×

【深層NEWS】安倍元首相が変えた日本の安全保障<前編>

2022年7月18日 22:00
【深層NEWS】安倍元首相が変えた日本の安全保障<前編>
2022年7月13日「深層NEWS」より

東アジア情勢が緊迫する中、安倍元首相のもとで施行された安保関連法は、日本の安全保障政策の大転換となりました。7月13日放送のBS日テレ「深層NEWS」では安倍政権のもとで約4年半にわたり自衛隊制服組のトップ、統合幕僚長を務めた河野克俊さん、日本の思想史が専門の日本大学危機管理学部教授、先崎彰容さんをゲストに<前編>では、日米同盟強化の意義、世論が二分された時にリーダーとして何を決断するのかを考えました。

■河野氏、「警察も自衛隊も、結果が全て」

右松キャスター
「安倍元首相の信頼も厚く、河野さんは自衛隊統合幕僚長のポストを定年を3度延長して約4年半勤めていました。今回の事件を今どのように受け止めていますか?」

河野克俊氏
「事件を聞いたときには本当にショックで、何とか一命を取り留めていただきたいと思ったのですが、こういう結果になりまして非常に残念ですし、日本の大きな柱を失ったのではないかと感じています」

「警察の方々もよくわかっておられると思うし、自衛隊も一緒なのですが、結果が全てなんですよね、基本的には我々は『一生懸命やりました』ということについてはあまり意味をなさない世界です。警察庁長官をヘッドにして検証すると聞いておりますので、十分検証していただきたいと思っています」

飯塚恵子読売新聞編集委員
「犯人は海上自衛隊で勤めた経験があると。この点については?」

河野氏
「3年間と聞いておりますが、短期間とはいえ、海上自衛隊に籍を置いた者がこのような凶行に及んだということについては、私としては本当に忸怩たるものがあるし、より一層怒りを感じています」

■先崎氏、「不安は言語化する必要がある」

右松キャスター
「今回の事件について多くの国民がショックを受けています。安倍元首相の銃撃 事件をどう見ていますか?」

先崎彰容氏
「まず、一国の元首相が亡くなったことの意味というのを考えなくてはならないです。例えば、皇室が改元し『令和』に代わると。そうすると我々は自然に『平成とはなんだったのか』という括りで物事を見始めたりしますよね。そういう意味において、一国のトップの方が亡くなるということで最も危惧するべきなのが『時代がガラッと変わる象徴』になったり、時代の転換点を生み出してしまったりするというのが、こういった事件の持つ意味なのです」

「我々が(安倍元首相と)会ったことないにもかかわらず、何かショックを受けたり、私の周辺でも事件そのものを見ると不安になったりする方がいますが、これは社会全体の何か転換点であるということは戦前にもあったことで、その観点から注意するべきと思って見ていました」

右松キャスター
「今回の事件を 見たくない人も、見ていて苦しい気持ちになる人もいると思います」

先崎氏
「我々は、こういう問題があるとなぜ不安を感じるのか。それは歴史を知ることによって少しずつ変えることができるのです。『我々はこういう歴史を持っている、それにこう対処してなんとか乗りきってきた』そしてそれを『言う』ということは『言語化する』ということです」

「我々自身は、今どこに日本が向かっているかわからないから、どういう生活をしていったらいいかわからないから不安なんですよね。だからそれをきちんと『言葉』にして置いていく、場合によっては歴史を参照する。我々は未来のことはわからない。そのとき唯一の手掛かりはやはり歴史にしかないのです。今そういう時期に差し掛かっているのかなと思います」

■硫黄島でひざまずく安倍元首相

右松キャスター
「首相は自衛隊3隊の最高指揮官。安倍元首相の自衛官に対する思い、そして戦争で亡くなった方に対する思いを近くでどのように見ていましたか?」

河野氏
「2013年、私は海上幕僚長でしたが、硫黄島は海上自衛隊が管理してるものですから、首相が視察されるということですから、私が責任者としてお出迎えして、視察に随行しました」

「報道陣は確か父島に行く予定だったので、そちらに先行し、硫黄島には報道陣がいなかったのです。滑走路を通過する時、全く私予期しなかったのですが、滑走路にひざまずかれて、手を合わせて頭を垂れたのです。私もとっさにこういう場面に出くわしたものですから、恥ずかしながらどうしていいかがわからない。このように、中途半端な姿勢で立っているような状況になってしまったのです。滑走路の下にご遺骨があるってことを安倍元首相は知っておられたのです。そしてこのあと、滑走路をなでていました」

河野氏
「米軍が占領した後、この基地を使うために急ピッチで、ブルドーザーで滑走路を作ったのです。したがって土の中にたくさんご遺骨がある のです。(安倍元首相の姿を)拝見しまして、本当に戦没者の方々に対する哀悼の念を心底思っておられる方だと本当に痛感をいたしました」

右松キャスター
「ここには日本兵と米兵のご遺骨が」

河野氏
「日米両方のご慰霊に対して頭を下げられたと私は思いました」

■日米の「片務性」の是正を目指した

右松キャスター
「2014年、集団的自衛権の限定的な行使 容認の閣議決定、2015年の安全保障関連法成立に至るまで国会も世論も二分されました。安倍元首相は安保関連法がなぜ必要だとして断行できたと思いますか?」

河野氏
「やはり、日米同盟が根底にあったと思います。安倍元首相はこれをやれば支持率は確実に落ちるということを承知の上でやられたと思うのです。安保法制というのは非常に複雑な法体系になっているのですが、日米同盟という焦点を絞れば、基本的に2つなのです。『限定的集団的自衛権』の行使に『存立危機事態』を設定したこと、それから平時からアメリカの飛行機・船を自衛隊が守ることができるようになったのです」

「日米同盟というのは基本的に敗戦国と戦勝国の同盟という非常にいびつなところからスタートしたものですから、いわば『日本はアメリカにおんぶにだっこ』ということが日米同盟の基本だったのです。しかし、もうここまで時代が進んだときに『それでいいのか』という問題意識を安倍元首相が強く持っておられたと思うのです」

「憲法9条があるので、完全な平等ということにならないと思いますが、いわゆる戦勝国と敗戦国との 関係での『片務性』を極力是正しなければならない、それが日米同盟を強化するゆえんだと固い信念を持っていたと思います。これは、安倍元首相がよく言っていた『戦後 レジームからの脱却』の1つなのです。したがってこの信念を緩むことなく、『千万人と雖も吾往かん』という精神でやられたと思います」

■「日本は変わった」

右松キャスター
「2017年5月には海上自衛隊の護衛艦いずもが初めて米軍の艦船の防護にあたった。平時におけるアメリカなどの艦船や航空機の護衛はここ3年で61回。相互護衛ができる状態に近づいていったことで日米関係においてどのような進歩がありましたか?」

河野氏
「これは非常に大きいです。私も現役の時に実感をしたのですが、『限定的集団的自衛権』というのは有事のときに発動されるものです。したがって今現時点では目には見えないわけです。ただ、平時からの米軍の船・飛行機を守るということは、今、現時点で行っています。ということは、アメリカは現実に今日本が防護してくれている行動を見ることができるのです。アメリカのトップクラスの方々は私に『日本は変わった』『変わってくれた』と言いました。明らかに日米同盟が強化された証だと思います」

右松キャスター
「『日本が変わった』とアメリカが見なしたとするならば、例えば万が一、有事が起きて作戦行動をする際、米軍と自衛官が同じ場所に立ち、命を賭す覚悟をしながら共に戦うという信頼関係にも繋がってくる?」

河野氏
「もちろんです。同盟関係というのは『お先にどうぞ 、私、後からついてきます』となったら成り立ちません。『ショルダー・ツー・ショルダー』と言いますが、お互いが協力し合って戦うということなのです」

■国論が二分、そのとき知識人は

右松キャスター
「2015年の国会前での安保法案に反対するデモも起こり、国論が二分され、『安倍批判』が先鋭化した時代でもあり、安倍元首相を批判していいような空気が醸成されたようにも感じます。当時の時代をどう振り返りますか?」

先崎氏
「私は明確に『このデモはおかしい』ということを言い、相当叩かれました。しかし私は次のようなことで反対したのです。それは安倍さんに対して、あらゆる罵詈雑言を平気で喋っている人たちがたくさんいたのです。言葉というものが短くなって暴力的になるということは、我々が思考するということを放り出すということなんです」

「言葉の重要性は、我々が混迷しているとき、興奮しているとき、その興奮を沈めて冷静になるために言葉というのを操ることを知識人がやらなければいけない、論客が存在する必要性なのです。そのときに論客を中心とした人たちが、若くまだ言葉をもたない人たちを煽りながら非常にワンフレーズで個人攻撃をするということは、これは日本社会の言論が低下しているということなのです。日本社会全体の思考能力が低下してパニックに陥るのです。だから私は知識人がする仕事として、それは正反対なんだと。激しく時代が動いている時こそ、言論人は座って言葉を書き、本を出し、必要な場において自分の考えをきちんと述べる。そして安倍元首相が行っていることを粛々と、これによって国がどう変わっていくのかを論じるべきだと言ったというのを覚えています」

飯塚コメンテーター
「安倍さんは、祖父で首相だった岸信介氏と父で外務大臣を務めた安倍晋太郎さんの歩んだ道を常に意識し、そこから自分の使命を感じ取っていたと思います。安倍さんの著書の中に『私の原点』という項目があるのですが、60年安保闘争の際、渋谷の祖父の家がデモ隊に取り囲まれた時に、この家に遊びに行っていた6歳の安倍さんが『アンポ、ハンタイ』のシュプレヒコールを聞き、『アンポってなあに』と祖父に尋ねるシーンがあります。岸氏は『日本をアメリカに守ってもらうための条約だよ。何でみんな反対するのかわからないよ』と答えたのをかすかに覚えている、と言うのです」

「安倍さんは別の項で、岸氏が『私は間違っていない。殺されるなら本望だと死を意識した』と書いています。それまでの安保条約は米国に日本の防衛義務がなかった。その一方で、在日米軍は、基地の使用や核兵器の持ち込みなど、ほぼ無制限の自由を得ていたわけです。全くの不平等条約で。岸氏は米国に日本の防衛義務を盛り込むという安保改定だったのです。このときにやらなかったら今どうなってたかということを考えると、まさに歴史がその正しさを証明してると思います。首相官邸の当時の安倍さんの執務室には、岸氏が1960年にアイゼンハワー米大統領と安保条約改定に署名した時の写真が飾ってありました。安保法制の時の世論の反発、心の安寧をどこに求めるかというときに、おじいさん、お父さんへの思いというのがあったと思います」

深層NEWSはBS日テレで月~金 夜10時より生放送