×

重い奨学金で破産も 経済格差が希望格差に

2016年2月16日 3:58
重い奨学金で破産も 経済格差が希望格差に

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。15日は「どうなる?奨学金」をテーマに、日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。

 ■奨学金、返済に追われ自己破産

 奨学金には2種類あるのをご存じだろうか。返さなければならないものと、返さなくてもいいものだ。実は、文科省が所管する日本学生支援機構が給付している奨学金はすべて「貸与型」、つまり返さなければいけない奨学金。貸与型には、利子のあるものとないものの2種類があるが、共に返済が必要な点ではローンと同じだ。

 中には、卒業後に返済に追われて自己破産したりするケースもあるそうだ。生活が苦しいために奨学金を借りるわけだが、これでは本末転倒だ。貸与型だけでなく、返さなくてもいい「給付型」の奨学金も望まれる。給付型にすれば、返済の必要がないので勉強に集中することもできる。

 ■「給付型」奨学金に課題

 他の国の状況を見てみると、アメリカやイギリスなどOECD(経済協力開発機構)のほとんどの加盟国では、給付型奨学金が導入されている。そこで先月、馳浩文科相は、給付型奨学金の導入に積極的な姿勢を示した。しかし検討すべき課題が多いのが現状だ。

 日本学生支援機構の統計では、2015年度は約134万人の利用が見込まれていて、貸与額の合計は約1兆1000億円にのぼり、利用者の人数も、貸与額も年々増えている。

 そこで、給付型を実現するにしても、(1)財源、(2)給付対象者の基準づくり、(3)公平な支給方法など課題がたくさんあって、いつ実現するかはまったく不透明な状況となっているのだ。

 ■児童養護施設 高校卒業後の進学…2割

 そんな中、特に深刻なのが、虐待や貧困で家庭から保護され、児童養護施設などで生活する子どもたちだ。

 児童養護施設に暮らす子どもたちの数は約3万人。厚生労働省の調査では、児童養護施設で暮らす子どもたちで高校卒業後に進学するのは約2割。全国平均の8割にはほど遠いのが現状だ。

 進学率が低い理由の一つが学費の負担。たとえば月に10万円借りた場合、4年間で借りる奨学金の総額は480万円。去年3月に借り入れが終了した学生の場合、利子も含めると返済総額は約512万円になる。また、学生の中には、奨学金を生活費にあてざるを得なくなり、進学しても中退してしまうケースがしばしば見受けられる。

 ■支援の取り組み

 NPO法人ブリッジフォースマイルの調べでは、児童養護施設出身者の進学後の中退率は3割で、平均の3倍にものぼる。そこでブリッジフォースマイルが2011年から始めたのが、奨学金支援プログラム「カナエール」だ。奨学生は、児童養護施設で生活する人や、退所した人の中から書類や面接で選ばれ、スピーチトレーニングなど120日間の準備期間を経て、支援者などに自分の将来の夢を語る「夢スピーチコンテスト」に出場する。

 コンテスト出場者「施設にいる子どもは、みんなつらい経験をしています。進学するのに多くの奨学金を借りたり、子どもによっては進学をあきらめたりしています。こうやって私が伝えることによって、きっと社会が変わることを信じています」

 コンテストに出場すれば全員、30万円の一時金と、卒業まで毎月3万円の奨学金を受け取ることができる。返済の必要はない。

 NPO法人ブリッジフォースマイル・植村百合香さん「毎月奨学金3万円を給付していて、これは時給800円のアルバイトに換算すると37.5時間分にあたります。奨学生は睡眠や友達と遊ぶ時間を削ってアルバイトをしているので、心のゆとりが卒業までの意欲につながるといいなと思って奨学金を給付しております」

 担当者は、コンテストを通して、進学や夢への意欲を高めてほしいと話している。

 また、奨学生は、定期的にイベントなどで学生生活の近況を報告するので、支援者は「顔の見える関係」で、卒業までの長い期間を見守り続けることができる。

 ■希望格差をゼロに

 きょうのポイントは「“希望格差”をゼロに」。家庭環境や経済的に恵まれなかった子どもは、「どうせ努力したって無駄」「どうせ自分なんて」と意欲を失ってしまいがち。身近な先輩が大学に行っていきいきと学んでいる姿を見れば、「自分にもできるかもしれない」と希望を持つことができるのではないだろうか。「経済格差」が「希望格差」につながらない社会にしたいものだ。