コロナ禍の衆院選“どぶ板からSNS戦”へ
今月31日に投開票される「コロナ禍」での衆議院選挙。候補者らは、これまでの「どぶ板選挙」から脱して、いかに新たな戦術で戦うのか?「SNS」駆使に暗中模索する候補者らへの「選挙コンサル」のアドバイスとは?
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■事務所探しからポスター撮影まで「選挙コンサル」の仕事とは
「コロナ禍での衆院選は、従来とはかなり違った選挙戦が展開されています」
こう話すのは、東京・渋谷区の選挙コンサルティング会社「ジャッグジャパン」の大濱崎卓真社長です。今回の衆院選でも、与野党の複数の候補者のコンサルに携わっているといいます。クライアントである立候補者からの依頼を受け、事務所となる物件探しをしたり、ポスター撮影や支持者リストの管理など業務は多岐にわたります。
■コロナ禍の選挙 「密を避ける」ことが大前提
ほとんどの候補者に初めてとなるコロナ禍での選挙戦。“withコロナ”の選挙活動を、大濱崎さんは次のようにアドバイスしているといいます。
「大規模集会や演説ができないので、規模を縮小し、開催回数を増やすように助言しています。規模の小さな集会でも、候補者が支持者や有権者の目を見ながら、グータッチしたり肘タッチでコミュニケーションは可能で、やれることはたくさんあります」
また、コロナ禍で集会に参加できないという支持者には、候補者が直接電話をかけ、投票のお願いをするように助言しているということです。
「候補者も事務所のスタッフも、通常の選挙運動以上の負担を感じていると思いますが、皆さん必死でやっています」
■「テレワーク」を考慮し、選挙カーのルート変更も
「選挙カー」による運動も、コロナ禍で気を使うべきポイントがあるといいます。ある候補者から「街に人が出ていないから、住宅街を選挙カーで回りたい」と相談を受けた大濱崎さんは、控えるようにアドバイスしたといいます。
「自宅でテレワーク中の方も多く、そうした中を選挙カーで走り回り、名前を連呼しても印象が悪くなるだけ。どうしてもというのなら、正午からの1時間、ランチタイムに限定する。活動場所としては、コロナ禍でもスーパーや銀行には人々が訪れる、そういう場所は効果的だと伝えます」
コロナ禍における有権者の日常生活を考慮しなければ、思わぬところから候補者への悪評が生まれてしまうため、細心の注意が必要だと説明します。
■「マスクで顔が見えない」選挙戦 ポスターやビラでカバー
今回の選挙戦では、ほとんどの候補者がマスクを着用したまま運動をしています。このため「顔を売れない」と候補者は頭を悩ませているといいます。
「配布するビラに印刷された候補者の写真をより大きく見せたり、前回の選挙で使用した、有権者が“見慣れた顔”をポスターに採用するなどして、有権者への印象づけを行っています」
候補者がマスクを外すことができるタイミングは少ないものの、選挙においては「候補者の顔」を最大限有権者に印象づけることが重要だと大濱崎さんは指摘します。
■候補者の「SNS」発信が「常識」に
コロナ禍の選挙運動の中で、もはや「常識」になったのが、候補者によるSNSの情報発信です。「ツイッターを始めたが、読んでもらえない」「地元の有権者のフォロワーが少ない」こうした相談が寄せられることも少なくなく、具体的なSNS戦略についてのアドバイスを行うこともあります。
「SNS上により良い写真、良い映像を撮ってアップしたいと、高価なカメラを買う候補者もいます。しかし、ただ高画質なだけの候補者の顔写真や動画ができあがるだけで、有権者を引きつける材料にはなりません」
基礎的な撮影方法の習得やテロップを入れて見やすくするのはもちろんのことで、地元在住のSNSユーザーを味方につけるのも重要なこと。
「候補者をただ写すだけではなく、地元の美しい風景なども加えて、地元の有権者に見てもらえるようにしないと、SNS上で関心を引くことはない」といいます。
■「サイバー戦」SNSの使い方が当落に影響?
演説や集会、練り歩きなどいわゆる「どぶ板」選挙、ポスター貼りやビラ配りなどの「空中戦」といった昔ながらの運動スタイルに加え、SNS発信による「サイバー戦」もまた、今の選挙活動の新たな常識になっていると大濱崎さんは断言します。
「今回の選挙でもSNS発信に力を入れたいという相談は増えていて、SNSの使い方が当落に影響するようになってきている」
SNSを使った有権者とのコミュニケーションは不可欠ですが、ここにも候補者が陥る落とし穴があるといいます。
「有権者から写真撮影を頼まれて一緒に撮る、これはどんどん行うべきですが、候補者が有権者に“SNSに写真をアップして拡散してね”というのは控えるべきです。義務を負わせることに他ならず、有権者と候補者の間に壁ができる原因にもなり得ます。選挙権のない子どもに“お父さんお母さんによろしくね”というのも、有権者である保護者の心証を悪くするだけです」
あくまで、有権者が自発的にSNSなどで拡散してくれる機会を多くつくることがポイントだといいます。コロナ禍で、SNSの駆使を余儀なくされる戦いに挑む候補者たち。その姿を追えば、政治家たちの新たな横顔が見えてくるかもしれません。