【解説】なぜ緊急地震速報が広域に出た?3日の地震から、速報の仕組みをひもとく
6月10日から16日の間、国内で震度1以上の地震は32回ありました。
▼12日、午前7時24分頃、石川県珠洲市(すずし)で震度3の地震がありました。震源は能登地方で地震の規模を示すマグニチュードは4.3、震源の深さは10キロでした。
元日におきた能登半島地震からまもなく半年ですが、いまだ地震活動が活発な状態が続いています。そんな中、3日には、震度5強の揺れを観測する地震があり、関東や関西など広い地域で、「緊急地震速報」が出されました。
3日の能登半島での地震の実際の規模はマグニチュード6.0でしたが、緊急地震速報が発表されたときはマグニチュード7.4と推計されました。これは実はエネルギーで見ると、120倍以上となります。
このように大きな地震と推定されたため、関東や関西を含む26都府県56予報区に震度4以上の揺れが予想され「緊急地震速報」が出されました。しかし、実際には関東や関西での最大震度は2となり、大きな揺れは観測されませんでした。
それではなぜ、実際よりも地震の規模を大きく見積もり広い地域に緊急地震速報が出たのでしょうか?それには速報が出される“仕組み”が関わっています。
地震が発生した際には、早く伝わる小さな波の「P波(primary wave)」と遅く伝わる大きな波の「S波(secondary wave)」の、速度が異なる2つの地震波が発生します。
緊急地震速報というのは、このはじめに来る「P波」を瞬時に解析して、より大きな揺れの「S波」が来る前に警告するものになります。発表基準としては、予想される地震が震度5弱以上の場合に、震度4以上の揺れを予想した地域に出されます。
■3日の能登半島地震、2つの特徴
気象庁によると、3日の地震を分析すると、いくつかの特徴があったと言います。まず、今回の地震は約1秒という短い時間で2つの地震が発生しました。このため地震波が混ざり、P波とS波を、分けることが難しくなりました。
さらにもう一つの特徴は、今回の地震が能登半島の“先端”でおこったことです。
図は3日の地震の震源と、地震の揺れを拾う「観測点」の位置です。能登半島の東側は海域のため観測点がなく、周囲の観測点は西側に偏っています。緊急地震速報は、地震発生の数秒後、地震がまだ起こっている段階であっても自動計算して出すため観測点が偏り不安定な状況でもまずは発表されます。その結果、当初は震源が本来より20kmほど南東側にずれて出されました。
地震の規模を示すマグニチュードは、観測点と震源の距離、そしてそこで検知した地震の波から計算するものです。今回は最初、震源がずれて計算されたため、観測点で本来は、遅くて大きい「S波」として扱うべき波を、早く小さい「P波」として扱ってしまい、マグニチュードを実際より大きく推計することになりました。
■緊急地震速報、改善の歴史
2013年8月、和歌山県で小さな地震が発生したのと同じタイミングで三重県の地震計にノイズが入り、結果コンピューターが巨大地震が発生したと判断して関東甲信から九州など広域に緊急地震速報を出したことがありました。このときは、鉄道も一時ストップするなど混乱がおこりました。
こういった事態を回避するために、現在は「IPF法(=Integrated Particle Filter法)」という、遠くで同時発生した地震を分ける手法が使われています。
ただ、今回はほぼ同じ場所で同時に揺れが起きたことで、どうしても分けることが難しくなりました。一方で、気象庁は、今回のような要因が重なることはまれであって、速報の手法を変更する予定はないとしています。
緊急地震速報は、地震を感知して即座に出すため、今回のように過大に出してしまう事もありますが、その精度は約8割とされています。速報が出たらすぐに身を守る行動を取ることが重要です。
地震の専門家で、環境防災総合政策研究機構の草野富二雄さんは、速報が出た場合には、「自宅にいる場合には、タンスやコピー機、本棚など大きく重いものから頭を保護する」「外出先では、エレベーターの中なら最寄りの階で止めて降りる。ブロック塀や自動販売機から離れる」ことが重要だと話しています。
さらに、事前に「もし緊急地震速報を聞いたらと頭の片隅に置いて、行動をシミュレーションしておくと良いのではないか」として、日頃からの備えを促しています。