【解説】動物と行う神事は虐待か…伝統行事に批判の声 現代の価値観とギャップも
動物とともに各地で行われる伝統行事に「動物虐待ではないか?」という指摘が相次いでいます。何が起こっているのでしょうか。
三重県桑名市の多度大社で行われている「上げ馬神事」では、人と馬が一体となり急な坂に挑戦し、壁を乗り越えた回数でその年の作柄を占うもので、県の無形民俗文化財に指定されています。三重県によると、5月に行われた神事で馬1頭が坂の途中で転倒して骨折し、結果として殺処分されました。
また、馬をはっぴやロープでたたくなど、複数の不適切な行為も確認され、1000件以上の批判的な意見が寄せられたといいます。
祭りが生まれた時代と現代とのギャップが顕在化しています。そこで、18日の知りたいポイントは--
◇各地で求められる見直し
◇動物と伝統行事 今後は
以上の2点を詳しくお伝えします。
動物虐待との指摘を受け、三重県教育委員会は17日、神社に対して勧告を行いました。
【神社への勧告】
○馬を威嚇する行為を根絶すること
○人、馬ともにけがをすることのないように徹底した安全管理のもとで行うこと
○神社が神事全体の管理を十分にできていない現状があり、実施の主体をはっきりさせること
多度大社は、今月下旬に今後の改善策について県に伝える方針で、「より一層の改善に向けて、引き続き協議をしていく」としています。
ほかにも、動物虐待として刑事告発される事態になっている行事もあります。沖縄県糸満市の指定無形民俗文化財「糸満ハーレー」の催しのひとつ「アヒル取り競争」です。アヒルを海に放って人間が泳いで追いかけてつかまえる催しですが、糸満市によると、1000件近くの意見が寄せられ、9割以上は中止を求めるものだったといいます。
さらに、動物保護の活動をしているNPO法人が「虐待にあたり、動物愛護法に抵触する疑いがある」として刑事告発し、警察は今後の対応を検討しているということです。
これに対して主催者側は、「アヒルを殺したり、傷つけたりしたことは一度もない」「参加者に注意喚起をしている」「最大限配慮した上で同じように続けていきたい」と話しています。
動物愛護の観点から、今はもうなくなったものもあります。ハブとマングースのショーです。沖縄県によると、かつては沖縄の観光名物で複数の施設で行われていたそうですが、こちらも動物愛護の観点で故意に戦わせるのはよくないと判断し、2000年ごろから内容の変更を指導していて、結果として現在は行われていません。
私たちは今後、こういた行事にどういったふうに向き合っていけばいいのか、次のポイント「動物と伝統行事 今後は」についてみていきます。
伝統文化と観光に詳しい北海道大学の岡本亮輔教授に話を聞きました。「今の時代は、宗教的なものと現代的な価値観がぶつかりやすくなっている」といいます。「地元にとっては伝統を受け継ぎ続けていくという意識があって、決して虐待するつもりはない。なのに、そうした『地元の意識』と『外部からの目』との間に齟齬がある」とみています。
岡本教授は「動物を祭りで使うときは、まずは法令順守を徹底するのは大前提だ」とした上で「何がセーフか、何がアウトかは、社会全体でそのときどきの議論が必要だ」と述べました。
実際に最近、議論が行われて見直しに動き出している実例があります。先月、福島県南相馬市などで行われた「相馬野馬追」です。甲冑に身を固めた騎馬武者300騎以上が疾走したり、御神旗を奪い合ったりまさに、戦国絵巻さながらの行事です。
1000年以上もの歴史があるということで、国の重要無形民俗文化財となっています。ただこちらの行事、猛暑で観客や騎馬武者など83人が熱中症の疑いで救護され、11人が救急搬送されました。
また、出場した361騎のうち、2頭が日射病などで死にました。期間中に救護された馬は、南相馬市だけで111頭にものぼったといいます。
岡本教授は「祭りをやる側も外部への発信が大事だ」と話しています。祭りの関係者がやるべきことは、「なぜ、こういう祭りを自分たちはやっているのか、どういう由来でやっているのかをしっかりとWebなどで外部に示していくことが重要」だといいます。
一方で、SNSなどでみられる極端な批判については「地域の歴史や祭りの文脈を無視したものであり、決して生産的ではない」とくぎも刺していました。
祭りは季節の変わり目、収穫の喜びを確認したり、無病息災をみんなで祈ったり、何らかの思いがこめられたものだと思います。そうした思いはしっかり尊重しつつ、規範や感覚を社会の移り変わりに合わせて、少しずつ変えていくことも求められます。
(2023年8月18日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)