“夫と死別”伝えず治療継続…提供精子で妊娠 クリニック“ガイドラインに反する行為”
夫が無精子症の夫婦が、第三者から精子の提供を受けて体外受精で行う不妊治療で、患者の女性が、治療開始後に夫と死別したことを医師に伝えずに治療を継続し、妊娠した事案があったことがわかりました。
東京・渋谷区の「はらメディカルクリニック」によりますと、今年の春ごろ、不妊治療のため、このクリニックに通院していた患者の女性が、通院を開始した後に、夫と死別したにもかかわらず、その事実をクリニックに伝えず不妊治療を継続し、第三者から提供された精子とこの女性の卵子で作られた受精卵を子宮に移植し、妊娠が成立した事案があったということです。妊娠後に実施している面談の際、夫ではなく、夫の親族が面談に訪れたことがきっかけで発覚したということです。
第三者からの精子提供で行う不妊治療については、法律がないままのため、同クリニックは独自にガイドラインを作成していて、その中では「治療の途中で、夫婦のどちらか一方が死亡した場合、治療は終了となる」などと定められていましたが、今回、それに反する行為だと認められたということです。
この事案をうけ、同クリニックは、精子提供による不妊治療の新規の受け付けを停止し、すでに登録している他の患者への説明を行うとともに、再発防止にむけ、ガイドラインの見直しなどを行ったと公表しました。
同クリニックは、この件で精子を提供した男性の権利保護の法的対策と解決の見通しがたったとしていますが、患者側のガイドライン違反に対しては、「遺憾という言葉で表現できない以上のものがある」とし、この患者への法的措置も含めた責任の追及を行う予定だということです。
今後は、年内にも第三者の精子提供による体外受精の不妊治療を再開するべく準備を進めているということです。
日本では、第三者から提供された卵子や精子による不妊治療に関する法律がないまま、第三者の精子を用いた人工授精(AID)が長年行われてきましたが、提供者(ドナー)が匿名のため、実際に生まれてきたこどもから「出自を知りたい」という切実な声があがることがあります。
同クリニックは、第三者が提供した精子を用いた体外授精を始めるにあたり、生まれてくるこどもが18歳以降に希望すれば、精子提供者が面会などに応じるといった、国内初の「非匿名」での精子提供を募っていました。
同クリニックは、「本件を受けて『匿名ドナーにしておけば問題は避けられる』との議論が再び起こるのであれば、『子どもの福祉』が軽視されたままであり、時代と逆行してしまいます。この治療で最も優先されるべきは『子どもの福祉』です。また、『生まれる子どもの出自を知る権利』と『ドナーの権利』が保全された法制化が実現し、この治療がそれぞれの立場にとってより安全なものとなる日を願っています。」とコメントを発表しました。