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Z世代の起業家たちが見る、現代社会【SENSORS】

2023年9月8日 21:40
Z世代の起業家たちが見る、現代社会【SENSORS】

多くの企業で経験豊富な先輩(メンター)が後輩を育成するメンター制度が取り入れられているが、昨今その逆のリバースメンタリングが注目を集めている。リバースメンタリングは、若年層が上司や先輩の相談役となり助言やサポートを行うことで、相互理解の促進や、組織の活性化につながることが期待されている。

若年層の代名詞といえば、「Z世代」だろう。Z世代の持つ視点や価値観から学ぶべきこととは。今回は、Z世代の起業家たち4人に、いまZ世代がビジネスや現代社会に対して感じていることを聞いた。

■“Z世代”と呼ばれる違和感と安堵感

Z世代とは、明確な定義はないが、主に1990年半ば〜2010年代に生まれた世代を指す。子どものころからインターネットやデジタルデバイスを使いこなし、SNSでのコミュニケーションが日常化している。

それ以前の世代とは大きく異なる文化を持つことから、これからの社会形成のキーとなる世代として注目されている。“Z世代”と評されることを、本人たちはどう感じているのだろうか。

Forbes JAPAN が選ぶ「業界を代表する 30 歳未満のイノベーターにインタビューを行う NEXT UNDER 30(2018年版)」に選出された、映像監督YPさんは、自分がZ世代だという意識はあまり持っていないと言う。

「君はZ世代だよと言われても『そうなんだ』という感覚です。だから、今日もZ世代を代表して話すんだというスタンスでいるわけではありません」

株式会社水星・代表取締役でホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、Z世代と呼ばれることに違和感を持つ。

「Z世代って、上の世代が若者を敬って、若者から学ぶために使うようなときがありますよね。それが、少しむずがゆいです。ネットメディアやニュースで“Z世代は環境保護意識が強い”などと総じて言われることもありますが、実は一部の人たちだけの価値観だというときもあります」

一方で、“Z世代”というカテゴリに助けられることもあると言う。

「Z世代以上に違和感があるラベルもあります。例えば、『女性』『女性経営者』『スタートアップ』のような言葉が並んだときに連想されるイメージの強さには、私は勝てません。それなら、年代で区切られただけの『Z世代』と呼ばれるほうがリラックスできますね」

■Z世代は、本質を重視する

世代や違いにこだわらず、フラットに接したい。それこそが“Z世代らしさ”なのだろうか。株式会社小杉湯 COOの関根江里子さんは、銭湯で次のような体験をした。

「ある時、若手スタッフが『どうして男性の浴室にはメイク落としがないんですか』と言ってくれたんです。問題意識からではなく、純粋にフラットで当たり前という感じでした。そういった感覚が、私たちの世代は強い気がしますね。でも、それを43歳のオーナーもすんなり受け入れていましたし、逆に若い子でも男性向けや女性向けにこだわる子もいます。世代にかかわらず、理解や吸収のスピードが速い方は速いし、フラットな方はフラットなのかもしれません」

株式会社 Quwak代表取締役 合田瞳さんは、起業家には、さらにフラットな意識が求められると考える。

「17歳のときにビジネスを始めたのですが、若いから80%のクオリティで許されるかというと、そうではありません。若くても、求められるものは同じ。むしろ大人以上に能力を発揮できなければ、社会で必要とされないこともあります」

ビジネスにおいてクオリティが求められるのはもちろんだが、消費行動において “本物である”ことを重視する傾向が、多くのZ世代にあるようだと話すのは、ホテル経営をする龍崎さんだ。

「安藤忠雄さんや隈研吾さんが作ったとか、逆に知る人ぞ知るニッチな建築家が設計したとか、そういった権威性を重視してホテルを選ぶ方はとても多いですね」

権威性を重視する傾向には、関根さんも同意する。

「私たちの世代は、多くの情報をすぐに得られて、いろんなことをスピーディに行うことができます。でも、圧倒的な時間の上に築かれてきた歴史性や時代性は手に入れられません。小杉湯(東京・高円寺)は数年前に有形文化財に登録されましたが、創業からの約90年は早送りできない価値ですよね。簡単には得られないからこそ、Z世代は権威性や本質的な価値を求めている気がします」

世代差や性差を越えたフラットな関わり合いを求める一方、長い時間の上に集積された権威や歴史に対するリスペクトを持つ、Z世代。そこには“本質”を大切したいという想いが伝わってくる。

■課題解決から社会受容へ

Z世代は仕事において、どのようなことを大切にしているのだろうか。YPさんの場合は、「映像を見た前後で、人の心を少しでもよりよく変えられる作品を創りたい」と話す。彼の想いは、これまで長きにわたり多くのクリエイターたちが追求しつづけてきた、クリエイティブの“本質“と一致するのではないだろうか。

「懐かしさやエモさを感じて、自分の体験をコメント欄に書いたり、SNSで発信したくなったり。あるいは、それはそうじゃないだろうとか俺はこう考えるって賛否両論が出たり。すてき、うれしい、ありがたいなど、みんなの感情をどう動かすかを追求してコンテンツを作っています」

IT系スタートアップから銭湯経営へと転身した関根さんは、働く上で重視するものが、社会課題解決から社会受容へと変化したと語る。

「前職では、どの社会課題をどのソリューションで解決するかと考えることが多かったのですが、銭湯にできることは、課題解決ではなく、そのまま受け入れることなのだと思っています」

「例えば、小杉湯は約90年前から1度もタトゥーを禁止していません。でも、オーケーとも言っていないんです。何かをオーケーとした瞬間に、オーケーな人とそうでない人に分けてしまうことになります。いろんな人をそのまま受容することは、今、社会全体においても求められていることではないかと思います」

年代や性別や肩書きで判断せず、本質的を重視する彼女たち。”Z世代”というラベルはときに不本意であるかもしれない。しかし、他世代が”Z世代”から学ぶべき傾向が、そこには確かに存在している。