蜷川幸雄創設高齢者劇団解散へ 最後の思い
演出家の故・蜷川幸雄さんが創設した平均年齢81.9歳のプロ劇団「さいたまゴールド・シアター」。団員の高齢化や新型コロナウイルス感染拡大の影響で活動継続が難しくなり、12月19日に始まる公演をもって解散する。団員たちが全力でぶつかった15年、最後の舞台にかける思いとは。
■平均年齢81.9歳 コロナ禍で解散決定
「さいたまゴールド・シアター」は2006年、世界的演出家・蜷川幸雄氏の「年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法によって新しい自分に出会う場を提供する」という発案で発足した。
55歳以上を条件に劇団員を公募し、平均年齢66.7歳の48人でスタートした。しかし、創設から15年、現在、メンバーは33人に減り、平均年齢81.9歳。健康面で活動への参加が困難なメンバーも増え、劇団のあり方を見直そうと思っていた中、新型コロナウイルスの感染拡大で活動継続が困難と判断された。
12月19日に始まる沈黙劇「水の駅」が劇団として最後の舞台となる。この劇にセリフはなく、何らかの渇きをもった登場人物が水場を訪れ、そして去っていく姿を描く群像劇だ。
■単身上京「ここは私の別荘地」
岩手県盛岡市から上京し、家族と離れ一人暮らしをしながら役者を続ける団員の田村律子さん(82)は、この劇団は「別荘地」だと語る。
「私は解散と思っていません。ここが私の別荘地なんです。この15年、地元に帰ろうとかさみしいと思ったことはない。それは蜷川さんとゴールドのみんながいたから。感謝感謝です。誰が一番大事かって聞かれたら家族かもしれないけど、一歩外に出たら蜷川さんが大事。だから役者人生も死ぬまで続けたい。体が動かなくなるまで。気持ちとしてはまだまだ役者でありたい」
セリフが覚えられない、病気、ケガ…団員たちは常に「老い」と向き合ってきた。しかし、この「老い」こそが観客を引きつけるのだ。
生前、蜷川氏は「演劇の力ってつらいことを逆転すると、制約や困難を逆転するとすごくいいものが生まれるときがあるというのが唯一の希望」だと語り、自らと同世代の役者たちを鼓舞していた。
■最後の演出手がける“蜷川おたく”
劇団最後の作品の演出をまかされたのが気鋭の演出家・杉原邦生さん。蜷川氏とは一度も話したことも会ったこともないという杉原さんは、大学時代の授業で蜷川さんの作品「王女メディア」を映像で見てから、演出家の道を歩むことに。蜷川作品はほぼすべて鑑賞し、自らを“蜷川おたく”だと語り、今回の起用に使命感を持っているという。
──今回の演出を託されたことについて。
「正直なところ僕でいいのかと最初思いました。僕は蜷川さんの演出助手をやっていたわけでもなく、話したことすらなくて、ただの一おたくなんですけど。『水の駅』という僕の恩師で師匠の太田省吾さんの作品と蜷川さんの残した『さいたまゴールド・シアター』が一緒に組み合わさる企画で演出できるのは光栄だと思ったし、その役を担えるには僕なのかなという使命感も感じた。蜷川さんも常に新しい挑戦をしてきた方で、最終公演も今までやってきた人ではなく、おそらく(これまでのゴールド・シアターの演出で)一番若い世代の演出家を起用するというか、最終公演だけど、次のステップ、未来につながるような公演にしたいという意図があるのかなと。そういう意味では僕がやらせていただく意味もあるのかなと思う」
杉原さんの稽古場をのぞくと、役者1人が出演する1シーンに、約4時間もの時間をかけ向き合う姿があった。
――団員と向き合って。
「焦らせてもいい結果は生まれないと思っているので、もちろん待てる限界はあるんですが、なるべくその人のペースをつかんで言葉をかけていく。今回の作品は、1シーン出たらみんな出番が終わるので全体の流れがつかみづらいと思っていて、初めての通し稽古ではぐちゃぐちゃだろうと思っていたんです、正直。でもやってみたら不思議とシーンとシーンがつながり、みんながバトンを渡し合っている感覚があり、劇団の力だなと思った」
――最終公演で高齢の劇団員による沈黙劇に挑戦する意義については。
「高齢者のゴールド・シアターのみなさんがやるということで、そこに歴史というか年齢の厚み、それって日本の歴史でもあると思うんですよね。戦争を体験した方もいますし、そういうことが見えてくることで、さらに壮大な歴史的な作品になるんじゃないか」
さいたまゴールド・シアター最後の公演「水の駅」は12月19日~26日、彩の国さいたま芸術劇場で上演される。