不妊治療の“保険適用”で初調査 負担減のはずが…治療費が増えた人も 医療現場にも戸惑いの声
今年4月から、保険適用の対象が拡大された不妊治療。「金銭的なハードルが下がった」と歓迎する声が聞こえる一方、9日に公表された患者らへの調査からは、治療にかかる費用が保険適用前よりも増えた人がいるなど、新たな課題も浮き彫りとなりました。
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先月、一組の夫婦が都内の「浅田レディース品川クリニック」を訪れていました。
浅田レディース品川クリニック 浅田義正院長
「妊娠を希望されてから5年くらいたってるということなので、きょうは保険で『不妊症ですよ』ということを認定して、治療を始めていくということなんで」
不妊治療を始める夫婦(30代)
「わかりました」
夫婦は、保険を使っての不妊治療を始める相談に来ていました。今年4月から始まった不妊治療の保険適用。これまで原則自費だった人工授精や体外受精、顕微授精などが自己負担3割で受けられるようになりました。
不妊治療を始める夫婦(30代)
「金銭的なハードルは下がったかなというのが第一印象」
「3割負担の方が生活的にかかるものが少なくなるので、挑戦しようと思えるというか、通うきっかけになれたかなという感じですね」
こちらの夫婦は、保険適用を前向きに感じていました。
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9日、不妊治療の患者ら1828人を対象とした調査が公表されました。この調査では、4月以降に保険適用(3割負担)での治療をしていると回答した人の割合は47%。保険と先進医療を組み合わせた治療(一部3割負担)をした人と合わせると、7割以上が保険を使用していました。(※NPO法人Fine調べ)
一方で、治療にかかる費用は保険適用前よりも「とても減った」「少し減った」と回答した人は合わせて4割。しかし、3割ほどの人は「少し増えた」「とても増えた」と回答し、むしろ負担が増えていたのです。実は、保険適用が始まってから助成金制度が廃止となり、保険適用外の治療を選択すると「全額自費」になる人もいるのです。
取材した女性も、全額自費の保険適用外の治療を選びました。
自費で治療する女性(30代)
「保険で採卵もしてみたいとは思ってるんですけど、やっぱりデメリットとして“貯卵”ができない」
“貯卵”とは、複数の受精卵を凍結保存しておくことです。保険治療ではすぐに移植せず、将来の妊娠のための凍結保存はできないため自費になるのです。
仮に50万円の「体外受精」をする場合、以前は助成金30万円が使え、自己負担額は20万円でした。その助成金の代わりに始まった保険適用は3割負担ですむため、自己負担は15万円になります。しかし、保険適用外の治療を1つでも追加すると保険は適用されず、全額自己負担になるのです。
さらに、医療現場からは――
浅田レディース品川クリニック 浅田義正院長
「保険適用って最初から(薬の)用法用量が決まっているんです。『この人は(治療法を)こうしたい』が通用しないんで」
これまでは、薬剤やホルモン剤の量を医師が経験に基づき患者にあわせて調整してきましたが、保険適用の治療では使う薬などの量が決められているのです。
浅田レディース品川クリニック 浅田義正院長
「(患者に合わせて)一番成績が出る、しかも短時間で出るものは何かとずっと追求してきたのと、ちょっと逆行するというか、自分のところでやっていたことと、今回の保険適用にギャップがある」
保険適用の対象となる治療法などの見直しが行われるのは2024年度。より患者に寄り添った形が求められます。