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流行語大賞、地元の偉人、アインシュタインも…首相演説で引用された「言葉」

2023年1月23日 17:16
流行語大賞、地元の偉人、アインシュタインも…首相演説で引用された「言葉」

23日、第211回通常国会が召集され、岸田首相は施政方針演説に臨んだ。通常、国会召集日に行われる首相演説では、故事や歴史上の人物の言葉を引用するのが慣例となっている。小泉元首相が引用した長岡藩の故事「米百俵」は、その年の流行語大賞にもなった。一方で岸田首相は前回に続き、自らが直接対話した「市井の人々」を紹介したのみ。その狙いとは?これまで引用されてきた「偉人たちの言葉」と併せて紹介する。

■アフリカから勝海舟、そして市井の人々

岸田首相による国会冒頭の首相演説は今回で5回目となる。実はこれまでの演説では、故事来歴や歴史上の人物も登場した。

【①2021年10月 臨時国会 所信表明演説】
「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」 アフリカのことわざ

新型コロナウイルスという“見えない敵”に対して、ひとりではなく国民全員が団結して乗り越えようと呼びかけたもの。

【②2021年11月 特別国会 所信表明演説】
「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす」 「礼記」中庸より
「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」  米・第35代大統領ジョン・F・ケネディ

前者は、新型コロナへの対応について「大きく物事を進めて行く際には、順番が大切」だと説明したもの。
後者は、何かが起こる前に有事への備えをしようという趣旨。
政府関係者によると、新型コロナが下火のうちに次に備えて経済回復の対策を取っておくという意味で引用したという。財政出動の必要性を訴えたもの。

【③2022年1月 通常国会 施政方針演説】
「行蔵(こうぞう)は我に存す」「己を改革す」 勝海舟

前者は、決断の責任は、自分が全て負う覚悟で取り組むという意味。
後者は、自らを改革し自らを律するという意味。
共に、自らの目指す政治姿勢を語ったもの。

【④2022年10月 臨時国会 所信表明演説】※歴史上の人物からの引用なし
「私に、復興に向けた強い思いを語ってくれた町役場の職員。福島を、『ワクワクするような地域にしていきたい』と語ってくれた移住してきた若者」

【⑤2023年1月 通常国会 施政方針演説】※歴史上の人物からの引用なし
「新潟でモノづくりの技術を身につけようと一生懸命学ばれている学生の皆さん、鹿児島で子育てをしながら、和牛生産に取り組んでおられるお母さん、渋谷の子育て支援施設で育児に取り組まれていたお父さん」

「聞く力」をアピールし、車座対話などに力を入れてきた岸田首相。前回、今回の演説には、自らが直接対話した市井の人々が顔を出した。歴史上の人物の言葉を「引用」しなかったことについて政府関係者は、2つの理由を指摘しているのだが…その前に、これまでに引用されて話題となった「故事」や「言葉」を紹介することとしたい。

■流行語大賞にもなった「米百俵」

歴代首相演説の「引用」の中でも、一般に最も知られたのは小泉元首相の「米百俵」ではないか。2001年。当時の小泉首相の所信表明演説で取り上げられた「米百俵」の故事は、長岡藩士、小林虎三郎の物語である。

「明治初期、厳しい窮乏の中にあった長岡藩に、救援のための米百俵が届けられました。米百俵は、当座をしのぐために使ったのでは数日でなくなってしまいます。しかし、当時の指導者は、百俵を将来の千俵、万俵として活かすため、明日の人づくりのための学校設立資金に使いました。その結果、設立された国漢学校は、後に多くの人材を育て上げることとなったのです。今の痛みに耐えて明日を良くしようという『米百俵の精神』こそ、改革を進めようとする今日の我々に必要ではないでしょうか」

小泉首相は当時、いわゆる“バラマキ”と言われるような財政出動に頼らない「聖域なき構造改革」を訴えていた。演説の中では「非効率な部門の淘汰が生じ、社会の中に痛みを伴う事態が生じる」と説明している。さらに「米百俵」を引用することにより、こうした「痛み」に耐えて、よりよい未来を作ろうと国民に訴えたのだ。痛みや負担を求めた故事だが、「米百俵」はこの年の流行語大賞にまでなった。

■はじまりは吉田松陰とアインシュタイン

また、憲政史上最も長く首相をつとめた安倍元首相は、任期の長さに比例して国会演説の回数も多い。
かつて安倍氏周辺が「演説は高らかにうたいあげるストーリー」と語っていたように、安倍氏は演説に、偉人・一般人を問わず多くのエピソードを盛り込み、政策以上に理念を訴えるようなスタイルを確立していった。“偉人”のバリエーションも豊富で、福沢諭吉や野口英世といった誰もが知る人物から、詩人の金子みすゞさん、現代を生きるノーベル賞受賞者の山中伸弥教授まで様々なジャンルの“偉人”らが演説に引用された。そしてここでは、第1次安倍内閣での“初めての演説”を紹介したい。

まず登場したのは、安倍氏の地元・山口が生んだ幕末の思想家、吉田松陰。

「教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家、社会をつくることです。吉田松陰は、わずか3年ほどの間に、若い長州藩士に志を持たせる教育を行い、有為な人材を多数輩出しました。小さな松下村塾が『明治維新胎動の地』となったのです。家族、地域、国、そして命を大切にする、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向け、教育再生に直ちに取り組みます」

そして演説の結びに紹介したのは、アインシュタインの言葉だった。

「かつて、アインシュタインは、訪日した際、『日本人が本来もっていた、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って、忘れずにいてほしい』と述べています。21世紀の日本を、アインシュタインが賞賛した日本人の美徳を保ちながら、魅力あふれる、活力に満ちた国にすることは十分に可能である、日本人には、その力がある、私はそう信じています」

「美しい国、日本」をキャッチフレーズとしていた第1次安倍政権。アインシュタインの言葉を持ち込んだのは当時の外務省幹部で、それを当時の安倍首相が気に入って演説に取り入れたのだという。外国人の科学者というのは当時目新しく、永田町では話題となった。

■「自身の言葉で語ることが重要」

岸田首相が前回、今回と「引用なし」で臨んだ理由について政府関係者は2つの理由をあげる。ひとつは、演説の時間を30分から40分程度と想定した場合に、政策について語るべき事が圧倒的に増えてきて、入れ込む余裕がなかったということ。そして二つ目は他者の言葉を引用するのではなく「自身の言葉で語ることが重要だという判断」だったという。
故事や歴史上の人物の言葉を引用するのは、首相演説の“彩り”とされ、より深く演説を印象付けるアクセントとして用いられてきた。“彩り”に頼らず「自分の言葉」を重視したという岸田首相。演説で訴えた防衛増税などの課題に対し、どのように国民の理解を得ていくのか。これから国会審議を通じて「自分の言葉」をどう響かせるのだろうか。