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座間9人殺害事件 ある女性の捜査協力とその後

2020年9月26日 10:29
座間9人殺害事件 ある女性の捜査協力とその後

「事件後、娘は亡くなっているんです。死にたいと・・・」

2017年、神奈川県座間市のアパートから切断された若い男女の遺体が次々と見つかった座間9人殺害事件。

実は事件解決の陰には男の逮捕に協力した1人の女性、A子さんの存在があった。しかし事件後、A子さんが自ら命を絶っていたことが日本テレビの取材でわかった。

女性は生前、何を語り、なぜこの世を去ったのかー

今月30日からの初公判を前に、A子さんの母親が初めて取材に応じた。


■被害者の兄のSNSでの呼びかけ

SNS上で自殺願望を打ち明けていた若者たちが、次々と行方不明になり、その後、変わり果てた姿で発見されたこの事件では、現場アパートの住人だった白石隆浩被告(当時27歳)が逮捕された。

白石被告は2017年8月からの約2か月間に、女子高校生3人を含む当時15歳から26歳までの男女9人を殺害し、遺体を解体。強盗・強制性交殺人や強盗殺人の罪などに問われている。

世間を震撼させた事件が発覚したきっかけは、9人目の被害者となった女性(23)の兄がSNS上で行ったある情報を求める呼びかけだった。

「とあるユーザーに妹がダイレクトメッセージで連絡しました」
「トントン拍子で話しは進みその4時間後には駅で合流してしまったみたいです」

この書き込みに返信したのが、当時30歳の女性A子さんだった。

「妹さんがやりとりしていた相手は、私が会った男と同じかもしれない」

白石被告とSNSでのやりとりのほか、実際に会って食事をしたこともあったA子さん。

当時は、白石被告の本名は知らず、わかっていたのはSNS上のアカウント名だけだったが、女性の兄と連絡をとりあい、警視庁にも情報提供をしたという。

■「おびき出し作戦」で現場アパートを特定

A子さんからの連絡を受け、警視庁はある作戦に動いた。

白石被告をおびき出すため、A子さんにお願いして白石被告とJR町田駅での架空の待ち合わせの約束をしてもらったのだ。

「行けなくなりました」

約束通り町田駅にやって来たものの、A子さんから「ドタキャン」のメッセージを受け取った白石被告。

張り込んでいた捜査員はその後、改札方向に移動を始めた白石被告の尾行を開始。ついに前代未聞の凶行の舞台となった自宅アパートの特定に至ったのだ。

捜査員が室内に踏み込んだ際、行方不明になっていた女性の居場所を尋ねられた白石被告は、クーラーボックスを指さし、こう語ったという。

「この中です」

そこからは2人の切断された頭部が発見され、さらに他のクーラーボックスなどからも次々と別の被害者の頭部がー

事件が発覚した瞬間だった。


■「カレーライス」を食べる姿に違和感

A子さんと白石被告との最初の接点も、事件の被害者と同様、SNSだった。

事件発覚の6日前、「死にたい」などと書き込んだA子さんに対し、白石被告が接触し、町田駅近くのファミレスで初めて会った。白石被告は、自らも自殺志願者だと語り、2時間ほど会話をした上で、A子さんを自宅に誘ったという。

しかし、A子さんはほかの被害者とは違い、自宅についていくことはなかった。

「A子さんはファミレスで白石被告にカレーライスをおごらされ、それを元気な様子で食べる姿に「何か違う」と違和感を覚えたようだ。本当に自分と同じ自殺志願者なのか?と」
(捜査関係者)

実際、A子さんの「違和感」は的中した。

白石被告は、逮捕後の取り調べで、被害者らに接触した際のSNSについて、「自殺願望があるかのように書き込んだが、自殺をする気はなく全部ウソだった」と供述。
動機については「現金を奪い、乱暴する目的で襲った」と話したという。

■取材依頼への「返答」

今回、日本テレビは初公判を前に、事件を振り返り、今の思いを聞くためA子さんに手紙で取材を申し込んだ。後日、記者のもとに1本の電話がかかってきた。それはA子さんではなくA子さんの母親からだった。

「事件後、娘は亡くなっているんです。死にたいと・・・」

A子さんは事件後、程なくして自ら命を絶っていた。病気を患い苦しんでいたという。

A子さんは、白石被告に会った時の印象を母親に語っていた。

「娘は彼(白石被告)について『普通の人とは違って、ちょっと異質なものを感じた。とにかく暗い』と言っていました」
(A子さんの母親)

また、警視庁の「おびき出し作戦」に協力し白石被告が逮捕された時には、喜んだ様子だったという。

「『ここで止めなきゃいけない』『捕まって欲しい』と思って協力したみたいです。逮捕については、被害者の方はもちろん、彼(白石被告)本人にとっても良かったと、当時、2人で話しました」
(A子さんの母親)

しかし、A子さんは逮捕に協力した後、ほどなくして、自ら命を絶ったという。

「本人にしか死にたいと思う事情はわからないです。重さも感じ方も人による。最後は親でもわからないです。解決策はなかなか見つからないですね」
(A子さんの母親)

■SNS「自殺願望」投稿 どう向き合うか

今回の事件の被害者の中にも、周囲には一切、自殺への思いを
打ち明けることなく、SNS上だけに、その願望を吐露していた人もいた。

生きづらさを抱える若い女性の支援を続ける「BONDプロジェクト」は、以前は電話相談が中心だったが、今は、SNS上での自殺志願の書き込みにアプローチし、相談に乗る取り組みに力を入れている。

代表の橘ジュンさんは「自殺願望の投稿をする人は、危険な目にあうかもしれないと思いながらも話を聞いてくれる人、共感してくれる人を探しているケースが多い。投稿をやめさせようとするのではなく、安心して相談できる場所を用意することが必要」と話す。

30日から東京地裁立川支部で始まる裁判員裁判。白石被告は自らの口で何を語るのだろうか。

当時、この捜査に携わった捜査関係者はこう振り返る。

「A子さんの協力がなかったら白石被告のおびき出し作戦は成立せず、事件発覚にも時間がかかっていただろう。そうなれば、さらに被害者が増えていたかもしれない。A子さんは事件解決の最大の功労者だ」

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