「愛光学園」が女子寮開設へ 新校舎や授業の特色は?進学校の“伝統と変革”への挑戦
愛媛県松山市の中心部から車でおよそ15分。緑豊かな高台の住宅地を上がっていくと「愛光学園」があります。私立の中高一貫校で、中学・高校あわせて約1350人が通っています。県外からの志願者も多く、現在3割ほどの生徒が親元を離れて寮生活を送っています。
もともと男子校だった学園は2002年、創立50周年を機に男女共学化して以降、女子生徒も徐々に増え、全体の3割を占めるようになりました。しかし、これまでは男子寮しかなく、女子は原則として自宅から通える県内生に限られていました。過去には、県外の生徒が入学するため母親とともに市内に賃貸住宅を借りるケースや、在学中の生徒が親の転勤を理由に転校を余儀なくされたケースもあったといいます。
理事長 ホアン・ベルモンテ神父:
「昔から入試説明会などでも女子寮開設の要望が多くあり、大きな課題でした。さまざまな方策を考えつつも、まずは旧校舎や体育館を建て替えなければならず、2021年に新校舎が完成したことでようやく動くことができました」
こうして2025年度から女子寮の開設が決まり、今後は県外からの生徒も受け入れることになります。
来年度「女子寮」開設へ 新たな寮のスタイルは
ホアン理事長:
「元来の寮のイメージではなく、village(小さな町)のようにしたい。7,8人が入れるシェアハウスをまずは3棟建てる想定です。もちろん寮母さんもいて、きちんと日常生活のお世話をします。セキュリティ完備で、家のように居心地がいい空間を作りたい。フィットネススペースやカフェテリアも併設する予定です」
最初から大きな寮をひとつ構えるのではなく、入学者が増えればシェアハウスを増やしていくこともできる。生徒たちのライフスタイルと経営の観点から考え、辿り着いた形です。
また女子寮の開設によって、県外からも志望する女子生徒が増えることで学校全体のレベルアップにも繋がると期待を寄せています。全国の有名進学校でまだ共学化していない学校も多い中、親元を離れ寮生活をしてでも学力をつけたい生徒の受け皿となりたい考えです。
「特に寮生同士の絆はとても強いです。在学中に快適な環境の中で色んなことを学びながら、自分の可能性を伸ばしてほしい。良き友人と生活を共にし、深い絆を築いてほしいと思います」
「輪」でつなぎ 無限の夢を描ける新校舎に
2022年からは全校生徒が、新たに建設された新校舎へと移りました。教員棟を中心に、リング状の2つの教室棟が8の字を描く独創的な造りも、ホアン理事長がこだわった理想のカタチです。
校舎の中心には中庭があり、休み時間には多くの生徒が行き交います。自然と他学年との交流も増え、生徒たちの雰囲気を変わってきたとホアン理事長は話します。
「旧校舎では各学年がどんな動きをしているのかが分かりづらかったが、今は私の部屋からもそれぞれの様子が一目で分かります。穏やかな雰囲気で生き生きしている生徒が増えたと感じます。顔を合わせることで、前より挨拶をしてくれる生徒も増えましたね」
授業は“先取り学習” いま力を入れていることは
愛光学園では中2までに中学レベルの実力をつけ、中3からは高校レベルにとりかかる“先取り学習”が特徴です。
一方で高校から入学する生徒は、中学から入学した生徒たちとは別クラスで1年間授業を受けることになります。1年間で学力を追いつかせる必要があり、長期休暇などを利用して補習授業を受けるほか、予習復習につながる宿題も多くこなしていきます。そして高2からは文系と理系に分かれるため学年全体で混合クラスに変わり、共に受験へと向かっていくのです。
高校は2年までに英数国の完成を目指し、高3では大学受験の力をつけるため(文系は社会、理系は理科)の演習に力を注ぎます。
世界で活躍する人材育成を目指す愛光学園が、特に力を入れてきたのが英語です。中3からは伝統となっている小テスト(単語、熟語、文章)が毎回あり、文章に関しては学園オリジナルのテキスト「model sentence(通称・モデセン)」を繰り返し覚えるため、高校を卒業するころには500の文章を暗記している生徒も多くいます。これは英作文においても役立つといいます。
また現在注力しているのが、スピーキング力の向上と国際交流。7人の外国人講師が在籍し、少人数グループで会話中心の授業を行うほか、台湾の姉妹校との交流、ヨーロッパやカナダへの研修なども積極的に行っています。
このほか、中学ではタブレット、高校ではノートパソコンを一人一台持ち、全国に先駆けてICTを用いた教育も取り入れています。
中村道郎校長:
「資料のペーパーレス化にもつながり、ロイロノートで各自の意見を共有できる。もちろん教科書ノートはありますし、書くことはしっかりやらないといけない。ICTはうまく利用しないと、スウェーデンでは学力低下を招いているとしてICTをやめようという動きになっています。しかしそうではなく、今までのやり方とミックスしてどうやって学力をあげていくかが全国的な課題」
これに加えて、中村校長が課題に挙げるのが“ChatGPTをいかに学習に取り入れるか”。例えば、生徒が自分で作った英文とChatGPTが作ったものを比べて勉強するなど、うまく活用できれば画期的な学習法に繋がるのではないかと期待を寄せています。
「自分自身の目標をもって」受験は団体競技、そして執念である
学園内では休み時間や放課後になると、教師に質問をしにいく生徒や、生徒同士が教えあう姿が多く見られます。志望先はさまざまですが、皆が受験に向かって共に切磋琢磨しています。
中村道郎校長:
「受験は団体競技です。一人一人がお互いを刺激して高め合います。親と子と教師の“チームワーク”が大切だといつも言っているんです」
愛光学園では、現役合格の数値目標を東大20人、国公立大医学部医学科30人、国公立大100人と定めています。
一方で2024年の合格実績は、東大7人、国公立大医学部医学科に31人、国公立大87人。最近の傾向としては国公立大医学部医学科を志望する生徒が増え、東大の志望者が減っているため、東大の数値目標を達成することが難しくなっているといいます。
もともと医学部を志望する生徒が多いことで知られていますが、医学部に行くなら愛光へというイメージが強まり、医師になるために愛光を目指す生徒も少なくありません。
学園では、卒業生である検事や駐ミャンマー大使、銀行員、建築士、アナウンサーなどを講師に招き、定期的に講演会を開催。生徒たちに広い視野を持ってもらおうと、様々な分野で活躍する人たちの話を聞く機会を増やしています。今後は保護者向けの講演会も開催する予定です。
中村校長:
「医師だけでなく、いろいろな職業があるのだということを知って、早い段階から自分自身の目標を見つけてほしいのです。また、近年は東大受験者が減っています。途中で諦めてしまう生徒も多いですね。チャレンジ精神は持ってほしいと思っています。行きたい!と思ったら諦めずに頑張ってほしい。我々は、本人が行きたいと志望する大学に行けるよう指導・サポートをする、最後まで諦めさせない。受験は“執念”でもあります」
(取材・文 / 津野紗也佳)