全国唯一の「水族館部」 高校の中に2000匹 !? 創立25年で初の“お引っ越し” 魚愛と命のドラマ【NNNドキュメント】
全国唯一の“水族館部”が運営する水族館が、愛媛県にあります。県立長浜高校の「長高水族館」。教室や廊下の水槽には約150種類・2000匹の生き物たちがいましたが、部員増や老朽化のため、学校内での運営が困難に。開館25年目、ついに引っ越しが行われ、新たなスタートを切りました。
愛媛・大洲市長浜にある「長高水族館」は、月1回だけ無料で一般公開しています。(※毎月第3土曜日、予約制で)
目玉は、世界初の“ハマチショー”。調教されたハマチが、イルカのように輪をくぐり抜けていきます。生徒たちはお客さんに「簡単そうに輪っかをくぐっているように見えますが、ハマチが輪っかをくぐるのは自然界ではまず、ありえません」と力を込めて説明します。
この水族館を運営しているのは全国唯一・長浜高校の「水族館部」です。
ハリセンボンにミズクラゲ、ルリスズメダイ、そしてハナビラクマノミ…。水槽には、海や川の生き物がおよそ150種類、2000匹。部員たちが釣ったり、漁師さんがくれたり…ほとんど自分たちで集めてきました。
タコ担当の3年生・石丸夏実さん。「ほんとに好きなんです」という石丸さんのタコ愛で、長高水族館には初めてタコ水槽が誕生しました。
石丸夏実さん
「血が青かったりとか、脳が9つあったりとか、心臓が3つあったりとか。ほんとにミステリアスな生き物なんですよ」
オスのマダコ“もなか”は、地元の漁師さんからもらいました。水族館を訪れた子どもたちも、もなかに興味津々の様子です。
男の子「タコ、なんで寝てるの」
石丸さん「寝てないんよそれ。ずっとこっちを見てね、“何してるんだ”って観察しよるんよ」
1999年1月にオープンして以来、西日本豪雨があっても公開を続け、地元の人たちを笑顔にしてきました。
今では来場者が年間1万人を超える人気の水族館に。しかし2023年、古くなったポンプが原因でハマチが全滅。老朽化などで、校内での水族館運営は限界を迎えていました。
新しい水族館を作りたい──!
部員たちは、地元の人たちや自治体に新水族館の建設を訴え続けました。そして、部員たちの“魚愛”は、県と市に届くことに。水族館が2024年に引っ越すことが決まり、移転先は長浜高校のすぐ隣にある保健センターになりました。
100メートルほど離れた、新しい水族館への魚たちの引っ越しの日。タコ担当の石丸さんは、マダコの“もなか”が入る新居づくりに取り組んでいました。広くなった新しい水槽に最高のすみかを作ってあげたい!自分で集めてきた海藻をレイアウトしていきます。
「できました、多分、けっこう早めに終わりました」
いつか、もなかのお嫁さんになってくれたらいいなと、石丸さんは、若いメスのマダコを入れました。その3時間後、もなかが、メスダコのタコ壺の中に入っていきました。
「え!何しよん!」と驚きの声を上げた石丸さん。
石丸さん
「え、初日?え、そんな一日でやるとは私、思わんかったんやけど」
「交接(※受精の行為)してるかもしれないです。初日で恋に落ちたんですかね」
しかし、その翌日、事件が起きました。水槽の中に石丸さんが見たのは、死んだ“もなか”でした。
石丸さん
「あれ…。え、なんでだ…。いやあ、マジか」
もなかが、死んでいました。メスと交接したオスダコは、死に至ることが多いということ。しかし、引っ越し翌日とは、石丸さんも予想していませんでした。
石丸さんは、学校からおよそ50キロ離れた宇和島市から入学。親元を離れ、地元の人がリフォームしてくれた女子寮で下宿していました。
新水族館のオープンまで2日と迫った、4月の夜。石丸さんは、愛媛名物のたこ飯を作っていました。調理していたのは、“もなか”でした。たこ飯を口に運び、「……こんな味だったのか」とかみしめる石丸さん。
石丸さん
「“もなか”が、私の中で生きてくれてたらいいなと思いますね」
そして迎えた4月20日、オープンの日。新長高水族館には多くの人が詰めかけていました。石丸さんは、1匹だけになったタコ水槽の前で「卵巣が発達して卵ができるようになったら、受精させて卵を産んでくれるはず」と話していました。
まるで、竜宮城のように生まれ変わった新水族館。これからも、高校のすぐ隣で、夢と生き物の命を育て続けていきます。