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【首都直下地震シナリオ③】避難所ではどのような生活になるのか?

2022年8月12日 19:00
【首都直下地震シナリオ③】避難所ではどのような生活になるのか?
都心南部直下地震の震度分布

首都直下地震が発生した時の想定を東京都が10年ぶりに見直し、避難生活について新たなシナリオが示されました。最大299万人が避難するという「都心南部直下地震」。多くの人が避難所に避難することになりますが、そこでの生活はどのようなものになるのでしょうか?

■避難者は都内全体で最大299万人を上回る想定に

地震発生後、自宅の倒壊やライフラインの途絶などにより自宅で生活を続けられなくなった多くの住民は、区市町村が指定する学校などの避難所に避難することになります。特に大規模な延焼火災や、急傾斜地の崩壊など広域で甚大な被害が発生した地域では、地域の大半の住民が避難することになります。そして、地域内の避難所が被災して使えなかったり、避難者が多すぎて収容できなくなったりした場合には、多くの人たちが自宅から離れた周辺の避難所に避難先を求めることになります。さらに、余震が続いた場合は、自宅の建物に被害がなくても不安などから一人暮らしの高齢者や中高層階の居住者などを中心にさらに多くの住民が避難所へ避難しようとすることになります。

また地震から数日経つと、断水や、スーパーやコンビニなどでの生活必需物資の品切れによって自宅に留まっていた住民も備蓄を使い果たしてしまい、避難所への避難を求める人たちがさらに増えてくるものと想定されています。こうして多くの人が殺到して避難所に入りきれなくなった人たちは、さまざまな公的施設や公園、空地、それに親戚・知人宅など、避難所には指定されていない場所に避難することになります。

地震から4日から1週間後に避難者数は最も多くなり、「都心南部直下地震」の場合には都内全体で299万人を上回る想定です。

■地震直後の避難所とは  停電などで様々な支障が出て環境は徐々に悪化

避難所では避難スペースや水や食料などの物資が不足する可能性もでてきます。地震直後からスーパーやコンビニ等の生活必需品はすぐに品切れとなり、帰宅困難者なども避難所へ飲みものや食料を取りに訪れるため、避難所の物資は早期に枯渇する場合があります。そして、地震発生から1週間までに避難所に避難している人などへの必要な物資は最大で食料は約4,700万食、飲料水は約6,800万リットル、毛布は約400万枚が必要になると見積もられています。

しかし避難所に十分に配送されないことによる水や食料などの物資の不足が心配されます。東京都の震災対策条例では自動車による避難を禁止していますが、実際には自動車で避難してくる住民が多く、避難所となる学校のグラウンドが自動車でいっぱいとなる可能性が指摘されます。また、避難所に避難していた医療関係者によって看護や、避難所医療救護所の医師・看護師により負傷した避難者の応急手当てが実施され、避難所が住民の救護の拠点ともなります。

環境の悪化が心配です。ごみ収集・し尿処理収集の遅れなどによって、避難所の生活ごみやし尿が回収されないために避難所の衛生状態は急速に悪化していきます。
非常用電源が配備されていない避難所や、非常用電源の燃料が枯渇した避難所では電気がストップしてしまいます。停電が続くとテレビなどが利用できないため情報収集にも支障をきたしますし、避難者の持つ携帯電話・スマートフォンのバッテリーが切れて家族との連絡や安否確認も困難となってしまいます。

さらに夜間は真っ暗となり、暖房・冷房が機能しない状況下での避難生活を余儀なくされることになります。また、避難所情報の管理に用いるパソコンなどが利用できなくなって、避難者数や避難者の安否、滞在場所、物資のニーズなどの把握も困難となってしまいます。避難所に避難した要配慮者に必要なケアが行き渡らない事態も想定されます。

■長期化するとトラブルも発生し、環境はさらに悪化

避難生活が1週間も経つと、避難している人たちはプライバシーの確保が不十分な環境の中でニーズが充足されず、避難所での生活環境への不満が積もって様々な不安やストレスを抱えることになります。こうして避難所の生活ルールやペットに関するトラブルなどが増加してきます。さらに避難所の物資の大量持ち帰り、部外者の出入りや避難者の無断撮影、盗難、暴力行為や性犯罪といった様々な犯罪やトラブルも発生すると想定されています。

避難生活も1か月ほど経つと避難所を整理しようという動きも出てきますが、「自宅の様子が知りたい」「生活基盤のある土地から離れたくない」「子供を転校させたくない」「遠いと通勤・通学に時間がかかる」などの理由から避難者が自宅近くの避難所に留まり続けることも想定されます。すると、避難所となっている学校の体育館やグラウンドなどの一部施設が利用できないなど、施設の利用再開に支障が生じるケースが想定されます。

一方、このころには公的住宅やいわゆる「みなし仮設住宅」(賃貸型応急住宅)の提供や、「仮設住宅」の建設が開始されることになります。

■避難生活では健康維持が大変に…

避難所では冬は寒く、夏は暑くて熱中症の危険があるうえ衛生上の問題が発生するなど、避難所での生活環境が悪化して様々な健康面での課題が浮き上がってきます。避難所で長時間座っていたり、車中泊が続いて就寝時に心身にストレスがかかったりすると、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症し、治療が遅れた場合は死亡する場合があります。

避難生活中に、水不足や歯ブラシなどの衛生用品の不足から、口腔内に病原菌が発生することで誤嚥性肺炎を発症し、治療が遅れた場合は死亡する場合があります。体力のない高齢者や子供を中心に、インフルエンザ・ 新型コロナウイルス・ノロウイルスなどの感染症のまん延も指摘されます。避難所の清掃が行き届かず、ほこりが舞うことによって気管支炎を発症し、特に喘息等の既往症を有する人は症状が悪化する可能性があります。

避難所で配布される弁当等の食料を、自ら保管して時間が経過してから食べた場合、食中毒を発症する場合があるので注意が必要です。また、感染症まん延下で地震が発生した場合には避難所の生活環境改善に資する物資(段ボールベッド、屋内テントなど)が不足する可能性があるとしています。

このように高齢者や既往症を持つ人などは避難所などの慣れない環境での生活によって病状が悪化したり、体調を悪化させて発症したりして死亡する「震災関連死」の可能性も指摘されます。