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【首都直下地震シナリオ⑤】多くの人が帰宅困難に…どう対処したらよいのか?

2022年8月18日 10:20
【首都直下地震シナリオ⑤】多くの人が帰宅困難に…どう対処したらよいのか?
内閣府制作のVTRから

首都直下地震が発生した時どのような事態になるのか、東京都が10年ぶりに想定を見直して新たに地震後のシナリオが示されました。特に地震が日中に発生すると膨大な人たちが自宅に帰ることができず、帰宅困難者となると想定されています。人があふれる沿道などではどのような状況になるのでしょうか?

■首都直下地震発生で都内では約453万人もが帰宅できなくなる!

首都直下地震の発生直後には、東京駅や品川駅、新宿駅、渋谷駅、池袋駅をはじめとするターミナル駅に膨大な人達が情報や当面の間の居場所を求めて殺到してきます。訪日外国人や都外からの観光客などの多くは、駅周辺の地理的な情報をしっかり理解していないために、避難誘導などが困難となり混乱に拍車をかけることになります。駅構内で混雑による群集雪崩などが発生する危険性も指摘されています。

そして、東京周辺の公共交通機関が地震で広域的に運行を停止するため、都内は帰宅できなくなった人たちであふれることになります。行政からは、職場や学校、ホテルなどの宿泊先や一時滞在施設などに留まるよう呼びかけが行われますが、通信の途絶などによって家族の安否が確認できず、多くの人々が徒歩や自転車で自宅に帰ろうとすると見られています。

帰宅困難者は、多くの人が外出中の昼間に地震が起きた場合に最大となる想定で、東京都市圏に住む人は自宅までの距離が10km以内の場合は全員が帰宅することが可能としてみても約415万人が帰宅困難となります。さらに東京以外の地方や海外からの人は約37万4000人で、合計で最大約453万人が帰宅困難になると想定されました。そして、オフィスビルなどでは停電のために窓の開閉ができず、夏場に空調が停止した場合には暑くて滞在が困難となり、さらに多くの従業員や施設利用者が路上に溢れ出すこともあるということです。

■帰宅途中には危険が潜み、帰宅困難者があふれて救助活動に支障を招くことも…

自宅まで10キロ圏内という人は自宅に帰ると想定されていますが、途中の道路などでも危険がいっぱいです。余震によって看板が落下してきたり、延焼火災などの二次災害に巻き込まれたりすると、けがなどの危険もあります。停電により、夜間は街灯が消えて真っ暗な状況となり、信号が作動せず交差点などで人と車両の大混雑が発生します。歩いて帰ろうとする人たちは歩道だけではなく車道にもあふれ出します。

さらに路上に駐車したままの車両があると走行車線側にも人があふれ出すため、自動車の通行を妨げる結果となり渋滞が助長されることになります。こうして道路上の混雑によって救命救急、消火活動などに著しい支障がでるものと想定されています。東京都では救命活動で命を守ることができるデッドラインの72時間は救命活動をスムーズに進めることを最優先にするため、災害時はむやみに移動せずに職場や学校などで3日間は待機するように呼びかけています。

■帰宅できない人たちは一時滞在施設へ

スーパー・コンビニなどは被災によって利用できなくなる場合もありますし、営業を継続する店舗でもすぐに在庫が売り切れてしまい、帰宅途中に飲み物などを購入することもできなくなってしまいます。停電や断水などによって公共施設やコンビニなどのトイレが利用できなくなってしまいます。

こういう状況の中、帰るのをあきらめた人たちは一時滞在施設などに避難することになります。一時滞在施設とは、帰宅困難者を一時的に受け入れるように自治体が準備している施設で、食料、水、毛布又はブランケットを提供してくれるほか、トイレや休憩場所もあり、テレビやラジオなどでの情報についても提供してくれることになっています。東京都の場合では、2022年1月現在、都立の施設など1155か所が確保されていて、3日間程度は一時滞在を受け入れてくれる計画になっています。

しかし帰宅困難者が一時滞在施設などに多数殺到し、周辺が混乱する可能性もあるので注意が必要です。その一時滞在施設も完ぺきではなく、非常用電源等が整備されていない一時滞在施設では停電によって空調が停止し、季節によっては滞在継続が困難になることも想定されています。

さらに断水や排水管の支障などにより、水洗トイレが利用できなくなるケースもあるとしています。また、一時滞在施設の場所がわからず、小中学校などの分かりやすい避難所へ帰宅困難者が多数訪れることも想定されています。

■通信もままならず、安否確認がなかなかできない

地震直後には家族の安否を知りたいと通信が集中して発生すると見られていますが、通信の集中によって輻輳が発生して通信は大幅に制限されることが想定されます。音声通話はつながりにくくなり、メール、SNSなども大幅な遅配が発生することになる見込みです。災害時にも通話がしやすい公衆電話ですが、公衆電話の設置数はこの10年間で半減しており、残された公衆電話には長蛇の列が発生するのは必至です。

こうした中、通信各社によって災害用伝言ダイヤル(171)、災害用伝言板(web171)など運用が開始されます。そして、時間の経過とともに帰宅困難者の持つ携帯電話・ス マートフォンなどのバッテリーが切れ、家族等との連絡や安否確認がさらに困難となります。

■地震から1日経っても帰宅困難は解消されない…

地震発生から1日経っても公共交通機関が復旧しないため、一時滞在施設などに滞在を余儀なくされる人が多いと想定されます。子供たちを預かっている保育園などでは、保護者が迎えに来るまでは子供を預かることになりますが、1日後でも帰宅困難者が多くいる状況が継続することから、保護者らが保育園などに子供を迎えに行けない状態が続き、保育士たちも帰宅できずに保育園などに留まり続けることになります。地震から数日が経つと鉄道も再開する動きが出てくると想定されていますが、運行を再開した区間では駅やその周辺に多くの人々が殺到してしまいます。鉄道がストップしている区間では、バスなどによる代替輸送も開始されますが、道路が寸断されていたり交通規制されたりすることによって代替輸送も厳しい状況です。

こうして道路・鉄道の復旧が長期化する地域では、勤務先、通学先や一時滞在施設などでの滞在期間も長期化することになります。そして、ライフラインの停止が継続した場合、一時滞在施設などでは飲食料やトイレなどの滞在環境の確保が困難になってしまいます。

計画停電も実施されるかもしれず、発電機の燃料が枯渇した場合には、テレビやスマートフォンによる情報収集や、照明、空調などの利用が困難になってしまいます。停電で空調が利用できず、 熱中症や脱水症状になったり、寒さから風邪をひいてしまったりして体調を崩す可能も指摘されています。こうした状況が想定されることから、企業などでは従業員が一時滞在できるように備蓄をするなどの準備や、個人でも歩いて帰宅するときのための運動靴を職場においておく、帰宅ルートを事前に確認しておくなどの準備も大切になります。

なお、東京都が公開している「東京都防災マップ」のホームページでは、歩いて帰る人たちに水道水やトイレなどを提供してくれる災害時帰宅支援ステーションや、一時滞在施設などの情報が検索できます。https://map.bosai.metro.tokyo.lg.jp