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【全文】岸田首相 施政方針演説(後編)

2023年1月23日 15:03
【全文】岸田首相 施政方針演説(後編)

【前編】
1はじめに
2歴史の転換点
3防衛力の抜本的強化
4新しい資本主義

【後編】※この記事はこちらです
5こども・子育て政策
6包摂的な経済社会づくり
7災害対応・復興支援
8新型コロナ
9外交・安全保障
10憲法改正
11政治の信頼
12おわりに

■5こども・子育て政策

そして、今年、私は、新しい資本主義の取組を次の段階に進めたいと思っています。
新しい資本主義は、「持続可能」で、「包摂的」な新たな経済社会を創っていくための挑戦である、と申し上げてきました。
我が国の経済社会の「持続性」と「包摂性」を考える上で、最重要政策と位置付けているのが、「こども・子育て政策」です。

急速に進展する少子化により、昨年の出生数は80万人を割り込むと見込まれ、我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれています。
こども・子育て政策への対応は、待ったなしの先送りの許されない課題です。
こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければなりません。

こども政策担当大臣に指示した、3つの基本的方向性に沿って、こども・子育て政策の強化に向けた具体策の検討を進めていきます。
高等教育の負担軽減に向けた出世払い型の奨学金制度の導入にも取り組みます。
検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。
まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての「当事者」である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。
年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。

そして、本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において、必要とされるこども・子育て政策を体系的に取りまとめつつ、6月の骨太方針までに、将来的なこども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示します。

こども・子育て政策は、最も有効な未来への投資です。
これを着実に実行していくため、まずは、こども・子育て政策として充実する内容を具体化します。
そして、その内容に応じて、各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援の在り方など、様々な工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えてまいります。

安心してこどもを産み、育てられる社会を創る。
全ての世代、国民皆にかかわる、この課題に、共に取り組んでいこうではありませんか。
あわせて、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支えあう、持続的な社会保障制度の構築に取り組みます。

■6包摂的な経済社会づくり

老若男女、障害のある方も、ない方も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会。
意欲のある全ての方が、置かれている環境にかかわらず、十全に力を発揮できる社会。
そうした包摂的な経済社会を創るため、これから、特に、「女性」、「若者」、「地方」の力を引き出していくための政策に力を入れていきます。

(女性)
これまでの取組により、女性の就労は大きく増え、いわゆるM字カーブの問題は、解消に向かっていますが、出産を契機に、女性が非正規雇用化する、いわゆるL字カーブの解消、そして、男女間の賃金格差の是正は、引き続き、喫緊の課題です。
また、女性登用の一層の拡大も進めていかねばなりません。
そのために、女性の就労の壁となっているいわゆる103万円の壁や、130万円の壁といった制度の見直し、男女共に、これまで以上に育児休業を取得しやすい制度の導入などの諸課題に対応していきます。
さらには、配偶者による暴力防止の取組を強化するため、DV防止法の改正にも取り組みます。

(若者)
こども・子育て政策の強化、男女共に働きやすい環境の整備、全世代型社会保障改革、構造的賃上げ、スタートアップなどの成長分野への投資などは、日本の未来を担う若い世代のためにこそ進めるべき取組です。
こうした各般の取組を通じ、若者、そして若い世帯の所得向上を実現し、若者が、未来に希望をもって生きられる社会を創っていきます。

(孤独・孤立対策)
孤独・孤立対策にも本格的に取り組みます。
対策の基本となる法案を、今国会に提出し、孤独や孤立に寄り添える社会を目指します。

(地方創生)
地方創生を進め、地方が元気になること。それが日本経済再生の源です。
地方の基幹産業の活性化に全力を注ぎます。

観光産業については、全国旅行支援による需要喚起に加え、高付加価値化の推進、国立公園なども活用した観光地の魅力向上に取り組み、外国人旅行者の国内需要5兆円、国内旅行需要20兆円という目標の早期達成を目指します。

農林水産業については、肥料・飼料・主要穀物の国産化推進など、食料安全保障の強化を図りつつ、夢を持って働ける、稼げる産業とすることを目指します。
農林水産品の輸出については、2025年2兆円目標の前倒し達成を目指し、更なる輸出拡大支援を進めます。

地方経済の基盤である高速道路網について、老朽化対策と、4車線化などの進化・改良の取組を着実に実施するための制度整備を行います。
また、地域公共交通の「リデザイン」に向け、国の支援を拡充します。
さらには、地方への企業立地支援や海外からの人材・資金の呼び込み、官民連携によるスタジアム、アリーナ、文教施設の整備、地方議会活性化のための法改正にも取り組みます。

地方創生に向けた全ての基盤となる取組が、デジタルの力で地域の社会課題を解決し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現するデジタル田園都市国家構想です。
光ファイバー、5G等のデジタルインフラの整備を着実に進めつつ、今後、全国津々浦々で、本格的なデジタル実装を進めます。
まずは、スマート農業、ドローンによる配送、遠隔見守りサービスなどを組み合わせたプロジェクトを日本の中山間地域150か所で実現します。
また、今年4月には、レベル4、完全自動運転を可能にする新たな制度が動き始めます。
2025年を目途に、全都道府県で自動運転の社会実験の実施を目指します。
全国津々浦々、全ての方々が輝ける日本を創っていこうではありませんか。

■7災害対応・復興支援

今年、関東大震災から100年の節目を迎えます。
激甚化・頻発化する災害への対応も、先送りのできない重要な課題です。
5か年加速化対策の着実な推進に加え、中長期的・継続的・安定的に防災・減災、国土強靱化を進めるため、新たな国土強靱化基本計画を策定します。

機動的に自治体を支援するなど、大雪や鳥インフルエンザなどの対応に万全を期します。
台風や豪雨などに対応するための予報高度化、猛暑から人命を守るための熱中症対策の強化、さらには、北海道知床の遊覧船事故を受けた、旅客船の安全性確保のための法案を提出し、災害や事故への対応力を強化します。

政権の最重要課題である福島の復興も、地元の皆さんと共に、取組を更に前に進めます。
昨年、長期にわたり、帰還が困難であるとされた区域で初めて、住民の帰還が実現しました。
引き続き、残る復興再生拠点の避難指示解除を目指すとともに、拠点区域外についても、意向のある方が帰還できるよう取組を具体化していきます。
あわせて、映画など文化芸術を通じた街づくり、廃炉・アルプス処理水対策や福島国際研究教育機構の整備を、政府一丸となって推進し、責任をもって福島の復興・再生に取り組みます。

■8新型コロナ

新型コロナの感染拡大から、約3年。
国民の皆さん、そして、現場で働く医師・看護師・介護職員などエッセンシャルワーカーの皆さんの御協力をいただきながら、感染の波を乗り越え、ウィズコロナへの移行を進めてきました。
足下の感染状況については、感染防止対策や医療体制の確保に努め、いわゆる第8波を乗り越えるべく、全力を尽くしてまいります。

そして、原則この春に、新型コロナを「新型インフルエンザ等」から外し、5類感染症とする方向で、議論を進めます。
これに伴う医療体制、公費支援など様々な政策・措置の対応について、段階的な移行の検討・調整を進めます。
マスクの着用についても、5類感染症への見直しと併せて、考え方を整理していきたいと思いますが、まずは、今一度、「原則、外ではマスク不要」といった現在の取扱いについて、周知徹底を図ります。

GDPや、企業業績は、既に新型コロナ前の水準を回復し、有効求人倍率も、コロナ前の水準を回復しつつあります。
家庭、学校、職場、地域、あらゆる場面で、日常を取り戻すことができるよう、着実に歩みを進めてまいります。
そして、今後の感染症危機に適切に対応するため、内閣感染症危機管理統括庁や、いわゆる日本版CDC設置に関する法案を今国会に提出します。

■9外交・安全保障

「歴史の分岐点」を迎える中、普遍的価値に立脚しつつ、国益を守り抜くため、積極的かつ力強く、新時代リアリズム外交を展開していきます。

我が国は、今年、G7議長国及び国連安保理非常任理事国を務めます。
その立場を活かし、世界の平和と繁栄に向けた取組を主導します。
ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙が継続し、また、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく、複雑な状況にあります。
力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。
広島サミットの機会に、こうした原則を擁護する、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を、改めて世界に発信します。
そして、世界が直面する諸課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバル・サウスに対する関与を強化していきます。
そのために、エネルギー・食料危機や、下振れリスクに直面する世界経済についても、一致結束した対応を行ってまいります。
また、対露制裁、対ウクライナ支援を引き続き強力に推し進めます。

被爆地広島で開かれるサミットの機会を捉え、「核兵器のない世界」に向け、国際的な取組を主導します。
「ヒロシマ・アクション・プラン」を始め、これまでの取組の上に立って、国際賢人会議の叡智も得ながら、現実的かつ実践的な取組を進めていきます。
他にも、地域情勢、経済安全保障、人権、気候変動、保健、開発といった課題にも広く対応していく必要があります。
山積する諸懸案への対応に、我が国が主導的役割を果たしてまいります。

加えて、安保理改革を含む国連の機能強化にも取り組みます。
戦後日本が積み重ねてきた信頼に基づく二国間関係の強化も、引き続き進めます。

我が国外交の基軸は、日米関係です。
先日の日米共同声明に基づき、引き続き、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、地域の平和と安定及び国際社会の繁栄に貢献していきます。
また、経済版「2+2」を含む、様々なチャネルを通じ、サプライチェーンの強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携にも取り組みます。

日米同盟の強化と合わせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。
普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。
また、強い沖縄経済を作ります。
日米豪印等も活用しつつ、また、アジア、欧州、大洋州を始めとするパートナー国との連携を深め、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための協力を一層強化します。

そして、G7議長国として達成した成果を、インドが議長国を務めるG20に引き継ぎ、友好協力50周年を迎えるASEANとの特別首脳会議に繋げ、アジアから世界に向け発信していきます。
また、CPTPPの着実な実施と高いレベルを維持しながらの拡大や、IPEF、DFFT等の取組において具体的な成果を目指します。

地域の平和と安定も引き続き重要です。
中国に対しては、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを含め、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めてまいります。
そして、本年が日中平和友好条約45周年であることも念頭に置きつつ、諸懸案を含め、首脳間を始めとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。

国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国である韓国とは、国交正常化以来の友好協力関係に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていくため、緊密に意志疎通していきます。

日露関係は、ロシアによるウクライナ侵略により厳しい状況にありますが、我が国としては、引き続き、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。

北朝鮮による前例のない頻度と態様での弾道ミサイル発射は、断じて容認できません。
日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。
中でも、最重要課題である拉致問題は深刻な人道問題であり、その解決は、一刻の猶予も許されません。
全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で果断に取り組みます。
私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。

このような多国間・二国間外交の最も重要なツールの一つが、開発協力です。
今後10年間の方向性を示す開発協力大綱を、「人間の安全保障」の理念を踏まえ、SDGsの達成に向けた議論をリードするようなものとするべく、今年前半を目途に改定します。

■10憲法改正

憲法改正もまた、先送りできない課題です。
先の臨時国会では、与野党の枠を超え、活発な議論をいただきました。
この国会において、制定以来初めてとなる、憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待します。

■11政治の信頼

昨年は、旧統一教会との関係、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民の皆さんから厳しい声をいただいたことを、重く受け止めております。
信なくば立たず。
信頼こそが、政治の一番大切な基盤であると考えてきた一人の政治家として、ざんきに堪えません。
今後、こうしたことが再び起こらないよう、様々な改革にも取り組んでまいります。
旧統一教会の問題については、被害者の実効的な救済と再発防止に向け、昨年の臨時国会で成立した新法等の着実な運用、そして、実態把握と相談体制の充実に努めます。

■12おわりに

総理就任以来、私は、全国各地を訪問し、多くの皆さんと直接話をしてきました。
新潟でモノづくりの技術を身に着けようと一生懸命学ばれている学生の皆さん、鹿児島で子育てをしながら、和牛生産に取り組んでおられるお母さん、渋谷の子育て支援施設で育児に取り組まれていたお父さん。
こうした日本全国の皆さんが輝ける、未来に希望を持てる、そんな日本を創っていきたいと思います。

この日本という国を、次の世代に引き継いでいくために、これからも、私に課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くします。
共に、一歩一歩、前に進んでいこうではありませんか。
引き続き、国民の皆さんの御理解と御協力をお願いいたします。

御清聴ありがとうございました。

以上