蜷川さん立ち上げ“高齢者劇団”最後の舞台
亡くなった演出家の蜷川幸雄さんが「第2の輝ける人生を」と15年前に立ち上げた高齢者による劇団が、26日に千秋楽を迎えた公演で解散となりました。最後の舞台に臨む団員の思いを取材しました。
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1本の蛇口から流れる水のもとに、人生に渇きを持つ人が集う物語。セリフのない沈黙劇「水の駅」を演じるのは、平均年齢81.9歳の高齢者の劇団「さいたまゴールド・シアター」です。
蜷川幸雄さん(2009年 当時74)
「プライドをもてプライド!」
人生経験を積んだ人にしかできない新しい表現があるはずだと、蜷川幸雄さんが2006年に立ち上げました。
蜷川幸雄さん(当時74)
「(演劇の力は)制約というか、困難を逆転すると、すごくいいものが生まれるときがある。唯一の希望として」
結成から15年。健康面で活動困難な団員も増えた上、新型コロナウイルスの感染拡大で活動が厳しいと判断され、年内で解散することになりました。
「解散だなんて。ここ(劇団)が別荘地、私の」
こう語るのは、家族と離れ一人暮らしをしながら役者を続ける、さいたまゴールド・シアター団員の田村律子さん(82)です。
戦争を経験し、岩手県で子育てに奮闘してきた田村さん。「残りの人生を役者として歩んでみたい」と66歳の時にオーディションを受け、1200人以上の中から選ばれました。15年間の活動では、国内外30本近くの作品に出演しました。
稽古の朝、田村さんの1日は、蜷川さんの写真に手を合わせることから始まります。
今回演じたのは、社会にもまれ、自分を見失った女性が、水場で本当の自分の姿を再認識するという難しい役どころ。
演出家の杉原邦生さん(39)から、「止めます。歩みが軽い。もっと重く」と熱い指導を受けます。
この日、登場のシーンだけで、稽古は4時間にも及びました。
田村律子さん(82)
「なかなかうまくできなくて。何かを身につけているような感じがして、楽しいって気持ち。やっている時は苦しかったけど」
家族と離れ15年、一人で暮らすアパートに帰ると、休息もつかの間、スマホに録音した演出家のダメだしに耳を傾けます。稽古でつらい時も、持ち前の明るさで乗り越えてきました。
田村律子さん(82)
「(踊ると)気持ちがすーっとしてくるんですよ。おかしいでしょ」
迎えた千秋楽。さいたまゴールド・シアターで舞台にたつのは、これで最後です。
重い足取りで現れ、水場で再起する女性を演じきりました。満席の客席から拍手が沸き起こり、鳴りやみませんでした。
田村さんは、「みんな元気にできてよかった。もうこれで終わりにしたくない。(オファーがあれば)役者の仕事を続けていきたいなと思っております。前進したいと思います」と笑顔で語りました。