娘の命も取られ、私たちの生活も一変しました。」
娘が事件に巻き込まれて以降、医療従事者だった母親は看病のため仕事を辞め、会社員の父親も休みをとっては、警察や病院の対応に当たりました。
娘の命を救いたい一心で選択した高額な治療や入院費。葬儀費用なども合わせると、400万円以上の負担がのしかかりました。
比嘉容疑者はすでに死亡していますが、女性の両親が娘の命を奪った責任を問い、損害賠償を求める訴えを起こすことは可能です。しかし、比嘉容疑者の口座にはわずか数百円しか残っていないと警察から伝えられました。損害賠償が命じられたとしても、実際に支払われる可能性はほとんどありません。
被害者遺族が経済的にも償われない現実に対し、これまでも、対応を求める声が上がっていました。
■新全国犯罪被害者の会(新あすの会)事務局長・米田龍玄弁護士
「仮に裁判で、ばく大な賠償金を支払えという命令が出たところで、加害者がお金を持っていないことの方が多い。結局、踏み倒されてしまう。現状、多くの被害者が損害賠償を満足に得ているという実態はほとんどないと思います。」
犯罪被害者等給付金は引き上げられたが
国には、犯罪被害者の遺族などに給付金を支払う制度があります。遺族に対する給付は、被害者の年齢や収入をもとに算定され、最低額は320万円でしたが、2024年6月、最低額が1000万円以上となる大幅な増額が閣議決定されました。
しかし、対象となるのは6月15日以降に起きた事件で、女性の両親への給付に増額は適用されません。
■母親
「被害者の家族の生活って誰が補償してくれるのかなって。もう娘は帰ってこないかもしれないけれど、この怒りがどこにもぶつけようがない。」
遺族は孤独の中で、経済的な苦しみも抱えることになる。同じ思いをする人がいなくなるよう、現実を知ってほしい。女性の両親は、今回取材に応じた思いをそう話しています。