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19年ぶりの女性外務大臣 就任から怒濤の3か月を経た“上川流おもてなし外交” 2024年はどうなる?

2023年12月30日 6:00
19年ぶりの女性外務大臣 就任から怒濤の3か月を経た“上川流おもてなし外交” 2024年はどうなる?

第二次岸田再改造内閣での女性積極起用の目玉人事となった、上川陽子外務大臣。就任早々、世界を舞台に日本外交を展開している。田中真紀子氏、川口順子氏以来19年ぶりの女性外務大臣、「上川流外交」とは。その“理想”と“限界”を探る。

■19年ぶりの女性外務大臣 怒濤の幕開け~就任5日でニューヨークへ

2023年9月に発足した第二次岸田再改造内閣で、外務大臣に起用された上川陽子氏。2023年は日本が「G7議長国イヤー」だったことや、直後に国連総会を控えていたため「林大臣続投」との見方が外務省内では広がっていた。

しかし、サプライズ人事として、改造の目玉となる女性閣僚としての“抜擢起用”となった。岸田首相は理由を「国際人脈が豊富で、閣僚としても経験豊富」と説明した。

「林前大臣をはじめとして、先人たちが築いてきた日本外交の成果をしっかり引き継ぎたい」(上川外相)と、就任わずか5日後に、国連総会のためニューヨークを訪問。5日間で16人の首脳や外相らと相次いで会談を行ったが、ある外務省幹部は「そつなくこなし、とても歓迎されて良い雰囲気だった」と評価した。

「とにかく無我夢中で働こうと駆け抜けている」(上川外相)との言葉通り、臨時国会もあった中で、就任から3か月で12の国と地域を訪問している。

就任2か月となる11月上旬。上川大臣はイスラエル、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)、ヨルダンを訪問。イスラム組織「ハマス」とイスラエル軍の衝突以降、日本の閣僚として初めての現地訪問となった。

ヨルダンでは、人道危機が続くパレスチナのガザ地区出身で、家に戻れなくなっている子供たちと面会。また、イスラエルでは「ハマス」に拘束された人質の家族を訪問した。ある外務省関係者は「母のような温かさで握手や抱擁を交わしていた姿が印象的だった」と語った。

出発前、「罪のない人々が被害に遭っていることに、大変心を痛めている。外交努力を粘り強く続けたい」と悲痛な面持ちで語った上川大臣。ある外務省関係者は「訪問は、上川大臣の強い希望で実現した」と説明。別の関係者は「現場の声を聞いてニーズをしっかりと的確に把握したいという、大臣の思いが体現された外交だった」と評価した。

■上川流外交のこだわりとは~ライフワークでもある“WPS”

「上川流外交」について、上川氏自身は「女性ならではの視点を、外交政策に生かしたい」と周辺に語っているという。

その代表的な取り組みが、就任後からアピールするWPS(Women Peace&Security)=女性・平和・安全保障だ。紛争などで被害者になりやすい女性の視点を、紛争の予防や和平に視点を盛り込むことが重要とする考え方だ。

上川大臣も「伝統的に社会・経済分野の課題だった女性の問題を、安全保障分野に結びつけた点で非常に重要だ」と強調。外務省内に大臣直轄のタスクフォースを設置し、さらなる推進を図る考えだ。

■国民に支持される外交を

「上川流外交」のもう1つのキーワードは「発信」。就任直後から、「国民の声にしっかり耳を傾け、理解してもらいながら、支持される外交を展開したい」と強調した上川大臣。記者会見では就任以降、情報発信を積極的にすべく、質疑応答の前に自ら発言を行い「発信」に力をいれている。

もう1つ、発信のために力を入れるのは「ソフトパワー」の活用。「日本文化や『おもてなし』をできるだけ理解してもらえるよう工夫したい」と話す上川大臣。実際、国連総会でのフランス外相との会談の際には、出身地・静岡県のお茶を一緒に楽しみプレゼントするなど「上川流おもてなし」を披露。

また、ベトナムやタイなどの東南アジア4か国を訪れた際は「書店に立ち寄り、それぞれの文化や歴史などについての書籍を購入した」という上川氏。発信強化に向けた「ソフトパワー」活用を、上川流外交の“彩”に加えようと腐心している。

■上川外交への期待…一方で「限界」指摘する声も

精力的に外交に奔走する上川大臣だが、厳しい声も出ている。ある外務省幹部は「今の外交は『官邸主導』の面が強く、上川大臣が存在感を示すのはなかなか難しい」と指摘。また、上川大臣に対して「発信に力をいれるのがわかるが、そのため新たな仕事が増えて大変だ」(外務省中堅)といった声も出ている。

座右の銘は「鵬程万里」(ほうていばんり)。「鳳凰は一呼吸、万里を飛んでいく」、道のりがはるか遠いことを表す言葉だ。「高い理想を掲げて遠くを見つめるまなざしを忘れずに」と話す上川大臣。しかし、政権としての“体力”が落ちつつある岸田内閣の中で、どこまで自身が理想とする「外交」を追求できるか、難しい年になりそうだ。