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“生前退位”今後のシナリオ 政治部長解説

2016年8月8日 19:21
“生前退位”今後のシナリオ 政治部長解説
 天皇陛下は8日、“生前退位”をめぐり、ビデオメッセージの形で、ご自身のお気持ちを表明された。今後、“生前退位”が可能になるには、どのような課題、そしてどんなシナリオが考えられるのだろうか。日本テレビ報道局・伊佐治健政治部長が解説する。


■“生前退位”が難しい理由

 現在の皇室制度では、天皇陛下の意思による生前退位は、できない事になっている。制度改正をして生前退位を可能にする場合は、以下のような問題点が指摘されている。

(1)憲法との整合性

 国民の総意に基づく象徴としての地位を、天皇陛下が自発的、恣意(しい)的に退位することは、政治的行為にもつながり、憲法の理念に反するという指摘がある。

(2)意思に反した退位のおそれ

 また、生前退位を認めると、天皇陛下ご自身の意思ではなく、なんらかの政治的な思惑で、意志に反して強制的な退位に追い込まれかねない問題点もある。

(3)二重権威への懸念

 退位した天皇陛下が、その後も力を持ち続け、国家に二重の権威が生まれ、国内に争いを生みかねないという、現在の皇室制度はとても考えにくいが歴史的に見た場合は、この問題が指摘されている。また。ある関係者は「もし天皇陛下が退位されて、いまの皇太子さまが即位された場合、国民にとって、“象徴”がお二人並び立つようにも見えないか」、そういった問題も指摘されている。


■「恒久法」なのか「一代限りの適用」なのか

 生前退位を実現するためには、以下の2つの道筋がある。

(1)皇室典範の改正(恒久法)

 まずひとつ考えられるのは「皇室典範の改正」。これはずっと続く恒久法だが、ただこれは、検討分野が多岐にわたり、「どんな状況で可能にするか」「どんな手続きが必要か」など相当大がかりな議論になり、時間もかかるとみられる。さらに、憲法との関連性まで議論し始めると、結論を出すのは極めて難しいとみられる。政府と国会それぞれに強い慎重論がある。

(2)特例法(一代限り)

 そこで出てきたもうひとつの道が「特例法」で、これは今の天皇陛下一代限りを例外とする法律。ただ、やはり、理論的には憲法との整合性など問題が残るという指摘もあり、確実な決着ができるかどうか手探りの部分がある。


■“生前退位”が可能になるシナリオ

 考えられる今後のシナリオのひとつをまとめた。

(1)安倍首相、コメント発表
 ↓ 世論の動向見極め
(2)政府(皇室典範改正準備室)で検討
 ↓ 有識者会議?
(3)国会で関連法案審議?
 ↓ 皇室典範改正? 特例法成立?
(4)「生前退位」可能に?

 安倍首相は8日、コメントを発表した。今後、1か月ぐらいは世論の動向を見極めていきたいだろう。

 そして、すでに設置されている皇室典範改正準備室で検討を進める方針。有識者会議の設置も取りざたされているが、政権幹部は消極的。というのも、有識者会議での議論になると、例えば女系天皇の是非を巡る議論などに火が付く可能性もある。有識者同士のみなさんの考え方に大きく差があるために、メンバーの人選ひとつをとっても非常に難しいと考えられているためだ。

 もし、有識者会議で答申がまとまって、国会で政府提出の法案が審議され、必要な制度改革が整えば、「生前退位」が可能になるという道筋は考えられる。