【北陸新幹線が延伸】手放しでは喜べない?…「100年に1度のチャンスなのに」 福井から「関西が“遠くなる”」?
北陸新幹線が3月16日、福井県へ延伸開業します。首都圏直結で福井は「100年に一度のチャンス」と盛り上がる一方で、「関西が遠くなる?」との懸念も―――。手放しで喜べない北陸新幹線開業を、鉄道ファンでもある日本テレビ報道局社会部の田頭祥デスクが解説します。(2023年12月16日放送より)
■東京から約30分短縮 福井の楽しみは「恐竜」「カニ」
3月16日、すでに金沢まで開業していた北陸新幹線がいよいよ福井県まで延伸されます。
福井の見どころを紹介しますと“世界3大恐竜博物館”の1つ、「福井県立恐竜博物館」は迫力ある骨格標本などで大人気です。また、断崖絶壁の「東尋坊」は雄大な景色が楽しめ、さらに「永平寺」といった歴史を感じるスポットもあります。
また、越前ガニなど海の幸も充実してますので、グルメ派にも楽しみですね。
福井に東京から鉄道で行く場合、これまでは東海道新幹線で米原まで行って在来線、もしくは北陸新幹線で金沢で在来線に乗り継ぐのが一般的なルートでした。
これが、東京駅から北陸新幹線1本で福井へ行けるようになります。最速で2時間51分ですので現在より30分ほど早くなります。さらに北陸新幹線は福井を越えて、敦賀が終点となります。
■「100年に一度のチャンス」 新幹線効果に期待の福井
2023年9月から、実際の新幹線の車両を使った走行試験が始まりましたが、沿線各地、地元の人々の大変な歓迎が見られます。福井県も新幹線開業は人を呼び込む「100年に一度のチャンス」と期待を寄せていて開業に向けての熱気はますます高まりそうです。
福井の駅前は恐竜のモニュメントが増やされ、高級ホテルやタワーマンションの建設など再開発も進んでいます。ちなみに、2015年に新幹線開業となった金沢は、観光客が1.2倍になったというデータもあります。ですから福井も、これに続きたいと意気込んでいるわけです。
■東京が近づく一方で「関西が遠くなる?」
しかし東京がぐっと近づく一方で、「関西が遠くなるのでは…」という懸念の声が出ています。「新幹線」ができるのに「遠くなる」―――。
現在、大阪や名古屋方面から福井を通って金沢までは在来線の特急が走っています。実は北陸地方というのは、元々関東よりも関西との結びつきが強くて、関西と北陸の間は大変多くの利用者がいます。
しかしながら、新幹線が敦賀まで伸びることによって、大阪・名古屋方面からの特急「サンダーバード」「しらさぎ」は全て敦賀止まりになってしまいます。例えば、大阪から福井や金沢に行こうとすると、途中の敦賀で乗り換えを余儀なくされるわけです。
■途中で「乗り換え」…時短わずか「3分」の区間も
もちろん、乗り換えの手間があっても移動時間が短くなればいいのですが、実際どうなるのでしょうか。2023年12月に発表されたダイヤを見ていきましょう。
大阪からの所要時間は富山までは最短2時間35分となり、29分の短縮。金沢までは最短2時間9分と、22分短縮されます。ただ、福井までだと最短1時間44分と短縮はわずか3分となります。
「3分の短縮のために乗り換え」ではかえって不便と感じる方も多いと思います。なぜこういうことになるのでしょうか。
■価格アップも所要時間ほぼ変わらず…ナゼ?
当然のことですが、在来線から新幹線に変わる距離の長さで時短の効果は変わります。敦賀と福井の間はわずか49キロ。いま特急でも29分の距離です。新幹線が16分で結ぶことになりますが時短効果はわずかとなります。
そして、もう1つのポイントは乗り換えの拠点となる「敦賀駅」にあります。
特急の到着から乗り継ぎの新幹線の出発まで(その逆の乗り継ぎも)最低8分の余裕をとっています。中にはダイヤの都合で10分以上空く接続もあります。これも新幹線の時短効果を薄めてしまう原因です。
さらに値段も上がります。普通車指定席は大阪~福井で6140円から7290円に。大阪~金沢で7790円が9410円に。金沢も22分という短縮時間の割には「値段が高くなる」という声も聞かれます。
乗り換えが加わり、値段も上がるとなると、関西と北陸の心理的距離が”遠くなる”と心配されているわけです。
■接続3分「日本一短い新幹線」の方が便利?敦賀駅「8分」かかるワケ
2022年、長崎県と佐賀県の間で開業した西九州新幹線も福岡の博多へ行くには乗り換えが必要です。
その乗り換え駅となる「武雄温泉駅」は新幹線と在来線特急が同じホームに発着し、ホームの反対側の列車に乗ればいいように作られ、3分で接続します。
一方、北陸新幹線の敦賀駅は周囲の地形の関係で新幹線ホームは地上から高さ21メートルに設けられました。在来線特急のホームは地上に作られたので、エスカレーターやエレベーターもあるとはいえ上下移動せざるを得ません。また途中に改札も設けられ切符を通す必要もあります。
実際、報道公開された駅の取材で乗り換えを体験し計ってみたら、3分26秒かかったそうです。新幹線列車の端から在来線列車の端まで移動するケースもあり、余裕をみて最低8分の乗り継ぎ時間となりました。
■乗り換えはいつ解消? 「一本化」計画にいま暗雲が…
それでは敦賀駅の乗り換えが解消される日は来るのでしょうか。実はその見通しは立っていません。
北陸新幹線は敦賀から先、新大阪まで延伸され全線開通することは決まっています。開通予定は2046年とされています。この延伸が実現すれば、再び関西と北陸は新幹線一本でつながるわけですが、実はいま、この計画に暗雲が広がっています。
7年前に決まったルートは、敦賀から先、福井県の小浜市を通って京都市に向かい、新大阪を目指しています。いま、そのルートの途中で計画撤回を求める住民の動きが起きています。
1つは南丹市美山町。このエリアには江戸時代に建てられた住居が今も残り、日本の原風景が広がる国の重要伝統的建造物群保存地区もあります。
この美山町など、京都府内を長いトンネルで通過する想定ですが、膨大な工事車両が通過することや工事で出た残土の処理に不安の声が上がっています。さらに、京都市内は地下トンネルで抜ける予定だが地下水が寸断されるのではと懸念の声がでています。
また、京都は古都ですから、これまでもトンネル工事で埋蔵文化財が出てくるケースがありました。工事が遅れることを懸念する声も強くあります。さらに京都を過ぎて、新大阪の地下駅が終点となりますが、ここも大きく開発されている場所で、難工事が予想されています。
当初は、今年度工事開始でしたが、前提となる環境アセスが終わらず、いまその時期は見えない状況です。
■再浮上する「米原ルート」
大阪への延伸時期が見えない状況で、石川県内の自治体の長からはこんな声も飛び出しました。
石川・加賀市 宮元陸市長
「米原ルートでぜひお願いします」(2023年10月1日 新幹線歓迎イベントでの発言)
この「米原ルート」。敦賀と東海道新幹線の駅がある米原の間はわずか50キロほどで、さらに地形的にもトンネルは少なく、小浜・京都ルートより、工期が短く建設費も安いと考えられています。
小浜・京都ルートは2016年当時の試算で2兆700億円かかるとされました。一方、米原ルートは、5900億円とされ、工期も10年程度とされました。
■「安上がり」米原ルート 簡単ではない「直通」
ただ、この米原ルートは、米原から先に問題があるのです。
大阪へは米原から東海道新幹線に直通と思いきや同じ新幹線とはいえ、直通は簡単ではありません。まず、北陸新幹線と東海道・山陽新幹線は使用している運行システムなどが違い直通が困難と言われます。
さらに、そもそも東海道新幹線は、現在でも最短3分おきで列車が走る過密路線。北陸新幹線への直通列車を受け入れる余裕がありません。もし、リニア中央新幹線が品川と新大阪の間で開通すれば東海道新幹線にも余裕が生まれるかもしれませんがリニアも開通の見通しが立たない状況です。
さらに北陸新幹線の運行はJR西日本で、東海道新幹線はJR東海。JR西日本からすると、大阪から北陸方面への列車を自由に走らせられない状況になります。つまり、結局米原で新幹線から新幹線へ乗り換えが残る形になります。
また、すでに決定したルートに駅ができる予定の福井県小浜市の反発は避けられません。
■求められる早期の乗り換え解消 実現性高いルート選定は
新幹線は国の事業です。ルートや優先順位は、その時々の与党の政治家が決めています。敦賀で乗り換えが必要になることは前からわかっていたことです。
鉄道はネットワークがあってこそ効果を発揮するものですから、一日も早く乗り換えを解消する手立てを考えて欲しいと思います。