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「一番大切な持ち物は…」 高校生が作った“防災リュック” 震災を知らない子どもたちへ【東日本大震災13年の“あれから”】

2024年3月1日 13:57
「一番大切な持ち物は…」 高校生が作った“防災リュック” 震災を知らない子どもたちへ【東日本大震災13年の“あれから”】

岩手の県立高校に通っていた小野寺麻緒さんは高校2年生のとき、企業に協力を求め、「子ども向けの防災リュック」を作りました。震災を知らない子どもたちに防災の知識を伝え、災害に備えるきっかけにしてもらうために―――。1年前、麻緒さんは、県内の高校生が自分の研究を発表する場で「一番大切な持ち物は命」と訴えていました。

2024年春、大学生となる麻緒さん。1人で活動を続けてきましたが、社会人や大学生の仲間ができ、一緒に、地元の子どもたちに防災の大切さを伝える授業をしています。

■震災を知らない子どもたちに防災を伝える

震災で1800人を超える命が失われた岩手・陸前高田市。市内にある高田高校の全校生徒358人のうち、1割の生徒は親や兄弟を亡くし、3割の生徒の家が被災しました。小野寺麻緒さんは、5歳の時に津波で家を流され、避難生活を余儀なくされました。

その経験から、総合学習の時間を使って「子ども向けの防災リュック」の制作に取り組んできました。震災を知らない子どもたちに防災の知識を伝え、災害に備えるきっかけにしてもらいたいという思いからです。

■仲良かった子たちも突然いなくなっちゃって…

構想から1年、リュックが完成しました。障がいのある作家のアート商品を展開する県内の企業「ヘラルボニー」に自ら協力を依頼。知的障害のある陸前高田市の画家、田﨑飛鳥さんの絵を麻緒さんが選び、「2011年3月11日」の日付も記されています。

小野寺麻緒さん
「防災リュックっぽくない防災リュックをめざしました」
「こういうおしゃれなデザインにしたら、普段使いもできるし、楽しく防災を学べるかなと思ってこういうデザインにしました」

リュックは市の助成金を活用して作った非売品。市内の高田小学校の1年生に配り、中身を一緒に考える授業をする際、教材として使う予定です。なぜそこまでして防災の大切さを伝えたいのか。

小野寺麻緒さん
「幼稚園の友達なんですけど…。すごい仲良かった子たちも、突然いなくなっちゃったから…」
「いまでも辛いし、悲しくなるんですけど…。それでもやっぱり前をむいて歩いていかないとなって思っているので、活動はそういう気持ちが大きくて始めようと思いました」

■空腹や寒さ…生まれたばかりの妹と避難所で

「命を守りたい」という強い思いの源は、5つ下の妹・小学6年生の紀乃(きの)さんです。遊ぶときも勉強するときも2人はいつも一緒。紀乃さんは、震災のおよそ2か月前に生まれました。

家を津波で流され、生まれたばかりの紀乃さんと避難所で過ごした当時5歳の麻緒さん。その時の空腹や寒さ、不安な気持ちはいまでも覚えています。

小野寺麻緒さん
「本人(紀乃さん)も赤ちゃんだから覚えていない。覚えていないって言うのは体験していないとほぼ同じようなことだから、妹をその自分がつくった防災リュックで守りたいって思うのはあります」

妹の小野寺紀乃さん
「リュックを作るきっかけに、私が入っててびっくりしたし…。嬉しいなって思いました」

■「子どもに災害のことなんてわかるの?」

2023年1月、県内のおよそ80人の高校生が自分の研究を発表する学びの祭典に、麻緒さんは防災リュックを広めたいと参加しました。グループに分かれて、他校の生徒や保護者の前で1人ずつ発表します。妹・紀乃さんや姉・海衣(みい)さん、両親も駆けつけました。麻緒さんは緊張しながらも防災リュックを披露しました。

小野寺麻緒さん
「私がこの活動をしていて大変だったことは、『被災していない子どもに災害のことなんてわかるの?』『難しいんじゃない?』と前向きじゃない人たちがいたことです。自分自身も震災のことをどう伝えようかかなり悩みました」

麻緒さんには、それでも諦めずに伝えたかったことがありました。

小野寺麻緒さん
「私がこの場にいる皆さんにも、子どもたちにも伝えたいのは、“一番大切な持ち物は命”だということです」
「災害がきた時、誰かが自分を守ってくれるわけでもないし、ヒーローが助けに来てくれるわけではありません。自分の命を自分自身で守り、災害に備えていくことが大切だと思いました」

拍手で終わった発表。その後、話を聞いた他校の生徒から「頑張ってください!」などと、応援の声を次々にもらいました。麻緒さんにとっても、活動の励みになったようでした。被災した高校生が1人で始めた命を守る取り組みは、まだ始まったばかりです。

(※2023年1月26日にテレビ岩手の「海街リポート」で放送されたものを再編集しました)

【取材したテレビ岩手・江口アミアナウンサー 2024年3月に思うこと】

その後、震災後に生まれた地元の小学1年生に、特別授業で防災リュックをプレゼントして、備えることの大切さを伝えた麻緒さん。授業を聞いたある女子児童は家に帰ると「防災グッズをそろえて地震に備えたい」と母親に言いました。

震災で大切な友人を亡くした悲しみから、当時の記憶にフタをしてきた母親は「伝えていかなければならないと、高校生の麻緒さんに教えられた」と、初めて我が子に津波の恐ろしさや逃げることの大切さを伝え、一緒に防災グッズを買いに行きました。「命を守ってほしい」。麻緒さんの願いも、子どもたちは背負っています。

1人で活動してきた麻緒さんにはいま、同じ思いで防災の大切さを伝える社会人や大学生の仲間ができ、一緒に地元の子どもたちに授業をしています。春からは大学生で初めての一人暮らしをする麻緒さん。環境は変わりますが、これからも変わらずに、震災を知らない子どもたちへ伝え続けます。

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