芸術分野にも活用される人工知能 課題は?
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。27日は、「創造する人工知能」をテーマに、日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。
■自動で作曲してくれる人工知能も登場
人工知能「オルフェウス」は、歌詞を入力すると自動で楽曲をつくって、合成音声で歌ってくれる。東京大学で「オルフェウス」を開発し、今は明治大学総合数理学部の嵯峨山茂樹教授に、即興でラブソングをつくってもらった。
用意してあった歌詞を入力し、「ラブソング」「J-POP風」などジャンルや曲調を選ぶ。曲ができるまでは、4行の歌詞でたったの20秒。「オルフェウス」のサイトに登録すれば、誰でも簡単に作曲が楽しめる。
嵯峨山教授は開発した理由を次のように話している。
嵯峨山教授「人間の最高の知能と考えられている芸術の面を、コンピューターでどれだけできるかということをやってみたかった」
■人工知能の著作権は?課題も…
人工知能は小説にも活用されている。
「スマホが鳴った。深夜一時ころ。ここは研究室の中。(中略)邦男は大きなあくびをしながら、ポケットの中からスマホを取り出した。『鈴木邦男さんですか?』『はい、あなたは?』『わたしは悪魔』」-これは、人工知能を使って書かれたものだ。
制作したチームは、ショートショートで有名な星新一さんの短編小説を手本にしてプログラムを作成し、去年9月、「星新一賞」にも応募している。開発した名古屋大学大学院工学研究科の佐藤理史教授は、この小説は人工知能が全てを書いたわけではなく、人が手を加えていることから、「人工知能がつくった」と言えるかどうかは微妙な問題だと話している。
佐藤教授「ブロックのおもちゃにマニュアルがついていて、マニュアル通り組み立てるとタワーができました。そのタワーは誰がつくったんですか。マニュアルですか、それとも手を動かした人ですか、そういう問題」
こうした作品が出回るようになると、問題になるのが著作権。日本の著作権法では、著作物を「思想または感情を創作的に表現したもの」と定義しているので、現状では人工知能がつくったものに著作権が認められる可能性は低いと言われている。
■政府も「人工知能の著作権」議論開始
一方で、「人工知能の開発者に作品の著作権を認めるべきだ」という議論もある。そこで、政府の知的財産戦略本部は27日から、人工知能がつくった創作物の著作権を認めるかどうか、議論を始めた。論点としては「人工知能が生み出した作品の収入を誰が受け取るのか」「作者をどうやって証明するのか」「『作者の死後50年間』と定められている著作権の期間をどうするか」など様々なことが考えられる。
知的財産に詳しい福井健策弁護士は「人工知能は膨大な数の作品を生み出すので、盗作になるのを恐れて人間が創作活動をやりづらくなるかもしれない」「巨大IT企業が権利を独占する恐れもあり、情報の一極集中が起きる可能性がある」と指摘。現時点では著作権を認めることに慎重な見解を示している。
■約半数が携わる仕事が人工知能で代替可能に?
野村総合研究所は先月、10~20年後に日本で働いている人の約49%が携わっている仕事が、技術的には人工知能やロボットで代替可能になるという研究結果を発表した。スーパーのレジ係や清掃員、タクシーの運転手、銀行の窓口係、一般事務員、電車の運転士なども入っている。
■ポイントは「“人間”とは何か」
きょうのポイントは「“人間”とは何か」。将来においても、人工知能に侵されることのない人間の聖域とは何なのか。「オルフェウス」をつくった嵯峨山教授は「選び取る力」だと言う。人工知能は過去の膨大なデータと照らし合わせてヒットを予測することはできるが、全く新しいものに対して「これはおもしろい」と選ぶことはできない。人工知能について考えることは、人間とは何かという根源的な問いを考えることにつながるのではないだろうか。