児童養護施設の子どもたちを地域で支援
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。10日は「社会的共同親」をテーマに、諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が解説する。
親と離れて児童養護施設などで暮らす子どもたちを、地域の大人たちが親代わりになって支援する取り組みが今、注目されている。取り組みの背景にあるのは、施設を出た子どもたちを取り巻く現実の厳しさだ。
■児童養護施設とは?
児童養護施設というのは、虐待や親の病気、死別などで、親と暮らせない原則18歳未満の子どもが暮らすところ。こうした子どもたちは全国で約2万8000人もいる。
■児童養護施設を出た子どもたちの進路は?
NPO法人「ブリッジフォースマイル」の調査によると、2013年度に児童養護施設を退所した子どもたちの7割が就職している。ところが、時間がたつほど「仕事を続けている人」が減り、4年3か月後には、「転職した人」や「離職した人」が半数以上を占めるようになる。現在の状況がわからない「不明」のケースも1割程度あった。退所後の子どもたちをフォローするのは非常に難しい。
■京都の中小企業経営者らが始めた取り組み
そこで、京都の中小企業経営者ら約40人が子どもたちを支えようと、3つの児童養護施設などで「社会的共同親」の取り組みを始めた。
「京都中小企業家同友会」の代表メンバーで写真スタジオを営む前川順さん(56)は、児童養護施設を訪れて七五三の写真を撮影するボランティアをしていた。その中で、18歳になって施設を出た子どもたちが仕事をすぐにやめてしまう実態を耳にしたという。
前川さん「自立ありきで、とにかく焦った就職をするので、自分が本当に何がしたいかがわからず就職して、すぐにやめてしまう」
前川さんたちは、夏休みなどに、自分たちが経営する様々な会社で実習させることにした。中には、自信がついて、そのまま実習先でアルバイトを始める子もいるという。
■「社会的共同親」名付け親の思い
この活動を「社会的共同親」と名付けたのは、京都府立大学の津崎哲雄名誉教授。イギリスの「コーポレート・ペアレント(社会的共同親)」という制度に似ていたからと話している。
津崎名誉教授「社会の構成員すべての人が、どんな立場でも、子どもたちに、自分の立場から養育の支援をするという考え方」
イギリスでは、この取り組みが1990年代末から広まって、今ではすべての自治体で実施されているという。津崎名誉教授は、日本で「社会的共同親」の取り組みが広がるには、施設の側ももっと門戸を開放して、外部に助けを求めてほしいと話している。
■適性や夢を語り始めた子どもたち
児童養護施設の業務には、退所した子どもたちの自立支援も含まれているが、実際には入所している子どもの世話でていっぱいのところが多い。児童養護施設の職員は、この活動が始まってから、「子どもたちが生き生きと、自分の適性や将来の夢を語り始めた」「前川さんたちを“おっちゃん・おばちゃん”と呼び、訪問を楽しみにしている」など、明らかな変化があったと話している。
■前川さんへのすてきなプレゼント
児童養護施設で育った子どもたちは、「どうせ自分なんて」と自分を肯定できない場合もあるので、人と関わることが苦手な子どもも多い。そんな中、すてきなプレゼントもあったようだ。
前川さん「割と引っ込み思案の女の子がいて、似顔絵入りのクッキーを焼いてくれた。一生食べずに、棺おけに入れてもらおうと思ってます」
前川さんたちは定期的に施設を訪れて、子どもたちとケーキやお正月の飾りを作ったりもしているという。
■地域が親代わりに
きょうのポイントは「地域が親代わりに」。実は私は本当の親を知らない。2歳の頃から養子として、本当の親ではない父と母に育てられた。そして今、大阪に住んでいる親のいない子どもを知人と2人で支援している。地域全体で親代わりとなって子どもたちを見守り、支える取り組みを広げてほしいと思う。