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能登の復旧阻む「断水」 過去より目立つ“遅れ” 宿泊も再開できず…入れぬボランティア【武居信介の防災学】

2024年4月17日 6:22
能登の復旧阻む「断水」 過去より目立つ“遅れ” 宿泊も再開できず…入れぬボランティア【武居信介の防災学】
石川・珠洲市での水道管復旧工事の様子(写真:名古屋市上下水道局提供)
2024年元日に発生した能登半島地震から3か月あまり経ってもインフラの復旧がなかなか進まず、水道に関しては3月末の時点でも約7860戸で断水が続いており、被災者の生活に大きな影響を及ぼしています。東日本大震災の際には約3週間で水道は復旧。熊本地震では約1週間で一部の困難な箇所だけを除いて断水がおおむね解消したことと比較すると、能登での復旧の遅れが目立っています。

電力の復旧でも、能登ではほぼ復旧するまでにおおむね1か月かかりましたが、熊本地震では本震から約5日後には停電が解消していました。なぜ、このように能登半島地震ではインフラの復旧が遅くなったのでしょうか。

■迂回路もほとんどなく… 救援・復旧の車両も動けず

元日に発生した能登半島地震はマグニチュードが7.6と非常に大きく、阪神・淡路大震災の2倍以上のエネルギーが放出されたことから、道路や電気・水道といったインフラの被害は甚大なものでした。特に道路の損壊は大きく、斜面崩壊、地すべりなどが多数発生しました。

もともと半島で道路が少なく、迂(う)回路がほとんどない地域だったため、車での移動が極端に制限されることになったのです。このため、救援や復旧の作業のための車両も自由に動くことができず、現地での早い時期の救援活動が停滞する結果となりました。

■水道に何が起きた? 復旧が遅い理由とは…

そしてインフラの中でもとくに復旧が遅くなったのが水道です。

地図の「赤い部分」は地震発生から3か月が経過した4月1日現在で断水が続いている地域。「薄い青の部分」は、まだ一部しか通水ができていない地域です。特に珠洲市の復旧状況が遅く、3月末の段階で市内のほぼ全域に達する約4250戸で依然として断水が続いています。

断水によって被災住民は、“水が飲めない”、“食事を作れない”、“トイレを流せない”、“お風呂に入れない”、“被災家屋などの片づけをするにも水で流すことができない”といった状況が続きました。さらに、断水の影響は病院でも深刻な事態となります。水が自由に使えないと衛生面での管理が厳しくなるうえ、人工透析をするには大量の水が必要で、こうした治療も被災地ではできなくなってしまうのです。

■水が出ないため応援も自由に入れず…

現地で支援活動やボランティアをする人にとっても、能登半島でインフラの機能停止が、現地に入っての活動に大きな制限が生じる結果となりました。

能登では、断水に加えトイレもなかなか復旧しないことなどから、宿泊施設は全くと言って機能しませんでした。救援に入る人たちは能登に泊まって活動することができないままに時間が経過してしまったのです。

過去の全国の災害では、被災エリアの比較的近くにインフラが影響を受けていない地域があったことから、そこに宿泊して活動ができたケースが多かったのですが、能登半島地震では大半の人が遠く離れた金沢市周辺のホテルなどに宿泊して毎日車で現地に通うこととなりました。金沢付近からの往復により毎日長時間の移動が必要となるので、現地での活動の稼働時間が大幅に減少する結果となって復旧作業などの遅延につながりました。

水道の復旧は、なぜここまで遅くなってしまったのでしょうか。

応援で珠洲市と七尾市で水道の復旧にあたっている名古屋市上下水道局の担当者によると、復旧が難しい点としてまずは応援に入るための道路や宿泊場所の確保などの問題があったといいます。それに加え、今回の地震では浄水場や配水池も大きく被災してしまった点も大きかったといいます。近年に日本で起きた地震では、浄水場がここまで被災するケースはなく、浄水施設を一から復旧し直していく必要がありました。

さらに、浄水場を復旧させていっても、配水池に水を送る送水管やそこから各地域まで水を送る配水管でも水漏れを起こす被災箇所が次々に判明していきます。水を通すためには少しずつ水道管に水を流してみて、水漏れを起こしている箇所を探しては修理する作業を繰り返す必要があり、この繰り返し作業がかなりの時間を要したということです。

この背景には、能登地方の水道管の耐震化が進んでいなかったことが挙げられます。市町村ごとの水道管全体の耐震化率は、輪島市が7.4%、珠洲市が19.1%、七尾市が4.9%となっていました。耐震化が進んでいれば、ここまで修理に手間取らなくてもよかった可能性があるといいます。

地震大国日本ではいつ次の大きな地震が発生してもおかしくありません。果たして地震発生時に全国の水道は大丈夫なのでしょうか?

水道の地震対策としては、主要な管路を「耐震管」に整備することがあげられます。「耐震管」とは、地震が起きても水道管の継ぎ目の接合部分が離脱しないようになっており、災害時でも水が漏れてしまう箇所が少なくなり復旧作業はかなりスピードアップされるといいます。

しかし、全国の水道事業者が参加する日本水道協会がまとめた令和3年度の水道統計によると、全水道管の耐震化率は全国平均で、19.0%にすぎません。

巨大地震が想定されている地域を都道府県別にみると東京都が47.0%、静岡県が22.0%、愛知県は23.3%、三重県は13.3%、和歌山県が20.5%、徳島県は15.2%、高知県12.1%、大分県と宮崎県12.9%と、東京以外では能登地方と同様に耐震化が進んでいないことがわかります。

■100%の耐震化「いまや非現実的」 まずは30%の達成を…

能登半島地震の国交省の上下水道の対策検討委員会の委員でもある名古屋大学の平山修久・准教授によると、「耐震化の全国の状況はかなりまずい状況だ。南海トラフの地震が今起きると能登と同じような状況が各地で起きることになるだろう。半島などの地域では、同じように救援部隊が入れずに長期間にわたって復旧ができないことも想定される。少なくとも水道管路全体の耐震化率を30%までは進めておくことが必要だ。耐震化率が30%あれば、ある程度の被害にとどめることができる可能性がある」と指摘します。

さらに、耐震化を進めるには専門の技術者による設計や施工管理などが重要ですが、水道技術者の不足も指摘されています。全国の水道の技術職員は、1990年には2万5858人いましたが、2021年には2万661人と約2割も減少しています。

また、費用面での課題もあります。日本の人口が減少しつつあるため、今の水道施設をそのまま維持するには水道料金の値上げが必要となってくるのが現状です。そこに水道管の耐震化の経費を上乗せしていくことは、利用者の理解を得るのがなかなか難しいといいます。

平山准教授はさらに、「耐震化だけでなく、老朽化した管路が放置されている問題もある。全国の全管路の22.1%が法定耐用年数を超えてしまっているのが現状だ。水道事業の経営の状況や技術者の確保の難しさなどから“100%の耐震化”は、いまや非現実的だ。とはいえ、せめて巨大地震が起きる前に耐震化率30%を達成しておかないと、日本は厳しい状況に置かれることになる」と話します。

■都市部ではさらなる課題も

さらに、人口が多い都市部では高層ビルでの水の確保が大きな課題になると見られています。地震後にたとえ水道が通っていても、停電すると水を上層階までくみ上げるポンプが動かなくなって、ビル全体で断水が続く可能性が高くなります。停電などでエレベーターもなかなか復旧せず、上層階まで水をあげることも大きな課題となります。

また首都直下地震の場合や、南海トラフの地震の大阪や名古屋といった大都市では、人口が多いことから給水すべき水の量は膨大なものとなります。水道統計によると東京都の場合、1人1日あたり平均で305リットル、都内全体では1日に416万8000立方メートル(※1立方メートルは1000リットル)もの水が供給されています。災害時には飲料水だけでもこの百分の一の量は必要となりますが、これだけの水を各地に配るためには、給水車をいかに手配していくのか、全国からの応援が駆け付けるにしても広域に分散せざるを得ないので、どれだけ対応できるかも大きな課題です。

東京都が公表している「南海トラフ巨大地震対策《全国の水道事業体に向けた提言》」では、首都圏には断水時に給水車での対応が必要となる医療機関が多数あり、東京都だけでも 1000を超える病院や人工透析施設などを抱えているとして、南海トラフの巨大地震や首都直下地震が発生した場合には、「給水車の不足等も相まって、これまでに経験したことのない断水を起因とした多くの人命が危機に直面するおそれがある」と指摘しています。

■事前に備える方法は 能登では「プールの水」も使用

水の利用目的としては、飲み水や料理に使う飲料水と、洗濯、トイレやお風呂といった生活用水に分かれます。

飲料水は給水を受けるしか方法はありませんが、生活用水はそこまで厳密にろ過されていることは求められていません。阪神大震災でも、東日本大震災でも、多くの市民が学校のプールにたまっていた水をトイレなどの生活用水に使ったり、近くを流れる川から水を汲んだりして使っていました。

また、災害時には井戸を活用する方法があります。阪神大震災を経験したマンションの住民の自治会が、マンションの敷地内に自分たちで井戸を整備していざという時のために備えているケースもあります。全国各地の自治体では一般家庭などにある井戸を「災害時協力井戸」として登録しておいてもらい、災害時に活用しようという動きもあります。

東京でも公園に災害用の井戸を整備したり、学校などに井戸を整備したりている地域もあり、災害時の利用を進めようとしています。自宅の近くにはどこに井戸があるのか確認しておくことも大切です。

また、日本赤十字は海外の活動でも使用する水の浄化装置を能登半島地震の際にも現地に持ち込み、プールの水を浄化して使用しました。こうした浄化装置は小さなものも販売されているので、自治体や地区の自治会などで準備しておき、川の水などを有効に利用していくことも検討の余地があるといえます。

そして家庭では、飲料水については、数日間は自前の備蓄でまかなえるように準備しておくことが重要です。自宅に家族で必要な量を常に備蓄しておき、普段に飲んでしまったら新しいものを買って入れ替えておく「ローリングストック方式」がおすすめです。

さらに、いつもお風呂に水をためておくようにすることで、いざという時に生活用水としてしばらくの間は利用できることになります。

■災害時には「自立して生き延びる」ことへの発想の転換が必要だ

能登半島地震の被災エリアの人口は20万人ほど。首都直下地震や南海トラフでの地震が起きた場合、被災者は能登の100倍以上と、けた外れの被害になるとみられています。

次の地震では全国からの救援部隊が自分のいる場所に必ず駆け付けてくれるということは想定しづらく、被災が想定される地域の人たちは災害時にいかに自分たちの力だけで生き延びることができる方策を模索できるのか、今のうちからしっかり想定して備えを進めておく必要があるといえます。

■筆者プロフィル

元中京テレビ報道局担当局次長。気象予報士であり、国土交通大臣委嘱「気象防災アドバイザー」として活動も行う。現・名古屋大学減災連携研究センター研究員。

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